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リハビリmemo

大学病院勤務、大学院リハビリテーション学所属の理学療法士による、研究と臨床をつなげるための記録

肩甲骨のキネマティクスと姿勢との関係を知っておこう

肩関節のしくみとリハビリテーション

 

 二足歩行を獲得したヒトと、四足移動を行う他の類人猿との違いのひとつに「腰椎の前弯」があります。ヒトには腰椎の前弯がありますが、ゴリラやオラウータンなどの類人猿には腰椎の前弯がありません。進化形態学では、この腰椎の前弯の有無が直立姿勢や二足歩行において重要な役割を担っていることを示唆しています(Le Huec JC, 2011)。

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Fig.1:Le Huec JC, 2011より引用

 

 しかし、加齢とともに胸椎の後弯が増強すると(猫背が強くなると)、ヒトの特徴である腰椎の前弯が失われていきます。胸椎の後弯が大きくなるにしたがって、しばらくは腰椎の前弯を強めることで代償できますが、さらに胸椎の後弯が大きくなると、腰椎も耐えることができずに徐々にまっすぐ(フラットバック)になってしまいます。ここまで胸椎の後弯化が進むと、頚椎の前弯の増強や、膝関節の屈曲、足関節の背屈など全身性のアライメント異常が生じます(Barrey C, 2013)。

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Fig.2:Barrey C, 2013より引用改変

 

 では、このような姿勢の変化は肩甲骨の運動異常(Scapular dyskinesis)や腱板損傷の発症に寄与するのでしょうか?

 

 今回は、胸椎の後弯化が肩甲骨の運動異常や腱板損傷の発症に与える影響について考察していきましょう。

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◆ 胸椎の後弯が強くなると肩甲骨の運動異常が生じる

 

 加齢にともなう胸椎の後弯の増強は、長い期間を要するため、経時的な胸椎の後弯化による肩甲骨の運動異常を計測するのは困難です。そこでメリーランド大学のFinleyらは、意識的に姿勢を変化させた際の肩甲骨の運動異常を計測しました。

 

 Finleyらは、仮想の胸椎後弯姿勢として、被検者に前かがみの姿勢をとらせ、直立姿勢との上肢挙上時の肩甲骨の運動を比較しました。その結果、前かがみ姿勢では、上肢挙上時の肩甲骨の外旋と後傾の減少が認められました。

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Fig.3:Finley MA, 2003より引用改変

 

 前かがみ姿勢によって、肩甲骨の後傾と外旋が減少する理由について、Finleyらは肩甲骨の「運動軸」が変位するためであると推測しています。上肢挙上時、肩甲骨は3つの運動(上・下方回旋、前・後傾、内・外旋)が生じます。前かがみ姿勢により肩甲骨の運動軸が前方に変位すると、影響を受けやすい肩甲骨の後傾と外旋が減少するのです。

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 この知見から、Finleyらは退行変性にともなう胸椎の後弯化においても、同様の肩甲骨の運動異常が生じるだろうと推察しています。



◆ 胸椎の後弯が強くなると肩峰下インピンジメントが誘発されやすい

 

 通常、肩甲骨の運動異常が生じると、肩峰下スペースが減少し、肩峰下インピンジメントが誘発されます。では、胸椎の後弯化は肩峰下インピンジメントに寄与するのでしょうか?

 

 2014年、福島県立医科大学のOtoshiらは、胸椎の後弯化と肩峰下インピンジメント症候群の発症リスクとの関係について、2144名を対象としたロコモティブ症候群の大規模研究LOHASのデータを用いて検証しました。

 

 その結果、肩峰下インピンジメント症候群のリスク因子には胸椎の後弯の増強と腰椎の前弯が減少が関与していることがわかりました。とくに胸椎の後弯化とともに腰椎の前弯が減少した場合にリスクが有意に高くなりました。

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Fig.5:Otoshi K, 2014より引用改変

 

 胸椎の後弯化の過度な増強は、腰椎の代償機能を破綻させ、腰椎のフラットバック化を招きます。このような過度な胸椎の後弯化になると肩甲骨の運動異常が生じ、肩峰下インピンジメントの発症リスクが高まるのです。

 

 また、ローマ大学のGuminaらによる放射線画像とCT画像を組み合わせた画像研究においても、胸椎の後弯が増強した場合、肩峰下スペースが有意に狭小化することも明らかになりました。(Gumina S, 2008)。

 

 これらの知見から、胸椎の後弯化は肩峰下スペースを減少させ、肩峰下インピンジメントを誘発させるリスク因子として特定されているのです。

 

 それでは、胸椎の後弯化は腱板損傷の発症リスクにも寄与するのでしょうか?



◆ 胸椎の後弯が強くなると腱板損傷のリスクが高まる

 

 群馬大学のYamamotoらは、2015年、不良姿勢が腱板損傷のリスク因子になることを初めて明らかにしました。

 

 379名(腱板損傷93名、腱板損傷なし286名)を対象に、被検者の姿勢をKendallの分類(正常、腰椎前弯の増強、腰椎のフラットバック、スウェイバック)に準じて分けました。Kendallの分類は、正常な姿勢以外は全て、胸椎の後弯の増強した不良姿勢を示しています(Kendall FP, 2005)。

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Fig.6:Yamamoto A, 2015より引用改変

 

 Kendallの分類における腱板損傷の有病率を見てみると、正常な姿勢の有病率はわずか2.9%であり、腱板損傷を有する被検者に正常姿勢が少ない(不良姿勢が多い)ことがわかりました。不良姿勢の有病率は、腰椎前弯の増強が65.8%、フラットバック54.3%、スウェイバック48.9%と高い割合を示しました。

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 Fig.7-1:Yamamoto A, 2015より引用改変

 

 さらに腱板損傷のリスク因子の分析では、オッズ比が腰椎前弯の増強、フラットバック、スウェイバックと不良姿勢のすべてが有意に高い値を示しました。

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Fig.7-2:Yamamoto A, 2015より引用改変

 

 これらの結果は、胸椎の後弯がともなう不良姿勢が腱板損傷のリスク因子であることを示唆しています。加齢などの退行変性により胸椎の後弯が増強し、腰椎の前弯の代償機構(腰椎の前弯の増強やフラットバック)が働くようになると、腱板損傷も生じやすくなるのです。



 2011年、バージニア大学のSeitzらは、腱板損傷の発症アルゴリズムを提唱しました。「腱板損傷は肩峰下スペースの狭小化による肩峰下インピンジメントに起因し、肩峰下インピンジメントは肩甲骨と上腕骨のキネマティクスの異常による」というものです。

腱板断裂(損傷)の発症アルゴリズムからリハビリを考えよう

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Fig.8:Seitz AL, 2011より引用改変

  

 胸椎のアライメント異常である「胸椎の後弯化」は、腰椎の代償機構が働くほど増悪すると、肩甲骨のキネマティクスの異常を生じさせ、肩峰下インピンジメントを誘発するとともに、腱板損傷の発症に寄与するリスク因子になるのです。

 

 この知見は、臨床における姿勢の評価の重要性を示しています。腱板損傷や肩甲骨の運動異常(Scapular dyskinesis)の評価を行う場合は、肩関節や肩甲骨の評価だけではなく、胸椎の後弯化や腰椎の前弯の減少を評価する必要があるでしょう。このような矢状面の脊椎アライメントの評価については別の機会に考察してみたいと思います。

 

 本ブログではここまで、Seitzらの腱板病変の発症アルゴリズムに準じて、生体力学因子を個別に考察してきました。

 

小胸筋の短縮

肩甲骨のキネマティクスと小胸筋の関係を知っておこう

肩甲骨周囲筋の筋活動異常

肩甲骨周囲筋の筋電図研究の不都合な真実

肩甲骨の運動パターンから肩甲骨周囲筋の筋活動を評価しよう

胸椎のアライメント異常

肩甲骨のキネマティクスと姿勢との関係を知っておこう

 

 次回は、後方関節包のタイトネスや腱板機能不全といった肩甲骨、上腕骨のキネマティクスに関わる生体力学因子について考察してきましょう。

 

 

肩関節のしくみとリハビリテーション

肩リハビリ①:肩関節痛に対する適切な運動を導くためのアルゴリズム

肩リハビリ②:腱板断裂術後の再断裂のリスクが15倍になる指標とは?

肩リハビリ③:腱板断裂(損傷)の新しいリスク指標を知ろう

肩リハビリ④:腱板断裂(損傷)の発症アルゴリズムからリハビリを考えよう 

肩リハビリ⑤:肩甲骨の運動とその役割を正しく理解しよう

肩リハビリ⑥:肩甲骨のキネマティクスと小胸筋の関係を知っておこう

肩リハビリ⑦:新しい概念「Scapular dyskinesis」を知っておこう

肩リハビリ⑧:肩甲骨周囲筋の筋電図研究の不都合な真実 

肩リハビリ⑨:肩甲骨の運動異常(Scapular dyskinesis)を評価しよう 前編

肩リハビリ⑩:肩甲骨の運動異常(Scapular dyskinesis)を評価しよう 中編

肩リハビリ⑪:肩甲骨の運動異常(Scapular dyskinesis)を評価しよう 後編

肩リハビリ⑫:肩甲骨の運動パターンから肩甲骨周囲筋の筋活動を評価しよう

肩リハビリ⑬:肩甲骨のキネマティクスと姿勢との関係を知っておこう

 

References

Le Huec JC, et al. Equilibrium of the human body and the gravity line: the basics. Eur Spine J. 2011 Sep;20 Suppl 5:558-63.

Barrey C, et al. Compensatory mechanisms contributing to keep the sagittal balance of the spine. Eur Spine J. 2013 Nov;22 Suppl 6:S834-41.

Finley MA, et al. Effect of sitting posture on 3-dimensional scapular kinematics measured by skin-mounted electromagnetic tracking sensors. Arch Phys Med Rehabil. 2003 Apr;84(4):563-8.

Gumina S, et al. Subacromial space in adult patients with thoracic  hyperkyphosis and in healthy volunteers. Chir Organi Mov (2008) 91:93–96

Otoshi K, et al. Association between kyphosis and subacromial impingement syndrome: LOHAS study. J Shoulder Elbow Surg. 2014 Dec;23(12):e300-7.

Yamamoto A, et al. The impact of faulty posture on rotator cuff tears with and without symptoms. J Shoulder Elbow Surg. 2015 Mar;24(3):446-52.

Kendall FP, McCreary EK, Provance PG, Rodgers MM, Romani WA. Muscles: testing and function, with posture and pain. Baltimore, MD: Lippincott Williams & Wilkins; 2005.

Seitz AL, et al. Mechanisms of rotator cuff tendinopathy: intrinsic, extrinsic, or both? Clin Biomech (Bristol, Avon). 2011 Jan;26(1):1-12.

脳卒中の急性期でも365日リハビリしよう

脳卒中のリハビリテーション

 

脳卒中後のリハビリは、できるだけ早くから行ったほうが良いのでしょうか?」

 

 この問いに、現代のリハビリテーション医学はこう答えています。

 

「24時間以内の超早期リハビリに明確な効果はありません」

脳卒中の超早期リハビリ論争 AVERTⅢの全容と批判

 

「でも、1回のリハビリの量を少なくして、頻回に行うと効果的であることがわかっています」

脳卒中の超早期リハビリ論争 そして新たな展開へ

 

 そして最近では、このような質問も聞かれるようになりました。

 

脳卒中の急性期リハビリでも回復期リハビリのように365日、毎日リハビリを行ったほうが良いのでは?」

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◆ 急性期では土日のリハビリがお休みになる

 

 日本では、脳卒中に対する急性期リハビリテーションが週にどのくらい行われているのでしょうか?

 

 2010年に発表された日本における脳卒中の急性期リハビリテーションの現状を示した報告では、金曜日に入院するとリハビリの介入が遅れることが明らかになっています。これは一般的に土日がお休みになるためで、365日リハビリテーションを行えない急性期病院が多いことを示唆しています(Matsui H, 2010)。

 

 日本の25の急性期病院を対象に、急性期リハビリテーションの実施体制を調査した報告では、週7日間、毎日リハビリを行う体制が整備されている病院は1病院(4.2%)のみで、土日が完全に休みになる病院は5病院(20.8%)であることが示されています(村山幸照, 2011)。

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Fig.1:村山幸照, 2011より引用改変

 

 これらの知見から、多くの急性期病院では、週5日もしくは週6日の診療体制であることが推測されます。金曜に入院するとリハビリの開始が遅れるという結果も残念なことですね。このような現状の理由として、村山らはセラピストのマンパワー不足、人件費に対する費用対効果の未整備(診療報酬の加算)、週7日体制による改善効果や有害事象の有無が不明確であることを挙げています。

 

 

◆ 急性期からの毎日のリハビリはやっぱり効果的

 

 では、脳卒中に対する365日、週7日の急性期リハビリテーションは本当に効果的なのでしょうか?

 

 この問いに答えたのが慈恵医科大学のAbo氏のグループです。2016年、グループのKinoshitaらは、日本リハビリテーション・データベースのデータをもとに、脳卒中患者3,072名を対象に急性期から毎日、リハビリテーションを行う効果について検証しました。

 

 被検者は、週7日、毎日リハビリを行うグループ(7DWR:1,075名)と週5日または6日リハビリ行うグループ(Non-7DWR:1,997名)に分けられました。

 

 両グループともに入院翌日よりリハビリを開始し、理学療法作業療法、言語聴覚療法を合わせて1日2〜4単位を実施しています。

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Fig.2:患者特性(Kinoshita S, 2016より引用改変)

 

 リハビリの効果の主要アウトカムは、退院時のmRS(modified Rankin Scale score)として、日常生活の自立を示すmRS 0〜2を良好な転帰としています。

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Fig.3:日本版mRS(脳卒中ガイドライン2009より引用改変)

 

 その結果、退院時の良好な転帰の割合は、7DWRがNon-7DWRに比べて高く、オッズ比は1.6を示しました。また自宅退院の割合も有意に高い結果となりました。さらに死亡数には有意な差は認められませんでした。

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Fig.4:Kinoshita S, 2016より引用改変

 

 この結果から、脳卒中の急性期リハビリを週7日間、毎日行うことで良好な機能回復に寄与することがわりました。また、毎日リハビリを行っても有害事象(死亡数)が増加しないことも明らかになったのです。

 

 Kinoshitaらは、脳卒中に対する急性期リハビリにおいて、土日といった週末の休みによる臥床(離床しないこと)は無視できないといいます。脳卒中発症後の臥床期間が3ヶ月後の機能改善のアウトカムを低下させるという報告(Askim T, 2014)もあり、今回の結果をからも急性期からの継続したリハビリの重要性を唱えています。

 

 海外においても、亜急性期の脳卒中に対する週7日のリハビリテーションの効果を検証した報告では、身体機能の回復とともに入院期間の短縮が示されています(English C, 2015)。さらに、セラピストでなくとも看護師により週末の離床を行うことが急性脳卒中患者の死亡率の低下に寄与することも報告されています(Bray BD, 2014)。

 

 このような背景からも、急性期からの週7日のリハビリテーションは、有害事象もなく、むしろ脳卒中患者の身体機能の回復につながることが期待できるとKinoshitaらは結論づけています。



 脳卒中の超早期リハビリテーションの介入効果を検証している大規模研究(AVERT)では、急性期リハビリの効果的な介入は「低量頻回」で行うことを推奨しています(Bernhardt J, 2016)。

 

 Kinoshitaらの報告は、脳卒中の急性期リハビリテーションの頻度において「週7日の実施が推奨される」ことを初めて示した知見となります。この知見をAVERTの報告と合わせると「脳卒中の急性期リハビリは、低量頻回な介入を毎日、行うべきである」ということになるでしょう。

 

 今回の報告は、急性期リハビリテーションにおける356日診療の有効性を示したものであり、診療報酬の改定の判断材料になるかもしれません。今後の診療報酬の改定では、回復期リハビリの休日リハビリテーション提供体制加算のようなインセンティブが急性期でも付加されるかもしれませんね。

 

 

脳卒中の急性期リハビリテーション

脳卒中の超早期リハビリテーション論争 まとめ①

脳卒中の超早期リハビリテーション論争 まとめ②

脳卒中の超早期リハビリテーション論争 AVERTⅢの全容と批判

脳卒中の超早期リハビリテーション論争 そして新たな展開へ

脳卒中の急性期でも365日リハビリしよう

 

References

Matsui H, et al. An exploration of the association between very early rehabilitation and outcome for the patients with acute ischaemic stroke in Japan: a nationwide retrospective cohort survey. BMC Health Serv Res. 2010 Jul 20;10:213.

村山幸照. 平成20年度診療報酬改定による急性期病院でのリハビリテーションへの影響と現状. 作業療法 30, 717~726, 2011

Kinoshita S, et al. Association Between 7 Days Per Week Rehabilitation and Functional Recovery of Patients With Acute Stroke: A Retrospective Cohort Study Based on Japan Rehabilitation Database. Arch Phys Med Rehabil. 2016 Dec 10. pii: S0003-9993(16)31294-1. 

Askim T, et al. Physical activity early after stroke and its association to functional outcome 3 months later. J Stroke Cerebrovasc Dis. 2014 May-Jun;23(5):e305-12.

English C, et al. Circuit class therapy or seven-day week therapy for increasing rehabilitation intensity of therapy after stroke (CIRCIT): a randomized controlled trial. Int J Stroke. 2015 Jun;10(4):594-602.

Bray BD, et al. Associations between stroke mortality and weekend working by stroke specialist physicians and registered nurses: prospective multicentre cohort study. PLoS Med. 2014 Aug 19;11(8):e1001705. 

Bernhardt J, et al. Prespecified dose-response analysis for A Very Early Rehabilitation Trial (AVERT). Neurology. 2016 Jun 7;86(23):2138-45.

肩甲骨の運動パターンから肩甲骨周囲筋の筋活動を評価しよう

肩関節のしくみとリハビリテーション

 

 肩甲骨の運動異常(Scapular dyskinesis)の要因のひとつに肩甲骨周囲筋の異常な筋活動があり、これまでに数多くの肩甲骨周囲筋の筋電図研究が行われてきました。しかし、南カルフォルニア大学のMichenerらは、これらの研究成果をたったひとことで一蹴したのです。

 

 「肩甲骨周囲筋の筋電図研究は矛盾だらけである」と。

 

 Michenerらの言葉を裏付けるように、2014年に報告された肩峰下インピンジメント症候群を対象にした筋電図研究のシステマティックレビューでは、肩甲骨周囲筋の異常な筋活動を特徴づける明らかなエビデンスは示されませんでした(Struyf F, 2014)。

 

 エビデンスを示せなかった理由をアントワープ大学のStruyfらは、そもそも症例によって肩甲骨の運動異常のパターンが異なるためだといいます。肩甲骨の運動異常は、過度な上方回旋や後傾の減少など、いくつかのパターンに分けることができます。これまでの筋電図研究では、被験者を運動パターンで分類せずに、ひとくくりにしていたため、信頼性のあるデータが抽出できなかったのだろうとStruyfらは推論しています。

肩甲骨周囲筋の筋電図研究の不都合な真実

 

 では、肩甲骨の運動異常をパターン別に分類し、筋電図を計測することによって、肩甲骨周囲筋の異常な筋活動を捉えることは可能なのでしょうか?

 

 この課題に挑戦したのが、前回のブログでご紹介した香港大学のHuangです。

 

 Huangらは2015年、視診と触診によって肩甲骨の運動異常を4つの運動パターン+ミックスパターンに分類する包括的分類評価を報告しました。この包括的分類評価を用いて肩甲骨の運動異常をパターン別に分類することによって、精度の高いリーズニングを行うことが可能になりました。

肩甲骨の運動異常(Scapular dyskinesis)を評価しよう 後編

 

 そして次に、Huangらは包括的分類評価を用いて、分類に応じた肩甲骨周囲筋の筋活動の変化を明らにしていったのです。

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◆ 肩甲骨周囲筋の筋活動は肩甲骨の運動パターンにより異なる

 

 2015年、Huangらは、肩甲骨の運動異常の包括的分類評価と肩甲骨周囲筋の筋活動との関連性について横断的な調査を行いました。

 

 まずはHuangらが提唱する包括的分類評価の内容を確認しておきましょう。肩甲骨の運動異常を視診と触診で評価し、4つのパターン+ミックスパターンに分類します。詳細は前回ブログを参照ください。

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Fig.1:Huang TS, 2015aより引用改変

 

 Huangらは、肩疾患を有する82名を包括的分類評価にもとづいて、上肢の挙上時と下降時のそれぞれでパターンに分類しました。

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Fig.2:Huang TS, 2015bより引用改変

 

 その結果、挙上時では正常(パターンⅣ)が全体の6割を占め、3割に過度な挙上や早期の上方回旋(パターンⅢ)が示されました。

 下降時では、正常は2割にとどまり、2割が下角が突出するパターンⅠであり、3割が内側縁が突出するパターンⅡ、残りの3割が内側縁と下角の両方が突出するミックスパターン(パターンⅠ+Ⅱ)に分類されました。

 

 ここからわかることは、肩甲骨の運動異常は挙上時よりも下降時に認められやすいということです。これは上肢を下降させる際、肩甲骨周囲筋に異常があると遠心性収縮による制御が困難になるためだと考えられています(Ebaugh DD, 2010)。

 

 また、挙上時ではパターンⅢのみが認められ、下降時ではパターンⅠとⅡが認められる傾向にあることが示されました。

 

 これらの結果から、Huangらは「肩甲骨の運動異常は上肢の挙上時ではなく下降時に生じやすいこと、挙上時ではパターンⅢ、下降時ではパターンⅠとⅡに注目すると評価の精度が高まるだろう」と述べています。

 

 では、これらの運動パターンと肩甲骨周囲筋の筋活動の関係性はどうだったのでしょうか?

 

 Huangらは、僧帽筋の上部・中部・下部線維、前鋸筋を対象筋として上肢の挙上時、下降時の筋電図を計測しました。

 

 その結果、肩甲骨周囲筋の筋活動の有意な変化が認められたのは「下降時のみ」でした。挙上時には筋活動の変化が見られず、これは上述した肩甲骨の運動異常が挙上時よりも下降時に生じやすいことと関係しているとHuangらは述べています。そのため筋電図による筋活動所見の結果は、下降時のみにフォーカスして論じられています。

 

 それでは下降時にみられたパターン別の僧帽筋と前鋸筋の筋活動の変化を見てみましょう。

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Fig.3:Huang TS, 2015bより引用改変

 

 まず前鋸筋ですが、パターンⅠ、パターンⅡ、パターンⅠ+Ⅱで筋活動の低下を認めました。前鋸筋は肩甲骨の外旋と後傾に作用し、胸郭に肩甲骨の内側縁と下角を固定する機能的役割を担っています。これは前鋸筋を支配する長胸神経の麻痺によって肩甲骨の内側縁と下角が浮かび上がる翼状肩甲(Scapular winging)の症状から考えられています(Martin RM, 2008)。よって前鋸筋の筋活動の低下が肩甲骨の下角や内側縁の突出であるパータンⅠやⅡに関連するとされています。

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Fig.4:右側のScapular winging(Martin RM, 2008より引用)

 

 また僧帽筋の上部線維は主にパターンⅡで筋活動の増加が示されました。僧帽筋の上部線維は、肩甲骨の挙上と上方回旋に機能しますが、肩甲骨の外旋には作用しません。しかし、僧帽筋の上部線維と前鋸筋はフォースカップルとして肩甲骨の運動を制御しており(Ellenbecker TS, 2010)、前鋸筋に筋力低下が生じると代償的に僧帽筋の上部線維の過活動が生じると推察されています。

 

 僧帽筋の下部線維は、パターンⅠ+Ⅱで筋活動の低下を認めました。僧帽筋の下部線維は肩甲骨の後傾と上方回旋に作用し、特に最大挙上位時、またはそこからの下降時に強く働きます(Roche SJ, 2015)。また、僧帽筋を支配する副神経の麻痺では、肩甲骨の内側縁や下角が浮かび上がる翼状肩甲のような症状が見られます(Charopoulos IN, 2010)。そのため僧帽筋の下部線維が低下するとパターンⅠ+Ⅱの運動異常が生じるとされています。

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Fig.5:副神経麻痺による僧帽筋機能不全(Charopoulos IN, 2010より引用)

 

 それでは、これまでの結果をまとめてみましょう。

 

 まず肩甲骨周囲筋の異常な筋活動は、上肢の下降時に生じやすいということです。これは下降時では遠心性収縮による制御が求められるため、活動不全の筋活動が検出されやすいとされています。

 

 パターン別の筋活動の変化では、肩甲骨の下角のみが突出するパターンⅠは、前鋸筋の筋活動が低下します。肩甲骨の内側縁のみが突出するパターンⅡは、前鋸筋の筋活動が低下し、僧帽筋の上部線維の筋活動が増加します。肩甲骨の下角と内側縁の両方が突出するパターンⅠ+Ⅱは、前鋸筋と僧帽筋の下部線維の筋活動が低下します。

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Fig.6:Huang TS, 2015bより筆者作成

 

 このように肩甲骨の運動パターンによって僧帽筋と前鋸筋の筋活動が異なることがわかります。これらの知見は肩甲骨の運動異常のクリニカルリーズニングの精度をさらに高めてくれるものと思われます。肩甲骨の運動異常をHuangらの包括的分類評価によりパターン別に分類し、そこから肩甲骨周囲筋の筋活動の変化を推測することができるのです。

 

 例えば、包括的分類評価でパターンⅠが見られた場合、肩甲骨の後傾が不十分であることが推察され、その要因として前鋸筋の機能不全が挙げられるようになります。そこで前鋸筋の筋活動を促すエクササイズを行い、肩甲骨の運動異常が改善されなければ、肩甲骨の後傾に関連のある僧帽筋の下部線維への介入へとリーズニングを進めることができます。

 

 今回の報告では、上肢の挙上時の筋活動に有意差が認められなかったことから、下降時の筋活動の変化に着目しており、挙上時に見られたパターンⅢの筋活動については論じられていません。パターンⅢを示す肩甲骨の早期の上方回旋や過度な挙上においても筋活動の変化(僧帽筋上部線維の増加)が生じると言われていますが、今後の報告を待ちたいと思います。

 

 Huangらの報告は、Michenerの「肩甲骨周囲筋の筋電図研究は矛盾だらけである」という発言に一石を投じる結果となりました。今後、このような肩甲骨の運動パターンに応じた肩甲骨周囲筋の筋電図研究が増え、矛盾のない研究結果が示されることを期待したいですね。

 

 

肩関節のしくみとリハビリテーション

肩リハビリ①:肩関節痛に対する適切な運動を導くためのアルゴリズム

肩リハビリ②:腱板断裂術後の再断裂のリスクが15倍になる指標とは?

肩リハビリ③:腱板断裂(損傷)の新しいリスク指標を知ろう

肩リハビリ④:腱板断裂(損傷)の発症アルゴリズムからリハビリを考えよう 

肩リハビリ⑤:肩甲骨の運動とその役割を正しく理解しよう

肩リハビリ⑥:肩甲骨のキネマティクスと小胸筋の関係を知っておこう

肩リハビリ⑦:新しい概念「Scapular dyskinesis」を知っておこう

肩リハビリ⑧:肩甲骨周囲筋の筋電図研究の不都合な真実 

肩リハビリ⑨:肩甲骨の運動異常(Scapular dyskinesis)を評価しよう 前編

肩リハビリ⑩:肩甲骨の運動異常(Scapular dyskinesis)を評価しよう 中編

肩リハビリ⑪:肩甲骨の運動異常(Scapular dyskinesis)を評価しよう 後編

肩リハビリ⑫:肩甲骨の運動パターンから肩甲骨周囲筋の筋活動を評価しよう

 

References

Struyf F, et al. Scapulothoracic muscle activity and recruitment timing in patients with shoulder impingement symptoms and glenohumeral instability. J Electromyogr Kinesiol. 2014 Apr;24(2):277-84.

Huang TS, et al. Comprehensive classification test of scapular dyskinesis: A reliability study. Man Ther. 2015a Jun;20(3):427-32.

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肩甲骨の運動異常(Scapular dyskinesis)を評価しよう 後編

肩関節のしくみとリハビリテーション

 

 肩疾患の60%以上に肩甲骨の運動異常(Scapular dyskinesis)が認められることが報告されており、リハビリテーションにおけるScapular dyskiensisの評価、治療の重要性が認識されつつあります。

新しい概念「Scapular dyskinesis」を知っておこう

 

 2002年、Kiblerらは視覚的に肩甲骨の運動異常を評価し、Scapular dyskinesisを4つに分類する方法を考案しました。Kiblerらの4分類には、Scapular dyskinesisを細かく分類することで、問題点の抽出や治療のリーズニングにつなげれるという利点がありました。

 

 しかし、肩甲骨の運動異常を視診のみで分類することは、検査者に高いスキルが求められます。そのため、4分類の評価の信頼性はとても低い結果となり、臨床応用するには疑義が残りました。

 

 そこで、McClureやUhlらは、Scapular dyskinesisの程度や有無を評価するスクリーニングの重要性を謳い、Scapular dyskinesisをよりシンプルに評価する方法を提案しました。

 

 McClureらはScapular dyskinesisを「正常、軽度、明らか」の3分類に分け、運動異常の程度をスクリーニングできるようにしました。Uhlらはさらに単純化し、「ある(Yes)orなし(No)」でScapular dyskinesisの有無をスクリーニングする2分類を報告したのです。

 

 Scapular dyskinesisの評価目的をリーズニングからスクリーニングに変えたことで評価の信頼性は確実に向上しました。

肩甲骨の運動異常(Scapular dyskinesis)を評価しよう 中編

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Fig.1:Huang TS, 2015より引用改変

 

 しかしながら、評価の信頼性を高めたことで、Kiblerらが提唱した4分類の評価から問題点を抽出し、治療を選択するというリーズニングの利点が失われてしまったのです。

 

 では、高い信頼性があり、Scapular dyskinesisのリーズニングにつながる評価方法はあるのでしょうか?

 

 今回は、この難題に挑戦した台湾大学のHuangらの報告をご紹介しながら、Scapular dyskinesisの評価についてまとめていきましょう。

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◆ ブラッシュアップされたKiblerらの4分類

 

 Huangらは、Kiblerらの4分類をベースとして、新たな評価方法の確立を目指しました。Kiblerらの4分類の課題は以下の2点でした。

 

・視診のみでは肩甲骨の運動異常が捉えきれない。

・肩甲骨の運動異常は複数存在することがあり、ひとつのタイプに分類できない場合がある。

 

 これらに対して、Huangらは、まず視診のみでなく「触診」を合わせて評価することにしました。触診により、視診では捉えきれない肩甲骨の動きを確認することで評価の信頼性が高まると考えたのです。

 

 また、4分類に新たにミックスタイプを追加しました。肩甲骨の運動異常が重複した場合、ミックスタイプで記述、判定できるようにしました。

 

 さらに、被検者に重りを付加しました。重りを付加することにより、肩甲骨周囲筋への負担を増やし、肩甲骨の運動異常を検出しやすくしました。

 

 これらの対応により、Scapular dyskinesisを詳細に分類しながらも、高い評価の信頼性(κ係数:0.49-0.64)を得ることができたのです。

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Fig.2:Huang TS, 2015より引用改変

 

 Huangらはこの評価方法をScapular dyskinesisの包括的分類評価(Comprehensive claciffication test)と呼んでいます。



◆ Scapular dyskinesisの包括的分類評価をやってみよう

 

 それでは、Huangらの評価方法のポイントを見ていきましょう。

 

 Huangの分類には、Kiblerらの4分類をもとに、新たにミックスタイプが追加されています。

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Fig.3:Huang TS, 2015より引用改変

 

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Fig.4:Huang TS, 2015より引用改変

 

 被検者は、重り(1-2kg)を持ち、ゆっくり上肢を挙上させ、ゆっくり下降させます。重りの選定は被検者が挙上時に不快感や痛みがともなわない程度(VAS3/10以下)とします。検査者は、その際に肩甲骨の動きを視診と触診をあわせて行います。

 

 触診は、検査者の手の橈側を両側の肩甲骨の内側縁にあて、2指〜4指を肩甲棘におきます。被検者の挙上および下降時の肩甲骨の動きを触知します。

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Fig.5:Huang TS, 2015より引用

 

 視診や触診のポイントは、肩甲骨の下角と内側縁がつながっており、タイプⅠとタイプⅡが判定しづらい点です。そこで内側縁の下1/3をランドマークとして、内側縁の下1/3が突出している場合はタイプⅠ、内側縁の上2/3が突出している場合をタイプⅡし、内側縁から下角までが突出している場合をミックスタイプ(タイプⅠ+タイプⅡ)と判断します。

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Fig.6:Huang TS, 2015より引用改変

 

 正常(タイプⅣ)の判定は、被検者の上肢挙上60度までに肩甲骨の挙上や上方回旋があまり生じないことに留意します。肩甲上腕リズムでは、上肢の挙上60度まではsetting phaseとして肩甲骨の動きはあまり生じません。逆を言えば、60度までに肩甲骨が挙上したり、上方回旋した場合は、タイプⅢに分類されます。

 

 タイプⅢの肩甲骨の上縁の早期の挙上は、触診にて肩甲棘の付け根(root)においている検査者の2指または3指の左右の高低差を比べて検出します。

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Fig.7:Huang TS, 2015より引用改変

 

 さらに重要なのは、これらの肩甲骨の運動異常が上肢の挙上時ではなく、下降時に生じやすいという点です。下降時は肩甲骨周囲筋の遠心性収縮による制御が求められるため(Ebaugh DD, 2010)、挙上時に比べて肩甲骨の運動異常を認めやすいのです。

 

 しかし、Huangらの評価方法は肩甲骨の両側の左右差をみるため、両側性にScapular dyskinesisが認められる場合は注意が必要です。

 


 視診に触診を合わせ、ミックスタイプを追加し、タイプ別の確認事項を定義したことにより、Huangらの新しい包括的分類は、高い信頼性を確保できました。さらにScapular dyskinesisをタイプ別に分類することで、問題点の抽出から治療の選択といったクリニカルリーズニングの一助になるだろうとHuangらは述べています。

 

 肩甲骨の運動異常を視診と触診を合わせて評価することは、既に臨床の場面で行われているかもしれません。Huangらの報告は、その方法の詳細なポイントを教えてくれるとともに、評価方法の信頼性を担保してくれる価値のある報告と思われます。

 

 

◆ Scapular dyskinesisの評価の流れ(まとめ)

 

 最後に、Scapular dyskinesisの評価の流れについてPluimらの報告をご紹介しましょう。

 

 Pluimらは、Scapular dyskinesisを肩甲骨の運動時の異常として捉え、静的なアライメント評価であるLSSTは行いません。

 

 まず最初に、Scapular dyskinesisのスクリーニングとして、McClureの3分類、Uhlらの2分類の評価を行います。これによりScapular dyskinesisの有無とその程度を把握します。Scapular dyskinesisを認めた場合、次にタイプを分類するためにHuangらの包括的分類評価を行います。そして、判定されたタイプから推測される因子の確定を行うためにKiblerらのSATやSRTを実施します(Pluim BM, 2013)。

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 例えば、スクリーニングによりScapular dyskinesisを認め、包括的分類評価でタイプⅠに判定されたとします。タイプⅠは肩甲骨の下角の突出なので、挙上時の肩甲骨の後傾が不十分であることが推測されます。この推測を確定するためにScapular retraction/reposition testを行い、陽性であれば肩甲骨の後傾に関わる因子に問題があるとリーズニングを進めることができるのです。

 

 

 Scapular dyskinesisの評価について、前編、中編、後編にわけて考察してきました。ここまで長文を読んでいただきありがとうございます。それぞれの知見は、まだエビデンスといえるほどではありませんが、みなさんの臨床の一助になれば幸いです。今後も新たな知見が報告され次第、Scapular dyskinesisの評価についてエントリをブラッシュアップしていきます。

 

 さて、Scapular dyskinesisの包括的分類評価を考案したHaungらの功績はこれで終わりません。次回、その報告をご紹介していきます。

 

 

肩関節のしくみとリハビリテーション

肩リハビリ①:肩関節痛に対する適切な運動を導くためのアルゴリズム

肩リハビリ②:腱板断裂術後の再断裂のリスクが15倍になる指標とは?

肩リハビリ③:腱板断裂(損傷)の新しいリスク指標を知ろう

肩リハビリ④:腱板断裂(損傷)の発症アルゴリズムからリハビリを考えよう 

肩リハビリ⑤:肩甲骨の運動とその役割を正しく理解しよう

肩リハビリ⑥:肩甲骨のキネマティクスと小胸筋の関係を知っておこう

肩リハビリ⑦:新しい概念「Scapular dyskinesis」を知っておこう

肩リハビリ⑧:肩甲骨周囲筋の筋電図研究の不都合な真実 

肩リハビリ⑨:肩甲骨の運動異常(Scapular dyskinesis)を評価しよう 前編

肩リハビリ⑩:肩甲骨の運動異常(Scapular dyskinesis)を評価しよう 中編

肩リハビリ⑪:肩甲骨の運動異常(Scapular dyskinesis)を評価しよう 後編

 

References

Huang TS, et al. Comprehensive classification test of scapular dyskinesis: A reliability study. Man Ther. 2015 Jun;20(3):427-32.

Ebaugh DD, et al. Scapulothoracic motion and muscle activity during the raising and lowering phases of an overhead reaching task. J Electromyogr Kinesiol. 2010 Apr;20(2):199-205.

Pluim BM. Scapular dyskinesis: practical applications. Br J Sports Med. 2013 Sep;47(14):875-6.

肩甲骨の運動異常(Scapular dyskinesis)を評価しよう 中編

肩関節のしくみとリハビリテーション

 

 肩甲骨の位置や運動の異常を示すScapular dyskinesisは、肩峰下スペースの狭小化を招き、腱板損傷などの腱板病変を生じさせる発症因子とされています。

新しい概念「Scapular dyskinesis」を知っておこう

 

 では、リハビリテーションにおいて、Scapular dyskinesisをどのように評価すれば問題点を特定し、治療につなげることができるのでしょうか?

 

 現在までに論じられている方法には、静的な肩甲骨の非対称性を評価するLateral scapular slide test(LSST)や徒手で肩甲骨の動きを補助して評価するScapular assistance test(SAT)、Scapular retraction/reposition test(SRT)があります。

肩甲骨の運動異常(Scapular dyskinesis)を評価しよう 前編

 

 しかし、これらの評価方法は、肩甲骨の位置を評価するものであり(SATなどは部分的な運動の評価)、肩甲骨の運動時の異常を検出することができません。

 

 そこで、近年、注目されている評価方法が視覚的に評価を行うVisual observationです。

 

 今回は、この視覚的な評価方法をご紹介しながら、Scapular dyskinesisの評価について考察していきましょう。

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◆ Scapular dyskinesisを4つに分ける

 

 LSST、SATなどのScapular dyskinesisの評価を考案したレキシントンスポーツ医科学センターのKiblerらは、2002年、肩甲骨の動きを視覚的に観察して評価する方法を報告しました。

 

 Kiblerらは、過去の3次元運動解析から得られた知見をもとにScapular dyskinesisを4つのタイプに分類しました。検査者は、被検者に上肢の前方挙上、肩甲骨面上の挙上をそれぞれ3回行わせ、その際の肩甲骨の動きをビデオカメラで撮影し、肩甲骨の運動を分類します。

 

 分類は、肩甲骨の下角の突出するものをタイプⅠ、肩甲骨の内側縁が突出するものはタイプⅡ、肩甲骨の挙上が過度に生じるものはタイプⅢ、肩甲骨の動きが左右対称(正常)であるものはタイプⅣとしました。

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Fig.1:Kibler WB, 2002より引用改変

 

 この評価方法は、肩甲骨の運動の異常をタイプ別に検出できるため、治療方法の選定につなげることができる利点があるとKiblerらは言います。例えば、肩甲骨の下角が突出するタイプⅠであれば、肩甲骨の後傾を促す治療方法を選択することができます。

 

 しかし一方で、評価の信頼性(一致度)を示すκ係数が0.31-0.42と低いことが問題でした。

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✻ κ係数の判断基準

 

 Kiblerらは信頼性が低い理由について、そもそも視覚的な評価では検者間の異なりが大きいと述べています。肩甲骨が動くときには皮膚とのズレが生じるため、皮膚上にマーカーを付けることができません。そのため、マーカーのない視覚的な評価は検査者のスキルに依存するのです。

 

 また、そもそも肩甲骨の動きを完全に4つのタイプに分類することができないとも言います。肩甲骨の動きは3軸のため、タイプが組み合わさることがあるのです。例えば挙上時にはタイプⅢ(肩甲骨の過度な挙上)が生じ、下降時にはタイプⅠ(肩甲骨の下角の突出)が生じる場合、4つのタイプでは対応できません。

 

 Kiblerらは、これらの問題点を改善し、精度の高い視覚的な評価方法を追求していくべきであると論じています(Kibler WB, 2002)。



◆ Scapular dyskinesisの評価はよりシンプルに?

 

 2009年、アルカディア大学のMcClureらは、Kiblerらの評価方法の信頼性が低いことを挙げて、そもそもScpular dyskinesisを4つのタイプに分類することに無理があると言います。そして新たな評価方法を提案しました。

 

 McClureらは、Scapular dyskinesisの程度を明確化させるために「正常、軽度、明から」の3つの分類を用いました。

 

 まず、被検者は1〜3kgの重りを両手に把持し、肩の挙上と外転を行います。重りを付加したほうが筋の機能不全を検出しやすいためです。次に、被験者は肩の挙上と外転をそれぞれ5回行います。

 

 検査者は後方より肩甲骨の動きをビデオ撮影し、左右の肩甲骨のそれぞれの内側縁の突出(Winging)、早期の挙上や過度の挙上・プロトラクションなどのリズム異常(Dysrhythmia)から、Scapular dyskinesisの程度を3つに分類します。

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Fig.2:McClure P, 2009より引用

 

 ビデオ撮影により得られた所見から、Scapular dyskinesisは外転より屈曲で生じやすいこと、挙上時よりも下降時に生じやすい傾向であることがわかりました。さらに、Scapular dyskinesisの分類を3種類にしたことによって、評価の信頼性はKiblerらに比べて、確実に向上しました(κ係数:0.48-0.61、一致率:75%-82%)。

 

 これらの結果から、McClureらは、Scapular dyskinesisの評価はよりシンプルに分類したほうが良いと結論づけています(McClure P, 2009)。

 

 また、「Scapular dyskinesisの評価はよりシンプルに」と考えたのはMcClureだけではありませんでした。

 

 2009年、ケンタッキー大学のUhlらは、Scapular dyskinesisの視覚的な評価方法をさらに簡略化しました。その方法は、Scapular dyskinesisが「あるorなし(yes/no)」の2分類です。

 

 Uhlらは、Kiblerらの4分類をもとに、肩甲骨の下角や内側縁が突出するタイプⅠ〜Ⅲの所見が含まれるものを「ある(Yes)」、左右対称性(タイプⅣ)のものを「なし(No)」と分類しました。

 

 この分類により、評価の信頼性は高い値(一致率:79%)を示し、Scapular dyskinesisの有無を明確化させるスクリーニングとして有用であると述べています(Uhl TL, 2009)。

 

 McClureやUhlらの報告によって、評価方法をよりシンプルにすることで、Scapular dyskinesisの存在や程度を高い信頼性をもって示すことができるようになりました。

 

 しかし、何かひっかかります。

 

 確かに評価をシンプルにすることでScapular dyskinesisのスクリーニングには有用です。では、その評価から問題点の抽出、治療へのリーズニングができるのでしょうか?

 

 Kiblerらは、4分類の利点を「肩甲骨の運動異常をタイプ別に検出することにより問題点を明らかするとともに、治療方法の選定につなげることができる」と述べています。評価の先に何を見出すのか?と問われれば、ただ評価をシンプルにすれば良いというわけではないように感じます。しかしながら、Kiblerの評価の利点と信頼性がトレードオフの関係であることも否めません。

 

 では、Kiblerの評価の利点と高い信頼性を合わせもつ評価方法はあるのでしょうか?

 

 次回、この問いに挑戦した近年の報告をご紹介して、さらに考察を進めていきたいと思います。

 

 追伸:今回のテーマは前編、後編の2回に分ける予定でしたが、思いのほか字数が多くなってしまいました。次回を後編としてScapular dyskinesisの評価についてまとめていきます。

 

 

肩関節のしくみとリハビリテーション

肩リハビリ①:肩関節痛に対する適切な運動を導くためのアルゴリズム

肩リハビリ②:腱板断裂術後の再断裂のリスクが15倍になる指標とは?

肩リハビリ③:腱板断裂(損傷)の新しいリスク指標を知ろう

肩リハビリ④:腱板断裂(損傷)の発症アルゴリズムからリハビリを考えよう 

肩リハビリ⑤:肩甲骨の運動とその役割を正しく理解しよう

肩リハビリ⑥:肩甲骨のキネマティクスと小胸筋の関係を知っておこう

肩リハビリ⑦:新しい概念「Scapular dyskinesis」を知っておこう

肩リハビリ⑧:肩甲骨周囲筋の筋電図研究の不都合な真実 

肩リハビリ⑨:肩甲骨の運動異常(Scapular dyskinesis)を評価しよう 前編

肩リハビリ⑩:肩甲骨の運動異常(Scapular dyskinesis)を評価しよう 中編

 

References

Kibler WB, et al. Qualitative clinical evaluation of scapular dysfunction: a reliability study. J Shoulder Elbow Surg. 2002 Nov-Dec;11(6):550-6.

McClure P, et al. A clinical method for identifying scapular dyskinesis, part 1: reliability. J Athl Train. 2009 Mar-Apr;44(2):160-4.

Uhl TL, et al. Evaluation of clinical assessment methods for scapular dyskinesis. Arthroscopy. 2009 Nov;25(11):1240-8.