前回、ねこ背になると転倒しやすくなるという大規模研究の結果をご紹介しました。
この報告を機に、ねこ背と転倒の研究はその要因分析へとレイヤーが移り変わります。今回は少しアカデミックなお話になりますがお付き合い下さい。
ねこ背はその進行によって大きく2つに大別されます。
まずは、健常なヒトの背骨を見てみましょう。ヒトの背骨は首から骨盤までの間に大きくS字を描きます。首の部分である頚椎が前弯(前に凸)し、その下の胸椎が後弯(後ろに凸)し、最後に腰椎が前弯(前に凸)することでS字が描かれます。
ねこ背はこの中の胸椎に過度な後弯(後ろに凸) 変形として生じてきます。その結果、体が前に曲がってきてしまうのです。
ところが、ヒトの体はよくできているもので、この胸椎の過度な後弯を腰椎の前弯によって代償し、体が前に曲がるのを防ごうとします。本当にヒトの体はよく出来てますね。この時期を胸椎後弯期としましょう。
しかし、腰椎でカバーできなくなってくると腰椎の前弯が減少してきます。これを腰椎の後弯化といい、腰椎がまっすぐになることからフラットバック(flat back)と呼ばれています。これを腰椎後弯期とします。
ねこ背になると転倒しやすいことは明らかになりましたが、それでは、転びやすい時期は胸椎が後弯する胸椎後弯期なのでしょうか?それとも腰椎が代償できずに後弯化する腰椎後弯期なのでしょうか?
その答えをIshikawa氏の研究結果を見ながらヒモ解いていきましょう。
reference)
Spinal curvature and postural balance in patients with osteoporosis
Ishikawa Y, 2009
研究の対象は、高齢者93名(平均年齢70歳)。
ねこ背を反映する角度①〜③を測定。
①胸椎の後弯
②腰椎の後弯
③脊椎の傾き
また、重心動揺計を用い単位軌跡長、矩形面積、外周面積、実効値面積などバランス検査7項目を実施。
その結果…
・胸椎の後弯はどのバランス検査とも明らかな関係性は認められなかった。
・腰椎の後弯はすべてのバランス検査との正の相関を認めた(r= 0.251–0.334)
・また、腰椎の後弯は脊椎の傾きと正の相関を示した(r = 0.692)
・さらに、すべてのバランス検査の結果は脊椎の傾きと正の相関を示した(r = 0.417–0.551)
バランス能力を低下させ、脊椎の傾きに影響を与えるのは、胸椎の後弯ではなく、腰椎の後弯であることが示唆されたとのこと。
いや〜これは驚きですね。
つまり、ねこ背になると転びやすくなる要因は、いわゆるねこ背とされる胸椎の後弯が大きくなることではなく、「どれだけ腰椎が後弯してしまったのか」ということになるのです。
ねこ背はねこ背でも、腰椎が後弯してしまう腰椎後弯期に転倒リスクが高まるんです。
ちなみに、ヒト以外の動物には腰椎の前弯がありません。
ヒトの腰椎の前弯は二足歩行を獲得するために備わったと言われています。
そうなると腰椎が後弯し、前弯が失われると二足歩行が不安定になり、転倒しやすくなることも頷けますね。
転倒予防のエクササイズには、胸椎のある体幹のみでなく、腰椎ならびに骨盤へのアプローチも重要になるでしょう。
次回は、どの程度、腰椎が後弯してしまったら転倒リスクが高まるのか?最近の知見を紹介しながら確認していきましょう。
ねこ背シリーズ
ねこ背シリーズ①:ねこ背になると歩き方も変わる?
ねこ背シリーズ②:ねこ背になると生活がつまらなくなる?
ねこ背シリーズ③:「背が低くなったんじゃない?」と言われた要注意!
ねこ背シリーズ④:ねこ背になると転倒しやすくなる 〜大規模研究による検証〜
ねこ背シリーズ⑤:ねこ背になると転倒しやすくなる 〜本当の犯人は?〜
ねこ背シリーズ⑥:ねこ背になると転倒しやすくなる 〜腰がまっすぐになると…〜
ねこ背シリーズ⑦:自分でねこ背を計る方法(前編:科学的根拠の確認)
ねこ背シリーズ⑧:自分でねこ背を計る方法(後編:C7PL2.0をやってみよう!)
ねこ背シリーズ⑨:ねこ背と骨盤の代償運動を理解しよう
ねこ背シリーズ⑩:なぜ、ねこ背になるのか?
ねこ背シリーズ⑪:ねこ背の原因は背筋の霜降り化?
ねこ背シリーズ⑫:ハイヒールを履くとねこ背になる?
ねこ背シリーズ⑬:ねこ背と柔軟性 〜腰椎の柔らかさが大事〜
ねこ背シリーズ⑭:ねこ背になると肩が上がらなくなる?
ねこ背シリーズ⑮:座る姿勢がねこ背の原因になる?
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