リハビリmemo

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変形性膝関節症のリハビリの新しい考え方


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 変形性膝関節症は、転倒と同様に健康寿命を損なう重要な要因のひとつであり、健康に楽しく長生きするためには予防すべき疾患である。

健康寿命から考える転倒予防

 

 変形性膝関節症のリハビリをリスクマネージメントの考え方から定義すると、「変形性膝関節症の潜在的リスクが顕在化する要因を洗い出し、影響度の優先順位に応じてリスク防止策を実行すること」となる。 

 

 では、変形性膝関節症の直接的なリスク要因は何のだろうか?今回は、近年の生体力学的研究から、変形性膝関節症のリスク要因について考察し、リハビリにおける新しい基本戦略を示してみたい。

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◆ Key wordは膝内転モーメント

 

 日本人に罹患数の多い、内側型変形性膝関節症(medial knee osteoarthritis:膝OA)の主病変である関節軟骨の性状は、力学的要因に影響を受けやすい(Andriacchi T, 2009)。軟骨表面に局所的なメカニカルストレス(機械的荷重)が集中すると一酸化窒素産出の増加と軟骨細胞のアポトーシスが生じ、膝OAの増悪につながる(Chen AF, 2008)。効率的に予防策を講じるためには、歩行時の膝関節内側部に生じる機械的荷重を測定し、把握する必要がある。

 

 しかしながら、歩行時の膝内側への荷重は観血的に測定することができない。これに対して、Ogayaらは、3次元動作解析により測定される膝内反モーメント(the external knee adduction moment)が膝内側部の荷重と高い相関を示し(r=0.59)、膝内側部の荷重を膝内転モーメントで代替的に測定することが可能であることを報告している(Ogaya S, 2013)。

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✻Ogaya, 2013より引用改変。左図が膝内側荷重、右図が膝内反モーメントである。ともに二峰性を示し、高い相関を示している。 

 

 膝内転モーメントは、膝OAの重症度(Creaby MW, 2010)、痛みの強度(Thorp LE, 2007)、病期の進行(Andriacchi TP, 2006)においても関連していることが報告されている。よって、膝内転モーメントを詳細に分析することがリスク防止策を構築するための指標になる。近年、歩行時の膝内転モーメントが膝OAの進行を予防するための生体力学的なリスク要因として注目され、研究が進められている。

 

 

◆ 膝内転モーメントのピークとインパルス

 

 膝内転モーメントとは、床反力作用線と膝関節回転中心からの距離により生じる膝関節を内転させる力の量である(Maly MR, 2008)。

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  膝内転モーメントによる膝OAの増悪を防ぐためには、その要因を詳細な因子にまで分析し、調査する必要がある。膝内転モーメントが歩行周期のどのような場面で膝OAを増悪させるのかを明らかにすることで、リハビリテーションは具体化される。

 そこで注目されている因子が、膝内転モーメントのピークとインパルスである。

 

 健常者の膝内転モーメントのピークは、歩行の立脚初期と後期に見られ、二峰性を示す。

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 では、膝OA患者では健常者と比べて、どのように異なるのだろうか?

 Kumarらは健常者と膝OA患者の立脚期における膝の荷重変化について分析している。膝OA患者の内側荷重は、健常者に比べて立脚初期、後期ともにピークが増加し、特に立脚初期のピーク(ファーストピーク)に有意差が認められたことを報告した(Kumar D, 2013)。

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*Kumar D, 2013より引用改変

 また、Mundermannらは、膝OAは重症度に関係なく、高いファーストピークをもち、重症度が高まると立脚後期のセカンドピークが増加することを示している(Mundermann A, 2005)。

 膝OAにおける膝内転モーメントのピークの増加は、膝関節スペースを狭小化するリスクを6年間で6.46倍にすること(Miyazaki T, 2002)、重症度の高い軟骨変性に寄与すること(Creaby MW, 2010)、5年間の軟骨変性を予測する因子になること(Chehab E, 2014)などから、膝OAのリハビリにおいて重要なリスク因子になると推測される。

 

 膝内転モーメントのピークは膝内側部の瞬間的な最大荷重を示しているが、これに時間を付加したインパルス(impulse)がもう一つのリスク因子となる。インパルスは、時間を付加(積分)することによって、立脚期全体を通じて生じる膝内転モーメントを計測するものである。

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  膝OA患者において歩行速度の減少は、ピークの低下に寄与するが、全体として立脚期時間が延長するため、インパルスが増大し、結果的に膝OAを増悪させることが報告(Robbins SM, 2009)されている。これはインパルスを考える上で良い例である。つまり、ピークだけでなく、歩行周期全体で生じる膝内転モーメントを考慮する必要性を示している。

 膝内転モーメントのインパルスは、膝痛の強度に関与する(Thorp L, 2007)とともに、ピークに比べてX線上での軽度、中等度の膝OA所見との関連が強く認められ(Thorp L, 2006)、12ヶ月後の軟骨変性をより予測できる(Bennell K, 2011)など、インパルスがピークよりも有用であることが近年、報告されている。

 

 以上から、膝OAのリスク要因である膝内転モーメントは、強さを示すピークと、時間で積分したインパルスの2つの因子に細分化される。ピークでは、増大する立脚初期と後期に見られる二回のピークを如何に減少させるかが求められ、インパルスでは、立脚期全体を通じた膝内転モーメントを減少させることが膝内側部へのメカニカルストレスの増大を防ぐ。

 

 「膝内転モーメントのピークとインパルスを減少させる

 

 これが膝OAのリハビリの新しい基本戦略であり、この視点で治療プログラムを考えることが新たな発想を生みだす。次回は、具体的なリハビリテーションについて考察していきたい。



◆ 読んでおきたい記事

保存療法①:変形性膝関節症のリハビリの新しい考え方

保存療法②:変形性膝関節症の予防① 股関節外転筋トレーニングの有効性について 

保存療法③:変形性膝関節症の予防② 膝OAで股関節外転筋力が低下する理由 

保存療法④:変形性膝関節症の予防③ 股関節外転勤トレーニングをしよう 

保存療法⑤:変形性膝関節症の予防④ 膝の屈曲拘縮を予防しよう!

保存療法⑥:変形性膝関節症に良い靴選び

保存療法⑦:変形性膝関節症に良い靴選び②

保存療法⑧:変形性膝関節症に良い靴選び③

保存療法⑨:変形性膝関節症に良い靴選び④

 

 

◆ 参考論文

Andriacchi T, et al. 2009. Gait mechanics influence healthy cartilage morphology and osteoarthritis of the knee. J. Bone Jt. Surg. Am. 91, 95–101. 

Chen AF, et al: Oxidative DNA damage in osteoarthritic porcine articular cartilage. J Cell Physiol 217: 828-833, 2008. 

Creaby MW, Wang Y, Bennell KL, et al. 2010. Dynamic knee loading is related to cartilage defects and tibial plateau bone area in medial knee osteoarthritis. Osteoarthritis Cartilage 18:1380–1385.

Thorp LE, Sumner DR, Wimmer MA, Block JA. Relationship between pain and medial knee joint loading in mild radiographic knee osteoarthritis. Arthritis Rheum 2007;57:1254–60.

Andriacchi TP, Mündermann A. The role of ambulatory mechanics in the initiation and progression of knee osteoarthritis. Curr Opin Rheumatol 2006;18:514–8.

Maly MR. Abnormal and cumulative loading in knee osteoarthritis. Curr Opin Rheumatol. 2008 Sep;20(5):547-52. 

Kumar D, et al. Knee joint loading during gait in healthy controls and individuals with knee osteoarthritis. Osteoarthritis Cartilage. 2013 Feb;21(2):298-305. 

Mundermann A, Dyrby CO, Andriacchi TP. 2005. Secondary gait changes in patients with medial compartment knee osteoarthritis: increased load at the ankle, knee and hip during walking. Arthritis Rheum 52:2835–2844. 

Miyazaki, T., Wada, M., Kawahara, H., Sato, M., Baba, H., Shimada, S., 2002. Dynamic load at baseline can predict radiographic disease progression in medial compartment knee osteoarthritis. Ann. Rheum. Dis. 61, 617–622. 

Chehab, E., Favre, J., Erhart-Hledik, J., Andriacchi, T., 2014. Baseline knee adduction and flexion moments during walking are both associated with 5 year changes in patients with medial knee osteoarthritis. Osteoarthr. Cartil. 22, 1833–1839. 

Thorp, L., Sumner, R., Wimmer, M., Block, J., 2007. Relationship between pain and medial knee joint loading in mild radiographic knee osteoarthritis. Arthritis Care Res. 57, 1254–1260. 

Thorp, L., Sumner, R., Block, J., Moisio, K., Shott, S., Wimmer, M., 2006. Knee joint loading differs in individuals with mild compared with moderate medial knee osteoarthritis. Arthritis Rheum. 54, 3840–3842.

Bennell, K., Bowles, K., Wang, Y., Cicuttini, F., Davies-Tuck, M., Hinman, R., 2011. Higher dynamic medial knee load predicts greater cartilage loss over 12 months in medial knee osteoarthritis. Ann. Rheum. Dis. 70, 1770–1774.

Robbins SM, et al. The effect of gait speed on the knee adduction moment depends on waveform summary measures.Gait Posture. 2009 Nov;30(4):543-6.