リハビリmemo

大学病院勤務・大学院リハビリテーション学所属の理学療法士による「研究と臨床をつなげるための記録」

脳卒中のリスクを減少させるタンパク質摂取の最適戦略とは?

 

 「タンパク質の摂取は脳卒中になるリスクを減少させる」

 

 2014年、南京大学のZhangらは、これまでに報告された7つの研究(254,489名を対象)からタンパク質の摂取と脳卒中の発症リスクについてのメタアナリシスを報告しています。

 

 その結果は、動物性タンパク質を多く摂取することで3割ほどの脳卒中の発症リスクを減らすことができるというものでした。さらに、タンパク質を多く摂取するればするほど発症リスクは減少し、1日に20g多く摂取することによって、最大26%の発症リスクを軽減させることが示されています(Zhang Z, 2014)。

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Fig.1:Zhang Z, 2014より筆者作成

 

 脳卒中とは、脳の血管が詰まる「脳梗塞」、脳の血管から出血する「脳出血」、脳のクモ膜の下で出血する「クモ膜下出血」を含めた病気の総称です。脳卒中を発症すると半身の運動麻痺や発話などの障害を伴い、生活の質(QOL)を大きく下げるとともに、寝たきり(要介護)の原因の第1位にもなっています(資料1)。

 

 タンパク質の摂取は、このような脳卒中の発症リスクを軽減することができることが明らかになっているのです。

 

 しかし、西洋諸国とアジア諸国の食文化はまったく異なっており、脳卒中の発症リスクは欧米人よりもアジア人で高い傾向にあります。Zhangらの報告は欧米人を対象にしたものであり、その結果をそのままアジア人に当てはめることには疑義の声が挙がっていました。

 

 そして、この疑義に答えを示したのが、今年6月の雑誌Strokeに掲載された九州大学のOzawaらの報告です。

 

 Ozawaらは、日本人を対象にタンパク質の摂取による脳卒中の発症リスクへの影響を検証するだけでなく、タンパク質を植物性と動物性に、脳卒中脳梗塞脳出血クモ膜下出血に分けて詳細に調査しました。

 

 

Table of contents

 

 

◆ 日本で行われた長期間・大規模調査の結果は?

 

 福岡県の郊外にある久山町では、1961年より住民8,000名ほどを対象にした大規模な疫学調査(通称The Hisayama study)が行われています。

 

 その中から1988年からの19年間で40〜79歳を含む2,400名(男性1017名、女性1383名)の対象者がOzawaらの調査に登録されました。

 

 対象者は1〜2年おきに健康診断や郵便または電話による健康調査を受けました。タンパク質の摂取状況はアンケートによる食事調査によって行われています。

 

 19年間の追跡調査の間に脳梗塞172名、脳出血58名、クモ膜下出血24名の発症が認められました。

 

 長期間の大規模調査の結果、タンパク質の摂取が多いほど、脳卒中の発症リスクが低くなることがわかりました。タンパク質を1日10g多く摂取することで脳卒中のリスクが15%減少することが示されています。

 

 また、タンパク質を植物性、動物性に分けて分析してみると、植物性タンパク質の摂取の増加は脳梗塞の発症リスクを軽減させ、動物性タンパク質の摂取の増加は脳出血の発症リスクを減少させることが明らかになりました。

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Fig.2:植物性タンパク質の摂取と脳卒中の発症率(Ozawa M, 2017より筆者作成)

 

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Fig.3:動物性タンパク質の摂取と脳卒中の発症率(Ozawa M, 2017より筆者作成)

 

 さらに植物性、動物性タンパク質と食品との関係をみると、植物性タンパク質は大豆や大豆製品、野菜などとの相関があり、動物性タンパク質は魚、乳製品、肉との相関が示されました。

 

 

脳卒中を予防するタンパク質摂取の最適戦略

 

 植物性タンパク質は脳梗塞を、動物性タンパク質は脳出血の発症リスクを低下させるという「タンパク質特異的なリスク軽減効果」があることがわかりました。

 

 植物性タンパク質の摂取が脳梗塞の発症リスクを減少させた理由をOzawaらは、野菜に含まれるアルギニンによる作用(Palmer JP, 1976)とともに、大豆によるコレストロールの低下作用(Erdman JW Jr. 2000)、イソフラボンの作用(Yu D, 2015)と合わせて脳梗塞の予防に寄与したと推測しています。

 

 また動物性タンパク質による脳出血の発症リスクを減少については、そのメカニズムはまだ明らかにされていないとして、動物実験による知見を論拠として挙げています。ラットを用いた研究では、乳タンパク質の摂取により、血圧の低下、脳出血の予防効果が示されています(Chiba T, 2012)。

 

 これらの結果から、Ozawaらは、脳卒中を予防する有効な戦略として「植物性タンパク質と動物性タンパク質をバランスよく多く摂取すること」を推奨しています(Ozawa M, 2017)。

 

 

 Ozawaらの報告は、欧米人中心で行われたタンパク質摂取と脳卒中リスクの知見にアジア人での検証結果を追加するものとして価値ある研究成果と思われます。さらにタンパク質を植物性と動物性に、脳卒中脳梗塞脳出血クモ膜下出血に分けることで、脳卒中を包括的に予防するためのタンパク質摂取の最適戦略を与えてくれているのです。

 

 トレーニングに励んでいると、どうしても動物性タンパク質の摂取に偏りがちですが、それでは植物性タンパク質による脳梗塞のリスク軽減の恩恵を受けることができません。植物性タンパク質の摂取の重要性を気づかせてくれる報告でもありますね。

 

 

◆ 読んでおきたい記事

シリーズ①:筋肉を増やすための栄養摂取のメカニズムを理解しよう

シリーズ②:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取量を知っておこう

シリーズ③:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取タイミングを知っておこう

シリーズ④:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取パターンを知っておこう

シリーズ⑤:筋トレの効果を最大にする就寝前のプロテイン摂取を知っておこう

シリーズ⑥:筋トレの効果を最大にする就寝前のプロテイン摂取の方法論 

シリーズ⑦:筋トレの効果を最大にする運動強度(負荷)について知っておこう

シリーズ⑧:筋トレの効果を最大にする運動強度(負荷)の実践論

シリーズ⑨:筋トレの効果を最大にするセット数について知っておこう 

シリーズ⑩:筋トレの効果を最大にするセット間の休憩時間について知っておこう

シリーズ⑪:筋トレの効果を最大にするトレーニングの頻度について知っておこう

シリーズ⑫:筋トレの効果を最大にするタンパク質の品質について知っておこう

シリーズ⑬:筋トレの効果を最大にするロイシンについて知っておこう

 

References

Zhang Z, et al. Quantitative analysis of dietary protein intake and stroke risk. Neurology. 2014 Jul 1;83(1):19-25.

Ozawa M, et al. Dietary Protein Intake and Stroke Risk in a General Japanese Population: The Hisayama Study. Stroke. 2017 Jun;48(6):1478-1486.

Palmer JP, et al. Arginine-stimulated acute phase of insulin and glucagon secretion in diabetic subjects. J Clin Invest. 1976 Sep;58(3):565-70.

Erdman JW Jr. AHA Science Advisory: Soy protein and cardiovascular disease: A statement for healthcare professionals from the Nutrition Committee of the AHA. Circulation. 2000 Nov 14;102(20):2555-9.

Yu D, et al. Dietary isoflavones, urinary isoflavonoids, and risk of ischemic stroke in women. Am J Clin Nutr. 2015 Sep;102(3):680-6.

Chiba T, et al. Delay of stroke onset by milk proteins in stroke-prone spontaneously hypertensive rats. Stroke. 2012 Feb;43(2):470-7. 

資料1:平成25年国民生活基礎調査の概要(厚生労働省

筋トレの効果を最大にするロイシンについて知っておこう

 

 市販されているプロテインサプリメントは数多くあり、そのもととなるタンパク質の種類には、乳タンパク質のホエイやカゼイン、大豆タンパク質のソイなどがあります。そのため「どのタンパク質がもっともトレーニングの効果を高めるのか?」という声をよく聞きます。

 

 この問いについて、54ものタンパク質の品質の研究報告をレビューし、答えを導き出したのがテキサス医科大学のRaidyらです。

 

 Raidyらは最初に「タンパク質の種類はそんなに関係ない」と言います。

 

 このことは、筋肉のもととなる筋タンパク質の合成作用が時間で換算された「合成量」で考えるからです。

 

 タンパク質の摂取パターンは人によりそれぞれです。研究によりもっとも効率的なタンパク質の摂取パターンは3時間おきとされています。この場合はファストタンパク質と言われるホエイが最適になります。しかし5-6時間おきにタンパク質を摂取するパターンではスロータンパク質であるカゼインを選択したほうが筋タンパク質の合成量は高くなるのです。

筋トレの効果を最大にするタンパク質の品質について知っておこう

 

 Raidyらは次に、タンパク質の種類よりも大事なことがあると言います。それが「ロイシンの量」です。

 

 今回は、なぜロイシンの量が重要なのか、その科学的根拠について考察していきましょう。

 

 

Table of contents

 

 

◆ 筋タンパク質の合成作用のkey factorはロイシンである

 

 筋肉を肥大させるためには、筋タンパク質の合成作用を高めなければなりません。筋タンパク質の合成作用は、血液中のアミノ酸の濃度により促進されます。しかし、体内で作ることができる非必須アミノ酸では合成作用は促進されません。体内で作ることができない必須アミノ酸EAA)によって促進されます。さらに必須アミノ酸は9種類ありますが、その中でも分岐鎖アミノ酸(BCAA)であるロイシンの働きが近年、注目されています。

筋トレの効果を最大にする栄養摂取のメカニズムを理解しよう

 

 ロイシンが筋タンパク質の合成作用を促進させるメカニズムはとても複雑で完全に解明されているとはいえません。ロイシンは筋肉細胞内でSestrin2と結合し、GATOR2の働きを抑制することによって、分子複合体であるmTORC1シグナル経路を活性化させ、mRNAの翻訳調節を介し…これ以上はさすがに読むのが嫌になると思いますので、詳細は教科書をご参照ください。。。

 

 ロイシンの重要性が決定的になったのは、2016年の雑誌ScienceでロイシンセンサーであるSestrin2の存在の確認が報告されたことです。これによって、ロイシンが筋タンパク質の合成作用を促進させるkey factorであることが強く示唆されているのです(Wolfson RL, 2016)。

 

 では、実際にロイシンは、筋タンパク質にどのような影響を与えるのでしょうか?

 

 

◆ ロイシンの量が筋タンパク質の合成作用を左右する

 

 ロイシンが注目される中、ロイシンの量による筋タンパク質の合成作用への影響を調査したのが、マクマスター大学のChurchward-Venneらです。

 

 2014年、Churchward-Venneらは、40名の被験者を対象に、レジスタンストレーニング後のタンパク質の摂取を4つの条件に分け、摂取後4.5時間の筋タンパク質の合成量を比較しました。

 

 4つの条件とは、ホエイタンパク質とロイシンの摂取量に応じて分けられています。

・多いホエイ25g(WH)

・少ないホエイ6.25g(WL)

・少ないホエイ6.25g+少ないロイシン0.75g(HL+LL)

・少ないホエイ6.25g+多いロイシン5g(WL+LH

*WH:Why High、WL:Why Low、LL:Luecine Low、LH:Leucine High

 

 その結果、多いホエイの摂取に比べて少ないホエイでは、やはり筋タンパク質の合成作用は低い値を示しました。

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Fig.1:Churchward-Venne TA, 2014より筆者作成

 

 また、少ないホエイに少ないロイシンを加えても多いホエイを上回ることはできませんでした。

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Fig.2:Churchward-Venne TA, 2014より筆者作成

 

 しかし、少ないホエイでも多くのロイシンを摂取することで、多いホエイと同様の筋タンパク質の合成量が示されました。

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Fig.3:Churchward-Venne TA, 2014より筆者作成

 

 この結果からChurchward-Venneらは、少ないホエイタンパク質に少量のロイシンを加えても合成量を高めることはできないが、ロイシンの量が十分であれば、豊富なホエイタンパク質と同等に筋タンパク質の合成量を高められることを明らかにしました(Churchward-Venne TA, 2014)。

 

 ホエイ25gの1/4である6.25gでもロイシンによって同じ筋タンパク質の合成量が得られるという結果はとてもインパクトがありました。このことは、筋タンパク質の合成作用がタンパク質の摂取量の増減に関わらず、ロイシンの量が決め手であることを示唆しています。また、タンパク質の品質の研究では珍しく、ランダム比較試験(RCT)による結果であることからも注目されています。

 

 

 プロテインサプリメントのもととなるタンパク質の種類にはホエイをはじめカゼイン、ソイなどがあります。それぞれのタンパク質は吸収速度などの特徴をもっています。そのため、タンパク質の種類ではなく、摂取パターンによって最適なタンパク質を選ぶことをRaidyらは推奨しています。

 

 そして、このようなロイシンの効果の背景から、それぞれのタンパク質による筋タンパク質の合成作用を最大化するためには、そこに含まれている「ロイシンの量」が重要であるとRaidyらは述べているのです(Reidy PT, 2016)。

 

 では、どの程度のロイシンの量を摂取すれば良いのでしょうか。ロイシンの摂取量は年齢や活動性により影響されます。次回はロイシンの摂取量について確認していきましょう。

 

 

◆ 読んでおきたい記事

シリーズ①:筋肉を増やすための栄養摂取のメカニズムを理解しよう

シリーズ②:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取量を知っておこう

シリーズ③:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取タイミングを知っておこう

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シリーズ⑦:筋トレの効果を最大にする運動強度(負荷)について知っておこう

シリーズ⑧:筋トレの効果を最大にする運動強度(負荷)の実践論

シリーズ⑨:筋トレの効果を最大にするセット数について知っておこう 

シリーズ⑩:筋トレの効果を最大にするセット間の休憩時間について知っておこう

シリーズ⑪:筋トレの効果を最大にするトレーニングの頻度について知っておこう

シリーズ⑫:筋トレの効果を最大にするタンパク質の品質について知っておこう

シリーズ⑬:筋トレの効果を最大にするロイシンについて知っておこう

 

References

Wolfson RL, et al. Sestrin2 is a leucine sensor for the mTORC1 pathway. Science. 2016 Jan 1;351(6268):43-8.

Churchward-Venne TA, et al. Leucine supplementation of a low-protein mixed macronutrient beverage enhances myofibrillar protein synthesis in young men: a double-blind, randomized trial. Am J Clin Nutr. 2014 Feb;99(2):276-86.

Reidy PT, et al. Role of Ingested Amino Acids and Protein in the Promotion of Resistance Exercise-Induced Muscle Protein Anabolism. J Nutr. 2016 Feb;146(2):155-83. 

筋トレの効果を最大にするタンパク質の品質について知っておこう

 

 筋肉のもとである筋タンパク質は、トレーニングとタンパク質の摂取によって、その合成作用を増加させ、筋肉を肥大させます。

 

 筋タンパク質の合成作用 = トレーニング × タンパク質の摂取

 

 トレーニングの成果を最大にするためには、摂取するタンパク質の摂取量やタイミング、パターンなどとともに「品質(Quality)」を考慮しなければなりません。

 

 タンパク質の摂取 = 摂取量 × タイミング × パターン × 品質(Quality)

 

 これまでにスポーツ栄養学やスポーツ運動生理学の多くの研究において、動物性や植物性のタンパク質がトレーニング後の筋タンパク質の合成作用を増加させることが報告されています。

 

 これらの研究のもと、現在ではサプリメントとして数多くのプロテインが販売されています。その多くが乳タンパク質のホエイやカゼイン、大豆(ソイ)タンパク質です。

 

 そこで話題になるのは、どのタンパク質が筋タンパク質の合成作用をもっとも高めるのか?という問いです。

 

 この問いに対して、テキサス医科大学のReidyらは、タンパク質の品質について検証したシステマティックレビューを2016年に報告しました。54もの論文をもとに検証した結果、見えてきた答えが「ふたつ」があったのです(Reidy PT, 2016)。

 

 今回は、Reidyらのシステマティックレビューを参考に、タンパク質の品質(Quality)について考察していきましょう。

 

Table of contants 

 

 

◆ 筋タンパク質の合成作用を高める高品質なタンパク質とは?

 

 タンパク質の品質は、アミノ酸組成と消化速度によって決まります。

 

 タンパク質の品質 = アミノ酸組成 × 消化速度

 

 アミノ酸組成とは、アミノ酸の成分構成を示したものであり、筋タンパク質の合成には、必須アミノ酸の中でも分岐鎖アミノ酸(BCAA)が重要とされています。乳タンパク質のホエイやカゼイン、大豆(ソイ)タンパク質は、すべてBCAAを含んでいますが、それぞれの消化速度が異なります。

 

 ホエイは、消化速度が急速であり、摂取直後から血中のアミノ酸濃度を上昇させます。この効果は一時的であり、3時間前後で通常のレベルに戻ります。そのため「ファスト」タンパク質と言われています。

 

 これに対して、同じ乳タンパク質のカゼインは「スロー」タンパク質と言わるほど、吸収速度が遅く長い特徴をもっています。血中のアミノ酸濃度が通常レベルに戻るまでに6時間ほどかかるとされています(Boirie Y, 1997)。

 

 ソイは、ホエイとカゼインの「中間」の消化速度を有しています。またホエイやカゼインとは異なり、特有な抗酸化・抗炎症化作用などをもっています(Bos C, 2003)。

 

 では、ホエイ、カゼイン、ソイによる筋タンパク質の合成作用への影響はどうなのでしょうか?

 

 2005年ごろからアミノ酸安定同位体による筋タンパク質の合成作用の計測が可能となり、筋タンパク質の合成作用の研究成果が報告されるようになりました。

 

 2007年、マクマスター大学のWilkinsonらは、ホエイとカゼインをブレンドした乳タンパク質とソイによる筋タンパク質の合成作用を比較した研究を報告しています。

 

 Wilkinsonらは、トレーニング歴のある被検者をホエイとカゼインのブレンドを摂取するグループとソイを摂取するグループの2つに分けました。レジスタンストレーニング後、それぞれのタンパク質を摂取し、3時間後の筋タンパク質の合成率を計測しました。その結果、ホエイとカゼインのブレンドはソイに比べて有意に筋タンパク質の合成率を高めることがわかりました(Wilkinson SB, 2007)。

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FIg.1:Wilkinson SB, 2007より引用改編

 

 2009年には、Tangらによりホエイ、カゼイン、ソイのそれぞれのタンパク質摂取による筋タンパク質の合成作用が検証されています。

 

 トレーニング歴のある被験者を異なるタンパク質(ホエイ、カゼイン、ソイ)を摂取する3つのグループに分けました。トレーニング直後にそれぞれのタンパク質を摂取し、3時間後の筋タンパク質の合成率を計測しました。その結果、筋タンパク質の合成作用はホエイがもっとも高く、次いでソイ、カゼインの順となったのです(Tang JE, 2009)。

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Fig.2:Tang JE, 2009より引用改編

 

 これらの結果から、現在ではホエイがアミノ酸組成が豊富で、吸収速度が速く、筋タンパク質の合成作用が高い高品質なタンパク質とされているのです。プロテインサプリメントでもホエイが人気なのは、これらの研究結果が根拠になっているのです。

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Fig.3:Phillips SM, 2013より筆者作成

 

 しかし、これに疑義を表明したのがテキサス医科大学のReidyらです。

 

 Reidyらは、過去20年の間に報告された大部分の研究が「3時間以内」の短期効果しか見ていないことを指摘したのです。

 

 

◆ 短期ではなく長期効果を見ることで本質が見えてくる

 

 「3時間以内」の短期効果しか見ていないという偏った検証方法に警鐘を鳴らしたReidyらは「4〜6時間の長期効果で見てみると結果は異なってくる」と述べています。

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 この検証を行ったのがコペンハーゲン大学のReitelsederらです。2011年、Reitelsederらはホエイとカゼインによる筋タンパク質の合成作用の長期効果を調査しました。

 

 被験者はトレーニング後にホエイを摂取するグループ、カゼインを摂取するグループ、水を摂取するグループ(コントロール)に分けられました。タンパク質を摂取し、3時間後、6時間後の筋タンパク質の合成率を測定してみると意外な結果が示されました。

 

 1-3時間の短期効果では、過去の報告と同様にホエイがカゼインよりも筋タンパク質の合成作用が高いという結果が得られました。しかし、4-6時間の長期効果では、なんとカゼインがホエイの筋タンパク質の合成作用を超え、1-6時間の合計においてもカゼインがホエイの合成作用を上回ったのです(Reitelseder S, 2011)。

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Fig.4:Reitelseder S, 2011より引用改編

 

 また、ソイ単独の長期効果を示した報告は今のところありませんが、ソイに少量の乳タンパク質をブレンドし、ホエイと比較した長期効果(4時間)の検証結果では、ソイブレンドがホエイよりも筋タンパク質の合成作用を高めることが示唆されています(Reidy PT, 2013)。

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Fig.5:Reidy PT, 2013より引用改編

 

 これらの結果もとにReidyらは、タンパク質の摂取による短期効果と長期効果では結果が異なることを示唆してるのです。

 

 トレーニングによる筋タンパク質の合成作用の増加は24時間つづきます。この24時間で如何に筋タンパク質の「合成量」を高めるのかが、トレーニングの効果を最大化させる条件になります。つまり、筋タンパク質の合成量の合計を高めるためには、最大値(ピーク)を求めるのではなく、時間でみる積分値(インパルス)が重要になるのです。

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 タンパク質の摂取から3時間という短期効果では、消化速度がファストなホエイが筋タンパク質の合成作用を増加させますが、これはピークが高いことに起因しています。6時間という長期効果ではスローなタンパク質であるカゼインがホエイを超える合成量を示します。これは時間的なインパルスにおいてカゼインがホエイを上回るためです。

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 これらの結果を参考にすると、タンパク質の摂取パターンによってタンパク質の品質を選ぶことができます。筋タンパク質の合成にベストと言われる3時間おきの摂取パターンでは、ホエイが最適になります。5-6時間といった毎食ごとの摂取パターンでは、カゼインが最適になるでしょう。 

筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取パターンを知っておこう』  

 

 

 どのタンパク質が筋タンパク質の合成作用をもっとも高めるのか?

 

 この問に対して、Reidyらは、このような背景から「タンパク質の種類は関係ない」と答えています。そして大事なことは「もうひとつ」の答えにあると。

 

 次回は、Reidyらの「もうひとつ」の答えとともに、これらの知見を参考にしたプロテインサプリメントの選び方について考えていきましょう。 

 

 

◆ 読んでおきたい記事

シリーズ①:筋肉を増やすための栄養摂取のメカニズムを理解しよう

シリーズ②:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取量を知っておこう

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シリーズ⑧:筋トレの効果を最大にする運動強度(負荷)の実践論

シリーズ⑨:筋トレの効果を最大にするセット数について知っておこう 

シリーズ⑩:筋トレの効果を最大にするセット間の休憩時間について知っておこう

シリーズ⑪:筋トレの効果を最大にするトレーニングの頻度について知っておこう

シリーズ⑫:筋トレの効果を最大にするタンパク質の品質について知っておこう

 

References

Reidy PT, et al. Role of Ingested Amino Acids and Protein in the Promotion of Resistance Exercise-Induced Muscle Protein Anabolism. J Nutr. 2016 Feb;146(2):155-83. 

Wilkinson SB, et al. Consumption of fluid skim milk promotes greater muscle protein accretion after resistance exercise than does consumption of an isonitrogenous and isoenergetic soy-protein beverage. Am J Clin Nutr. 2007 Apr;85(4):1031-40.

Tang JE, et al. Ingestion of whey hydrolysate, casein, or soy protein isolate: effects on mixed muscle protein synthesis at rest and following resistance exercise in young men. J Appl Physiol (1985). 2009 Sep;107(3):987-92. 

Phillips SM. A brief review of critical processes in exercise-induced muscular hypertrophy. Sports Med. 2014 May;44 Suppl 1:S71-7. 

Boirie Y, et al. Slow and fast dietary proteins differently modulate postprandial protein accretion.Proc Natl Acad Sci U S A. 1997 Dec 23;94(26):14930-5.

Bos C, et al. Postprandial kinetics of dietary amino acids are the main determinant of their metabolism after soy or milk protein ingestion in humans. J Nutr. 2003 May;133(5):1308-15.

Reitelseder S, et al. Whey and casein labeled with L-[1-13C]leucine and muscle protein synthesis: effect of resistance exercise and protein ingestion. Am J Physiol Endocrinol Metab. 2011 Jan;300(1):E231-42.

Reidy PT, et al. Protein blend ingestion following resistance exercise promotes human muscle protein synthesis. J Nutr. 2013 Apr;143(4):410-6.

変形性膝関節症のウォーキングの注意点を知っておこう

 

「なるべくウォーキングをしましょう」

 

 変形性膝関節症や変形性股関節症の保存療法において、多くの医療者はウォーキングを推奨しています。

 

 歩行の機会が少なくなると関節症の悪化や筋力の低下、心肺および血管機能の低下が進み、生活の質(QOL)が損なわれることが明らかになっています(Messier SP, 2000)。これに対して、変形性関節症に対するウォーキングなどの有酸素運動は、筋力の維持や心肺機能の改善などに寄与することがエビデンスで示されています。

 

 719もの論文からエビデンスにもとづいたガイドラインを作成する研究グループであるオワタパネル(Owatta Panel)による報告では、変形性関節症のウォーキングは、少なくとも30分、週に3〜4回は行うことを推奨しています(Loew L, 2012)。このようなウォーキングの推奨は、アメリカ老年医学会によっても勧告されています(American Geriatrics Society Panel on Exercise and Osteoarthritis. 2000)。

 

 これらの背景から、多くの医療者が変形性関節症の患者さんにウォーキングを勧めているのです。

 

 しかし、エビデンスをもとにした医療者の提案に対して、患者さんの多くがこう答えます。

 

「ウォーキングをすると関節が痛くなるので、歩きたくありません」

 

 今回は、変形性膝関節症のウォーキングの注意点について、2017年5月に報告されたFarrokhiらの研究をもとに考察していきましょう。

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筋トレの効果を最大にするトレーニングの頻度について知っておこう

 

「筋タンパク質の合成作用を最大化させる」

 

 現代のスポーツ運動生理学は、筋力トレーニングの目的についてこのように述べています。効果的なトレーニングとは、筋肉のもとである筋タンパク質の合成作用を効率的に高めるトレーニングのことを言います。現在では、このような観点からトレーニング内容を再設計(リ・デザイン)する研究がトピックスとなっているのです。

 

 トレーニングの効果は、運動強度、運動回数、セット数など変数(値)によって決まります。効果的にトレーニングを行うためには、それぞれの変数が筋タンパク質の合成作用をもっとも高めるようにデザインされなければなりません。

 

 効果的なトレーニング = 総負荷量(運動強度 × 運動回数) × セット数 × セット間の休憩時間…etc

 

 これまで、筋タンパク質の合成作用を高める運動強度や運動回数、セット数について考えてきました。今回は、トレーニングの頻度(週に何回、行えば良いか?)について考察していきましょう。

 

Table of contents

 

 

◆ 一般的なトレーニング頻度は週2〜3回

 

 一般的なトレーニングの運動強度やレップ数、セット数などは2009年に発表されたアメリカスポーツ医学会(ACSM)のガイドラインに準じて設定されてきました(American College of Sports Medicine. 2009)。

 

 ACSMガイドライン2009では、トレーニングの頻度についても提言されています。ガイドラインでは、初級者や中級者は週2〜3回、上級者(競技者)は週4〜6回のトレーニング頻度を推奨しています。

 

 また、2016年の雑誌Sports Medecineに掲載されたトレーニング頻度のメタアナリシスでは、週1回でも筋肉の肥大は生じるが、1回に比べて2回のほうが筋肥大の効果は大きいこと、週3回のトレーニング頻度が週2回より優れている根拠は統計的に得られていないことが報告されています(Schoenfeld BJ, 2016)。

 

 このような背景から、メディアやブログでは、最適なトレーニング頻度は週2〜3回であるという記事が多く見られます。

 

 しかし、2017年3月、ミシシッピ大学のDankelらにより、筋タンパク質の合成作用の視点からトレーニング頻度を再設計した新たな仮説が発表されたのです。

 

 

◆ 週単位の筋タンパク質の合成量からトレーニング頻度をデザインする

 

 近年、筋タンパク質の合成作用には限界点(anabolic limit)があるということが報告されています。

 

 運動強度では、1RMの60%を超えると筋タンパク質の合成作用の増加はプラトーになります。

筋トレの効果を最大にする運動強度について知っておこう

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Fig.1:Kumar V, 2009より引用改編

 

 また、1日3セットを超えたセット数を実施しても効果的な筋タンパク質の合成作用の増加は期待できません。

筋トレの効果を最大にするセット数について知っておこう

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Fig.2:Kumar V, 2012より引用改編

 

 さらに、プロテインや食事によるタンパク質の摂取量は0.24g/kg以上を超えると筋タンパク質の合成作用は増加しないことが明らかになっています。

筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取量を知っておこう』 

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Fig.3:Moore DR, 2015より引用改編

 

 Dankelらは、筋タンパク質の合成作用の限界点を超えないようにトレーニング内容をデザインし、頻度を多くすることにより、週単位の筋タンパク質の合成量を効率的に高めることができると考えました。

 

 それでは、Dankelらの仮説を見てみましょう。

 

 まずは、通常のトレーニングを想定してみましょう。トレーニングの頻度は、月曜日と木曜日の週2回です。筋タンパク質の合成作用を高めるために、疲労困憊まで自分を追い込みました。このときの筋タンパク質の合成作用は限界点を超え、最大限の合成量を得ることができています。

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 Fig.4:Dankel SJ, 2017より引用改編

 

 これに対して、Dankelらは、筋タンパク質の合成作用の限界点を超えないように総負荷量(運動強度と運動回数)やセット数を調整することによって、毎日トレーニングを行えば、週単位の筋タンパク質の合成量を最大化することができると推測しています。

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Fig.5:Dankel SJ, 2017より引用改編

 

 Dankelらは、筋タンパク質の合成作用の限界点を考えれば、1度のトレーニングで疲労困憊まで行うことは非効率的であると言います。疲労困憊まで行うことによって疲労回復に時間を要することとなり、トレーニングの機会を損失することになります。その結果、週単位の筋タンパク質の合成量が減ってしまいます。

 

 また、トレーニングによる筋タンパク質の合成作用の増加はトレーニング後24時間を超えると基準値に戻ってしまいます(Burd NA, 2011)。そのため、トレーニング頻度を増やし、筋タンパク質の合成作用を高いレベルに維持することが、週単位の合成量を高める有効な手段であるとしています。

 

 週単位の筋タンパク質の合成量という視点から考えると、疲労困憊まで追い込むように総負荷量やセット数を増やすのではなく、疲労が残らない程度に調整し、トレーニング頻度を増やしたほうが効率的なトレーニングになるとDankelらは推察しているのです。

 

 Dankelらの仮説は、正にコペルニクス的な転換の発想です。1日単位のトレーニング内容を考えるのではなく、週単位で筋タンパク質の合成量を増やすようにトレーニング内容をデザインするのです。

 

 しかしながら、1日あたりのトレーニングのボリュームをどの程度に調整すれば良いのか、通常のトレーニング頻度に比べて有意な筋肥大が生じるのかという疑問については今後の検証が必要です。Dankelらの仮説をもとに検証された報告が発表され次第、本ブログでご紹介していきます。現状では、ACSMのガイドラインやメタアナリシスに従い、週2〜3回のトレーニング頻度が適当であると思われます。

 

 

◆ 読んでおきたい参考記事

シリーズ①:筋肉を増やすための栄養摂取のメカニズムを理解しよう

シリーズ②:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取量を知っておこう

シリーズ③:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取タイミングを知っておこう

シリーズ④:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取パターンを知っておこう

シリーズ⑤:筋トレの効果を最大にする就寝前のプロテイン摂取を知っておこう

シリーズ⑥:筋トレの効果を最大にする就寝前のプロテイン摂取の方法論 

シリーズ⑦:筋トレの効果を最大にする運動強度(負荷)について知っておこう

シリーズ⑧:筋トレの効果を最大にする運動強度(負荷)の実践論

シリーズ⑨:筋トレの効果を最大にするセット数について知っておこう 

シリーズ⑩:筋トレの効果を最大にするセット間の休憩時間について知っておこう

シリーズ⑪:筋トレの効果を最大にするトレーニングの頻度について知っておこう

シリーズ⑫:筋トレの効果を最大にするタンパク質の品質について知っておこう

 

References

American College of Sports Medicine. American College of Sports Medicine position stand. Progression models in resistance training for healthy adults. Med Sci Sports Exerc. 2009 Mar;41(3):687-708.

Schoenfeld BJ, et al. Effects of Resistance Training Frequency on Measures of Muscle Hypertrophy: A Systematic Review and Meta-Analysis. Sports Med. 2016 Nov;46(11):1689-1697.

Kumar V, et al. Age-related differences in the dose-response relationship of muscle protein synthesis to resistance exercise in young and old men. J Physiol. 2009 Jan 15;587(1):211-7. 

Kumar V, et al. Muscle protein synthetic responses to exercise: effects of age, volume, and intensity. J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2012 Nov;67(11):1170-7.

Moore DR, et al. Protein ingestion to stimulate myofibrillar protein synthesis requires greater relative protein intakes in healthy older versus younger men. J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2015 Jan;70(1):57-62. 

Dankel SJ, et al. Frequency: The Overlooked Resistance Training Variable for Inducing Muscle Hypertrophy? Sports Med. 2017 May;47(5):799-805.

Burd NA, et al. Enhanced amino acid sensitivity of myofibrillar protein synthesis persists for up to 24 h after resistance exercise in young men. J Nutr. 2011 Apr 1;141(4):568-73.