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リハビリmemo

大学病院勤務、大学院リハビリテーション学所属の理学療法士による、研究と臨床をつなげるための記録

筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取パターンを知っておこう

 

 筋肉は筋タンパク質によって作られています。筋タンパク質は24時間、いつも合成と分解を繰り返していますが、私たちの筋肉の量が保たれているのは筋タンパク質の合成と分解のバランスが釣り合っているからです。

筋肉を増やすための栄養摂取のメカニズムを理解しよう

 

 これを24時間の時間軸で見てみましょう。食事(タンパク質)の摂取によって十分な栄養がとれているときは、筋タンパク質の合成作用(ピンク)と分解作用(グレー)の量が同じになります。そのため、筋肉の量は一定に保たれます。

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Fig.1:Phillips SM, 2004より引用改変

 

 無理なダイエットをした場合、食事量の減少により筋タンパク質の合成作用が小さくなります。その結果、合成作用の量を分解作用の量が上まわってしまうため、筋タンパク質は減少します。無理なダイエットは筋肉の量を減らしてしまうのです。

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Fig.2:Phillips SM, 2004より引用改変

 

 反対に、トレーニングを行うと筋タンパク質の分解作用の量を減らせるとともに合成作用の量を増やすことができます。結果的に合成作用が分解作用を大きく上まわり、筋肉の量が増えるのです。

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Fig.3:Phillips SM, 2004より引用改変

 

 そしてこのトレーニングによる筋タンパク質の合成作用の効果は、適切な食事(タンパク質)の摂取パターンによってさらに促進されます。

 

 今回は、筋トレの効果を最大化するためのタンパク質の摂取パターンについて考察していきましょう。

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◆ タンパク質を3時間おきに摂取しよう

 

 トレーニングによる筋タンパク質の合成作用の増加は、トレーニング後の1時間までがピークとなります。この時間帯を栄養学では「筋タンパク質合成の窓(anabolic window)」と呼んでおり、筋トレ効果を最大化するタンパク質摂取のゴールデンタイムと言われています。

筋トレの効果を最大にするタンパク質摂取のタイミングを知っておこう

 

 筋タンパク質の合成作用がピークを超えても、すぐにゼロになることはありません。少なくともトレーニング後24時間は継続することが明らかになっています(Burd NA, 2011)。そのため、筋トレの効果を最大化するためには、ゴールデンタイムといわれるトレーニング直後のタンパク質の摂取とともに「24時間のタンパク質の摂取パターン」が重要になるのです。

 

 では、24時間の最適なタンパク質摂取パターンとはどのようなパターンなのでしょうか?

 

 この疑問を最初に検証したのがオーストラリア・RMIT大学のAretaです。Aretaらは、週2回のレジスタンストレーニングを行っている24名の被験者(平均年齢25歳、体重80kg)を対象にして、タンパク質の摂取パターンによる筋タンパク質の合成率への影響を検証しました。

 

 実験はトレーニング後12時間の間で合計80gのタンパク質を摂取する条件のもと、3つのパターンに分けて調べられました。ひとつは 40gを6時間おきに摂取するパターン、ふたつめは20gを3時間おきに摂取するパターン、みっつめは10gを1.5時間おきに摂取するパターンです。

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Fig.4:Areta JL, 2013より引用改変

 

 それぞれのパターンにおける筋タンパク質の合成率を比べると、タンパク質20gを3時間おきに摂取するパターン②がもっとも合成率が高いことがわかりました。

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Fig.5:Areta JL, 2013より引用改変

 

 この結果は、大量のタンパク質を少ない頻度で摂取したり、少量のタンパク質を高頻度で摂取するパターンでは、効率的に筋タンパク質を合成できないことを示しています。

 

 筋タンパク質の合成作用を最大化させるタンパク質の摂取量は年齢、体重によって必要量が決まっています。必要量を超えるタンパク質は尿によって排出されてしまいます(Phillips SM, 2004)。また、必要量に足りない摂取量では、筋タンパク質の合成は不十分なものとなります。

筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取量を知っておこう

 

 Aretaらの報告により、体重、年齢に応じたタンパク質の必要量を3時間おきに摂取するのがもっともトレーニングの効果を高めるタンパク質の摂取パターンであることが明らかになったのです(Areta JL, 2013)。

 

 

◆ 3食のバランスの良い食事が筋トレの効果を最大化する

 

 しかし、仕事などの日常生活を行いながら、3時間ごとにタンパク質を摂取するのは難しいことです。そこでUTMBのMamerowらは、より実践的な摂取パターンについて検討しました。

 

 Mamerowらは朝食、昼食、夕食時のタンパク質の摂取パターンが筋タンパク質の合成作用に与える影響について調査を行いました。

 

 8名の被検者(平均年齢37歳、体重76kg)をタンパク質を朝・昼・夕食時にバランス良く摂取するパターン(バランス食パターン)、朝・昼食は少なく、夕食時に多く摂取するパターン(偏食パターン)の2つのグループに分けました。2つのグループはそれぞれの摂取パターンを7日間継続し、筋タンパク質の合成率を比較しました。

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Fig.6:タンパク質の摂取量(Mamerow MM, 2014より引用改変)

 

 それぞれのパターンの3食のタンパク質の合計摂取量は同じでしたが、結果は異なるものとなりました。1日後および7日間後のタンパク質の合成率は、ともにバランス食パターンが偏食パターンよりも有意な増加を示したのです。

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Fig.7:Mamerow MM, 2014より引用改変

 

 Mamerowらはこの結果を受けて、夕食時に多くのタンパク質を摂取する偏食より、朝・昼食時のタンパク質の摂取を意識し、3食ともにバランスよくタンパク質を摂取することがトレーニング効果を高めるだろうと述べています(Mamerow MM, 2014)。

 

 私たちの一般的な食事のメニューを考えてみると、夕食時のタンパク質の摂取に大きく偏っており、朝・昼食の摂取が少ない傾向にあると思います。トレーニングによって筋タンパク質の合成感度は24時間、増加します。Mamerowらの報告をもとにすると、トレーニング後の24時間の3食はタンパク質の摂取バランスを考慮する必要があるでしょう。

 

 たとえば、仕事を終えた夕方にレジスタンストレーニングを行った場合、その後の夕食、翌日の朝食、昼食までの3食でタンパク質を意識して摂取すべきです。これらの食事では体重や年齢から換算されたタンパク質の摂取量をとることが推奨されています。

筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取量を知っておこう

 

 このようなトレーニング後24時間のタンパク質の摂取パターンが、筋タンパク質の分解作用を減少させ、合成作用を増加させます。その結果として、トレーニングの効果を最大化させることが可能となるのです。

 

 

 今回は、トレーニング後のタンパク質の摂取パターンについて考察しました。しかし、近年のスポーツ栄養学では、朝・昼・夕食以外の「あるタイミング」でタンパク質を摂取すると、さらにトレーニングの効果を高めるという研究が報告されています。次回は、そのタンパク質摂取の裏技について考察していきましょう。

 

 

スポーツ栄養学

シリーズ①:筋肉を増やすための栄養摂取のメカニズムを理解しよう

シリーズ②:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取量を知っておこう

シリーズ③:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取タイミングを知っておこう

シリーズ④:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取パターンを知っておこう


References

Phillips SM, et al. Protein requirements and supplementation in strength sports. Nutrition. 2004 Jul-Aug;20(7-8):689-95. 

Burd NA, et al. Enhanced amino acid sensitivity of myofibrillar protein synthesis persists for up to 24 h after resistance exercise in young men. J Nutr. 2011 Apr 1;141(4):568-73

Areta JL, et al. Timing and distribution of protein ingestion during prolonged recovery from resistance exercise alters myofibrillar protein synthesis. J Physiol. 2013 May 1;591(9):2319-31.

Mamerow MM, et al. Dietary protein distribution positively influences 24-h muscle protein synthesis in healthy adults. J Nutr. 2014 Jun;144(6):876-80.

筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取タイミングを知っておこう

 

 前回はタンパク質の摂取量についてスポーツ栄養学の知見から考察してきました。

筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取量を知っておこう

 

 今回はタンパク質を摂取する「タイミング」に目を向けてみましょう。タンパク質はいつでも摂取すれば良いというわけではありません。じつは筋肉を構成する筋タンパク質がもっとも合成されやすいゴールデンタイムがあるのです。

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◆ タンパク質の摂取はトレーニングの前か後か?

 

 プロテインはトレーニングの前に飲むべきなのでしょうか?それとも後に飲むべきでしょうか?

 

 この疑問について、ネットメディアやブログでさまざまな意見が論じられていますが、明確な答えは示されてません。まずは、この疑問に対する答えとなる近年のスポーツ栄養学の知見を見ていきましょう。

 

 この疑問を最初に検証したのがバーミンガム大学のTiptonらです。Tiptonらはウエイトトレーニング歴のある男性17名をトレーニングの1時間前にプロテインを摂取するグループ(8名)とトレーニングの1時間後に摂取するグループ(9名)の2つに分けました。2つのグループはそれぞれのタイミングでプロテインを摂取し、トレーニング後の筋タンパク質の合成バランスが計測されました。

 

 その結果、トレーニング後から2時間までの筋タンパク質の合成バランスでは、トレーニング前にプロテインを摂取したグループに大きな変化はなく、トレーニング後に摂取したグループに有意な増加が認められたのです(Tipton KD, 2007)。

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Fig.1:Tipton KD, 2007より引用改変

 

 Tiptonらの報告によって、トレーニング前よりトレーニング後にタンパク質を摂取するほうが筋タンパク質を合成しやすいことが示唆されました。

 

 そして、その後もTiptonらの知見を支持する報告が続きます。

 

 テキサス州医科大学のFujitaらは、トレーニング歴のある被検者22名をトレーニングの前にタンパク質を摂取するグループ(11名)とタンパク質をまったく摂取しないグループ(11名)に分け、トレーニング後の筋タンパク質の合成率を検証しました。

 

 その結果は意外なものでした。トレーニング前にプロテインを摂取したグループの筋タンパク質の合成率は、トレーニング前から上昇しましたが、トレーニング後1時間が経過するとタンパク質を摂取していないグループの合成率が上回り、2時間の時点で両グループに有意な差は認められませんでした。

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Fig.2:Fujita S, 2009より引用改変

 

 Fujitaらはこの結果から、トレーニング前のタンパク質摂取はトレーニング後の筋タンパク質の合成を妨げる可能性を示唆しており、トレーニング前よりもトレーニング後のタンパク質摂取を推奨しています(Fujita S, 2009)。

 

 2012年には同様の結果をオーストラリア・スポーツ研究所のBurkeらが報告しています(Burke LM, 2012)。これらの知見から、現代のスポーツ栄養学では「筋タンパク質の合成を高めるのはトレーニング後のタンパク質摂取である」というコンセンサスが得られているのです。

 

 では、トレーニング後のタンパク質摂取のもっとも効果的な時間帯はいつなのでしょうか?



◆ トレーニング後から1時間以内がタンパク質摂取のゴールデンタイム

 

 トレーニングによって筋タンパク質の合成感度が高まります。この合成感度の上昇は、少なくともトレーニング後24時間は続くことが明らかになっています(Burd NA, 2011)。

 

 さらに合成感度の経時的な変化を見てみると、トレーニング後3時間>24時間>48時間の順で大きくなることが報告されています(Phillips SM, 1997)。トレーニング後のなるべく早い時間帯にタンパク質を摂取することによって、筋タンパク質の合成が促進されるのです。

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Fig.3:Phillips SM, 1997より引用改変

 

 トレーニング後3時間の時点において筋タンパク質の合成感度が高いことがわかりました。次に、トレーニング直後から3時間までの間の合成感度の変化をさらに細かく見てみましょう。

 

 オンタリオ大学のLemonらは、トレーニング後のタンパク質摂取のタイミングについてまとめたレビューを報告しています。レビューの中で、もっとも筋タンパク質の合成を高める時間帯はトレーニング後1〜2時間であることを示しています(Lemon PW, 2002)。

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Fig.4:Lemon PW, 2002より引用改変

 

 近年の研究報告では、カナダ・マクマスター大学のBurdらがトレーニング後の筋タンパク質合成の経時的変化について報告しています。Burdらは、トレーニング歴のある15名の被検者を対象に、レジスタンストレーニング後の血中アミノ酸濃度の経時的変化を30分、1時間、1時間30分、2時間30分で計測しました。

 

 その結果、血中アミノ酸濃度はトレーニング後30分から1時間でピークを迎え、2時間30分を経過するとトレーニング前の値に戻ることがわかり、Lemonらのレビューと同様の結果が示されたのです。

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Fig.5:Burd NA, 2011より引用改変

 

 これらの報告によって、現在では「トレーニング後から1時間以内」がもっとも筋タンパク質の合成感度が高い時間帯であることが明らかになっています。スポーツ栄養学では、この時間帯を「筋タンパク質合成の窓(anabolic window)」と呼んでおり、筋タンパク質合成のゴールデンタイムとされているのです。

 

 トレーニングの効果を最大化させるためには、筋タンパク質の合成感度がもっとも高まる「トレーニング後1時間以内」を目安とした食事やプロテインによるタンパク質の摂取が推奨されています。

 

 そしてトレーニングによる筋タンパク質の合成感度の増加は少なくとも24時間は続きます。そのため、トレーニング効果を高めるためにはトレーニング後24時間におけるタンパク質の摂取パターンを考えなければなりません。

 

 次回は、トレーニング後24時間のタンパク質の摂取パターンについてスポーツ栄養学の知見をもとに考察していきましょう。



スポーツ栄養学

シリーズ①:筋肉を増やすための栄養摂取のメカニズムを理解しよう

シリーズ②:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取量を知っておこう

シリーズ③:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取タイミングを知っておこう

シリーズ④:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取パターンを知っておこう

 

 

References

Tipton KD, et al. Stimulation of net muscle protein synthesis by whey protein ingestion before and after exercise. Am J Physiol Endocrinol Metab. 2007 Jan;292(1):E71-6.

Fujita S, et al. Essential amino acid and carbohydrate ingestion before resistance exercise does not enhance postexercise muscle protein synthesis. J Appl Physiol (1985). 2009 May;106(5):1730-9.

Burke LM, et al. Preexercise aminoacidemia and muscle protein synthesis after resistance exercise. Med Sci Sports Exerc. 2012 Oct;44(10):1968-77.

Burd NA, et al. Enhanced amino acid sensitivity of myofibrillar protein synthesis persists for up to 24 h after resistance exercise in young men. J Nutr. 2011 Apr 1;141(4):568-73

Phillips SM, et al. Mixed muscle protein synthesis and breakdown after resistance exercise in humans. Am J Physiol. 1997 Jul;273(1 Pt 1):E99-107.

Lemon PW, et al. The role of protein and amino acid supplements in the athlete's diet: does type or timing of ingestion matter? Curr Sports Med Rep. 2002 Aug;1(4):214-21.

筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取量を知っておこう

 

 筋肉を構成する筋タンパク質は、食事により摂取されたタンパク質(アミノ酸)の量に依存して作られます(合成されます)。この筋タンパク質を合成する量が分解する量を上回ることによって筋肉が増えます。

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筋肉を増やすための栄養摂取のメカニズムを理解しよう

 

 しかし、ただタンパク質を摂取すれば良いというわけではありません。筋タンパク質の合成を促進させるためには、最適なタンパク質量を摂取しなければならないのです。では、1度の食事でどのくらいのタンパク質を摂取すれば、筋トレの効果を最大化することができるのでしょうか?

 

 この問いに現代のスポーツ栄養学はこう答えています。

 

 「最適なタンパク質摂取量は年齢、体重、トレーニング内容によって異なる」

 

 今回も近年のスポーツ栄養学の知見を参考にして、筋トレ効果を最大化するタンパク質摂取量について考察していきましょう。

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◆ タンパク質摂取量20gは本当か?

 

 多くのネットメディアやブログでは、運動後のタンパク質摂取量について「1度の食事やプロテインにより、およそ20gの摂取が筋肉を増やすために必要である」と言われています。

 

 2009年、トロント大学のMooreらは、運動後の筋タンパク質の合成に必要となるタンパク質量は20gであり、それ以上の摂取による合成効果は期待できないことを報告しています。

 

 Mooreらは、ウエイトトレーニングを4ヶ月以上継続している男性6名を対象として、トレーニング後にタンパク質を0g、5g、10g、20g、40gを摂取させ、筋タンパク質の合成率を測定しました。

 

 すると、タンパク質20gまでの摂取では、直線的に筋タンパク質の合成が増加しましたが、20gと40gの摂取に有意な差は認められませんでした。

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Fig.1:Moore DR, 2009より引用改変

 

 この結果から、筋タンパク質の合成を促すためには、最低20gのタンパク質の摂取が必要であり、それ以上の摂取による筋タンパク質の合成効果はプラトーになることが明らかになったのです(Moore DR, 2009)。

 

 また、2014年にはスターリング大学のWitardらも同様の報告をしています。

 

 Witardらは、ウエイトトレーニングを6ヶ月以上行っている男性48名を対象として、トレーニング後にホエイタンパク質を0g、10g、20g、40gを摂取させました。その結果は、やはり20gの摂取で筋タンパク質の合成はピークを迎え、20gと40gの摂取に差が見らないというものでした(Witard OC, 2014)。

 

 これらの報告が根拠となり、筋トレの効果を高めるタンパク質の必要摂取量は20gであると言われるようになったのです。

 

 しかし、近年のスポーツ栄養学の界隈では、これらの知見に疑義が唱えられています。

 

 

◆ タンパク質の摂取量は年齢や体重を考慮しよう

 

 MooreらやWitardらの報告にはいくつかの問題点がありました。彼らの研究は、平均年齢20〜22歳、体重80kg前後の男性が対象であり、トレーニングはレッグプレスのみの運動でした。つまり、この年齢、体重、トレーニング内容の条件においてのみ、タンパク質20gが最適な摂取量であるということなのです。

 

 そのため、たとえば若年者と高齢者、体重50kgの長距離ランナーと100kgのボディビルダーとでは、異なるタンパク質の摂取量が必要となる可能性があります。

 

 それでは、年齢や体重により必要となるタンパク質の摂取量は異なるのでしょうか?

 

 この問を検証したのもトロント大学のMooreらです。2015年、Mooreらは平均年齢22歳の若年者と71歳の高齢者を対象に、0g〜40gまでのタンパク質摂取による筋タンパク質の合成率を検証しました。

 

 得られたデータを統計学的に分析し、体重あたりのタンパク質量に換算したところ、若年者は0.24g/kg、高齢者は0.40g/kgが必要なるタンパク質量であることが明らかになりました(Moore DR, 2015)。

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Fig.2:Moore DR, 2015より引用改変

 

 この報告によって体重あたりの最適なタンパク質摂取量がわかるとともに、高齢者ではより多くのタンパク質摂取が必要となることが示されています。加齢によるタンパク質の摂取量の増加については、筋タンパク質の合成抵抗性(anabolic resistance)によるものと推測されています。anabolic resistanceについては別の機会に考察します。

 

 これらのデータをわかりやすいように体重別に表にしてみましょう。注意点としては、この研究は空腹時にプロテインを摂取しているため、食事によるタンパク質の必要摂取量はもう少し高くなると思われます。

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Fig.3:Moore DR, 2015より筆者作成

 

 やはり体重80kgの若年者では、必要となるタンパク質量は約20gであり、以前の報告と一致しています。加齢とともにより多くのタンパク質を摂取しなければならないことがわかります。



◆ タンパク質の摂取量はトレーニングの内容を考慮しよう

 

 よく言われているタンパク質の摂取量20gというのは、レッグブレス単独のトレーニングにおいて必要となる摂取量です。それでは、いくつかのトレーニングを合わせた全身運動では、必要となるタンパク質の摂取量は異なるのでしょうか?

 

 スターリング大学のMacnaughtonらは、この問に対して「タンパク質の摂取量はトレーニング内容によって考慮すべきである」と答えています。

 

 Macnaughtonらは、2ヶ月以上のウエイトトレーニング歴のある20代男性(平均体重80kg)を対象に、全身性トレーニング後にタンパク質20gと40gを摂取させ、筋タンパク質の合成率を計測しました。トレーニング内容はチェストプレス、ラットプルダウン、レッグカール、レッグプレス、レッグエクステンションなどです。

 

 その結果、20gよりも40gのタンパク質摂取において、より高い筋タンパク質の合成が認められたのです。

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Fig.4:Macnaughton LS, 2016より引用改変

 

 この結果からMacnaughtonらは、単独のトレーニングでは20g程度のタンパク質摂取で十分ですが、全身性トレーニングでは40gまでタンパク質の摂取を増やしたほうがに効果的であることを示唆しました(Macnaughton LS, 2016)。

 

 

 これらの知見から、現代のスポーツ栄養学では、筋トレの効果を最大化するためのタンパク質摂取量について、年齢、体重、トレーニング内容を考慮して判断するべきであるとしています。

 

 実際には、年齢や体重により基本的なタンパク質の摂取量を判断し、トレーニングの内容に応じて摂取量を増やす方法が推奨されています。レッグプレスのみといった単一的なトレーニング後は年齢や体重に応じた摂取量を摂取し、全身的なトレーニング後はそれにプラスして10〜20gを摂取すると良いとのことです。

 

 筋トレに励む20代の体重70kgの男性を例にとると、通常の1食分のタンパク質摂取量は17〜20g程度で良いですが、ジムで全身性のレジスタンストレーニングを行った24時間〜48時間後までは1食分のタンパク質摂取量を通常の+10gである30g以上を摂取したほうが良いということになります。

 

 しかしながら、タンパク質摂取量に対する除脂肪量や性別による影響は明らかになっていません。新たな知見が報告されましたら、本ブログでもピックアップしていきます。

 

 次回は、筋肉を効率的に増やすためのタンパク質の摂取タイミングやレジスタンストレーニングの内容、他の栄養素などについて考察していきましょう

 

 

スポーツ栄養学

シリーズ①:筋肉を増やすための栄養摂取のメカニズムを理解しよう

シリーズ②:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取量を知っておこう

シリーズ③:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取タイミングを知っておこう

シリーズ④:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取パターンを知っておこう

 

 

References

Moore DR, et al. Ingested protein dose response of muscle and albumin protein synthesis after resistance exercise in young men. Am J Clin Nutr. 2009 Jan;89(1):161-8.

Witard OC, et al. Myofibrillar muscle protein synthesis rates subsequent to a meal in response to increasing doses of whey protein at rest and after resistance exercise. Am J Clin Nutr. 2014 Jan;99(1):86-95.

Moore DR, et al. Protein ingestion to stimulate myofibrillar protein synthesis requires greater relative protein intakes in healthy older versus younger men. J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2015 Jan;70(1):57-62.

Macnaughton LS, et al. The response of muscle protein synthesis following whole-body resistance exercise is greater following 40 g than 20 g of ingested whey protein. Physiol Rep. 2016 Aug;4(15).

筋肉を増やすための栄養摂取のメカニズムを理解しよう

 

 「科学により裏付けされたタンパク質の摂取方法(量や質、タイミング)を実践することで、日頃のトレーニングの効果を最大限に引き出すことが可能になる」

 

 現代のスポーツ栄養学では、効率的に筋肉を増やす方法についてこのように述べています。近年、アミノ酸安定同位体を用いる研究手法が確立され、スポーツ栄養学の分野からアスリートのパフォーマンス向上に関する知見が次々と報告されているのです。

 

 このような知見をもとに、今回は栄養摂取による筋肉を増やすメカニズムについて考察していきましょう。

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◆ 筋肉を増やすための栄養摂取で重要なものとは?

 

 まず筋肉の構造を見てみましょう。筋肉は筋線維が束になったもので、筋線維は筋原線維が束になったものです。筋原線維はアクチンとミオシンという筋タンパク質からできています。

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図1:Neuroscience of fandamentals for rehabilitationより引用改変

 

 筋肉を増やすためには、この「筋タンパク質」を増やさなければなりません。

 

 筋タンパク質は24時間いつも作られたり、分解されたりしています。普通に生活していても筋肉の量が保たれているのは、筋タンパク質が作られる(合成される)量と分解される量が釣り合っているからです。

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図2:筋タンパク質の合成と分解のバランス

 

 しかし、過度なダイエットやストレス、病気などにより筋タンパク質の合成される量が減り、分解される量が多くなると、筋肉は減ってしまいます。

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 逆に食事や筋トレをすることで筋タンパク質を合成する量が多くなると、筋肉を増やすことができます。

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 この「筋タンパク質の合成と分解のバランス」が筋肉を増やすための重要な意味をもっているのです。

 

 筋肉を増やすためには、筋タンパク質の合成を促さなければなりません。そこで大切なのが食事であり、タンパク質の摂取になります。

 

 食事で摂取されたタンパク質が消化されると、アミノ酸として血液に取り込まれます。筋肉へ運ばれてきたアミノ酸は、遊離アミノ酸プールという貯蔵庫に保管され、筋タンパク質を合成するのに利用されます。

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図3:筋タンパク質の合成・分解の流れ

 

 筋タンパク質の合成は血液中のアミノ酸の量により刺激されるので、アミノ酸の量が増えれば増えるほど、筋タンパク質の合成が促されます(これを用量依存効果といいます)。筋タンパク質の合成はアミノ酸の量に依存しているのです(Biolo G, 1997)。

 

 これが「筋肉を増やすためにはタンパク質(アミノ酸)を多くとりなさい」と言われる所以です。

 

 アミノ酸は体内で作ることができる非必須アミノ酸と、体内で作ることができない必須アミノ酸に分けられます。非必須アミノ酸では筋タンパク質の合成が刺激されないことが明らかにされており(Volpi E, 2003)、筋タンパク質の合成は必須アミノ酸により行われることがわかっています。

 

 「筋肉を増やすためには食事が大切である」と言われるのは、必須アミノ酸は体内で作ることができず、食事で摂取するしかないからです。

 

 必須アミノ酸は9種類ありますが、その中でもロイシンが筋肉を増やすアミノ酸として注目されています。ロイシンは筋タンパク質に必要な食欲の調節やインスリン分泌の制御に関与しており、筋タンパク質の合成に重要なアミノ酸であることが報告されています(Anthony TG, 2001)。2016年の雑誌Scienceでは、ロイシンロイシンセンサーといわれるSestrin2と結合することによって筋タンパク質の合成に関与していることが明らかとなり、筋タンパク質の合成におけるロイシンの重要性が証明されています(Wolfson RL, 2015)。

 

 これが「筋肉を増やすためにはロイシンの摂取を考慮するべき」と言われる根拠です。

 

 現在では、効率的な筋肉増強において、摂取するタンパク質の量だけでなく、含まれるロイシンの量が筋タンパク質の合成を左右するとも言われています。



◆ タンパク質摂取に筋トレを合わせることで、さらに筋タンパク質は合成される

 

 局所または全身の筋肉に負荷を加えたトレーニングをレジスタンストレーニングといいます。レジスタンストレーニングは、運動によって誘発される成長因子や代謝ストレスによって筋タンパク質の合成を急激に増加させます。レジスタンストレーニング後の1時間から2時間後に筋タンパク質の合成が安静時に比べて有意に増加することが明らかにされています(Dreyer HC, 2006)。

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Fig.1:Dreyer HC, 2006より引用改変

 

 しかし、レジスタンストレーニングを行うと筋タンパク質の分解も促進されてしまいます。そうなるとトレーニングによる筋タンパク質の合成効果はプラスマイナスでゼロになってしまうのでしょうか?

 

 この問いの答えたのがPhillipsらの研究です。Phillipsらはレジスタンストレーニング後48時間における筋タンパク質の合成と分解の経時的な変化を調べました。すると筋タンパク質の合成の促進は48時間後も続くのに対して、分解はトレーニング後3時間をピークにしてその後は減少し、48時間で安静時のレベルに戻ることがわかったのです(Phillips SM, 1997)。

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Fig.2:Phillips SM, 1997より引用改変

 

 この結果はレジスタンストレーニングによって48時間(2日間)の筋タンパク質の合成と分解のバランスが安静時に比べてプラスに働いている(合成が分解を上回る)ことを意味します。つまり、レジスタンストレーニングを行うことによって48時間は筋タンパク質の合成の促進が維持されており、この期間で有効なタンパク質を摂取することによって、効率的な筋タンパク質の合成を高めることができるのです。

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 筋肉を効率的に増やすためには、筋タンパク質の合成が分解を上回らなければなりません。そこで有用なのが正しいタンパク質の摂取とレジスタンストレーニングの実施なのです。

 

 今回は筋肉を増やすための栄養摂取について基礎的なことを確認しました。次回は、タンパク質の摂取量と摂取タイミング、タンパク質の質、レジスタンストレーニングの内容など、筋肉を増やすための具体的な方法について考察していきましょう。 

 

 

スポーツ栄養学

シリーズ①:筋肉を増やすための栄養摂取のメカニズムを理解しよう

シリーズ②:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取量を知っておこう

シリーズ③:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取タイミングを知っておこう

シリーズ④:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取パターンを知っておこう

 

References

Biolo G, et al. An abundant supply of amino acids enhances the metabolic effect of exercise on muscle protein. Am J Physiol. 1997 Jul;273(1 Pt 1):E122-9.

Volpi E, et al. Essential amino acids are primarily responsible for the amino acid stimulation of muscle protein anabolism in healthy elderly adults. Am J Clin Nutr. 2003 Aug;78(2):250-8.

Anthony TG, et al. Oral administration of leucine stimulates ribosomal protein mRNA translation but not global rates of protein synthesis in the liver of rats. J Nutr. 2001 Apr;131(4):1171-6.

Wolfson RL, et al. Sestrin2 is a leucine sensor for the mTORC1 pathway. Science. 2016 Jan 1;351(6268):43-8.

Moore DR, et al. Protein ingestion to stimulate myofibrillar protein synthesis requires greater relative protein intakes in healthy older versus younger men. J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2015 Jan;70(1):57-62.

Dreyer HC, et al. Resistance exercise increases AMPK activity and reduces 4E-BP1 phosphorylation and protein synthesis in human skeletal muscle. J Physiol. 2006 Oct 15;576(Pt 2):613-24.

Phillips SM, et al. Mixed muscle protein synthesis and breakdown after resistance exercise in humans. Am J Physiol. 1997 Jul;273(1 Pt 1):E99-107.

脳卒中後の効果的な立ち上がり動作トレーニングとは?

 

 脳卒中後の転倒事例の37%が立ち上がり動作時に生じていることが報告されています(Nyberg L, 1995)。脳卒中により麻痺した下肢の支持性が低下し、体重をかけることが難しくなり、立ち上がり動作時に非麻痺側へ体幹が逸脱してしまうため、転倒が起きやすくなると推察されています(Duclos C, 2008)。

 

 このような非対称性の立ち上がり動作に対する従来のリハビリテーションでは、セラピストの声掛けによる聴覚的フィードバックや、鏡を用いた視覚的フィードバックが行われてきました(Engardt M, 1994)。

 

 そして近年では、より簡易的でセルフトレーニングでも行える ”Modified sit-to-stand training”が注目されています。

 

 今回は、脳卒中後のModified sit-to-stand trainingの有用性とともに、その欠点を補う介入について考察していきましょう。



◆ 足の位置を変えるだけで立ち上がり時の非対称性が改善される

 

 2008年、モントリオール大学のRoyらは「座っているときの麻痺側の足部の位置を少し変えるだけで、立ち上がり時の非対称性を改善できる」ことを報告しました。

 

 Royらは慢性期の脳卒中患者12名を対象に、座位時に足部の位置を3つのパターンに分けて、立ち上がり、着座時の左右対称性を測定しました。

 

 その結果、麻痺側の足部を前方にした立ち上がりは、もっとも非対称性が大きくなり、反対に麻痺側の足部を後方(手前)にした立ち上がりでは、もっとも非対称性が小さくなることがわかりました。

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Fig.1:Roy G, 2006より引用改変

 

 Royらは麻痺側の足部を後方にすることで立ち上がり時の非対称性が改善され、麻痺側下肢の筋活動を増大させることができ、課題特異的なトレーニングとして有用であると述べています(Roy G, 2006)。

 

 さらに2016年、安徽医科大学のLiuらは、Royらが考案したトレーニングの臨床効果をランダム比較試験(RCT)にて検証しました。

 

 脳卒中患者50名を対象に、足部が対称性にして立ち上がりを行うグループと、麻痺側の足部を後方にして立ち上がりを行うグループに分け、4週間の立ち上がりトレーニングを行いました。

 

 トレーニングの結果、麻痺側の足部を後方にして立ち上がりを行ったグループは、立ち上がる速度が速くなり、立ち上がり時の非対称性が改善し、Berg balance scaleの改善も認められました(Liu M, 2016)。

 

 麻痺側の足部を後方にするというModified sit-to-stand trainingは、立ち上がり時の非対称性を改善させるとともに、バランス能力の改善に寄与することが示唆されているのです。

 

 このトレーニング方法は簡便であり、何より患者さんがセルフトレーニングで行えることから、その有用性は高いでしょう。しかし、欠点がないわけでもありません。



◆ 痙縮がある場合の立ち上がり練習とは?

 

 立ち上がり動作で最初に活動する筋は「前脛骨筋」です。前脛骨筋が最初に活動することによって、足部が安定化し、脛骨の前傾を制御することで重心の前方移動を助ける役割を担っています。これに対して拮抗筋であるヒラメ筋や腓腹筋は立ち上がり動作の後半である伸展相で活動します(Khemlani MM, 1999)。

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Fig.2:Khemlani MM, 1999より引用改変

 

 脳卒中により足関節の底屈筋に痙縮が生じている場合、この前脛骨筋の早期の活動が阻害されます。そのため、足部の安定性が低下し、重心の前方移動が困難になり、立ち上がり動作の非対称性が生じるのです(Camargos AC, 2009)。

 

 このような理由から、足関節底屈筋に痙縮がある場合、麻痺側の足部を後方にするModified sit-to-stand trainingは効果的ではないとLiuらは述べています。

 

 この問題を解決する糸口になるのが、2017年3月の雑誌Gait & Postureに掲載されたセミョン大学のJungらの報告です。

www.ncbi.nlm.nih.gov

 

 近年では、痙縮の改善に「経皮的電気刺激(TENS)」の使用が注目されています。以前よりTENSの相反神経抑制効果による痙縮の緩解が示されていますが、2016年に報告されたシステマティックレビューでは、TENSと課題特異的トレーニングを組み合わせることにより、痙縮だけでなく動作能力も改善することが示唆されています(Mills PB, 2016)。

 

 このような背景からJungらは、TENSとModified sit-to-stand trainingを合わせた立ち上がりトレーニングが痙縮のある脳卒中患者の立ち上がり能力を改善させると考えたのです。

 

 痙縮のある脳卒中患者40名をTENSを行うグループとTENSの偽刺激を行うグループ(Shamグループ)に分けました。各グループともに30分間の腓骨神経の電気刺激を行った後、麻痺側足部を後ろにしたModified sit-to-stand trainingを30分間、行いました。

 

 このトレーニングを週5回、6週間、実施した結果、TENSを行ったグループでは麻痺側底屈筋の痙縮の緩解、麻痺側の股関節伸展筋力の増加、立ち上がり時の非対称性の改善が認められたのです。

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Fig.3:Jung KS, 2017より引用改変

 

 Jungらは、立ち上がりトレーニングの前にTENSを行うことによって、足関節底屈筋の痙縮の緩解が立ち上がり早期の前脛骨筋の筋活動を活性化させ、重心の前方移動が容易になることで動作の非対称性の改善とともに麻痺側股関節の伸展筋活動も増加させたと推論しています(Jung KS, 2017)。



 これらの報告から言えることは、脳卒中後の立ち上がり練習では、麻痺側の足部を後方に位置させるModified sit-to-stand trainingが有効ですが、痙縮がある場合は、事前に痙縮に対する介入が必要になるということです。Jungらの報告ではTENSを使用してますが、ペダリング運動によっても即時的に足関節底屈筋の痙縮を減少させることが可能です(Tanuma A, 2017)。痙縮がある場合は、TENSやペダリング運動による痙縮の軽減を図った後に、Modified sit-to-stand trainingを行うことが効果的であると考えられます。

 

 

脳卒中リハビリテーション

脳卒中リハビリ①:バランス感覚には、足底感覚へのアプローチ! 

脳卒中リハビリ②:自転車トレーニングでは、速度一定でお願いします。

脳卒中リハビリ③:脳卒中早期からFES自転車運動で体幹機能を高めよう!

脳卒中リハビリ④:FES自転車運動は姿勢制御に効果的

脳卒中リハビリ⑤:自転車トレーニングは、ただ漕いでるだけじゃダメ。

脳卒中リハビリ⑥:自転車で突っ張る筋肉をほぐせるかも。

脳卒中リハビリ⑦:歩行スピードを高めたいなら、足関節背屈筋力を高めよう。

脳卒中リハビリ⑧:歩行距離をのばすには、やっぱり足関節背屈筋力?

脳卒中リハビリ⑨:上手に歩くためには、エンジンとブレーキ、どっちが大事?

脳卒中リハビリ⑩:歩行立脚期の機能改善には、この装具で。

脳卒中リハビリ⑪:遊脚期の足関節背屈を増強させる新しいトレーニング

脳卒中リハビリ⑫:視覚的フィードバックで知らないうちに歩行が変わる?

脳卒中リハビリ⑬:フィードバック療法で麻痺側の足を使えるようにしよう。

脳卒中リハビリ⑭:非麻痺側下肢も見逃すな。

脳卒中リハビリ⑮:ただ自転車を漕ぐだけではダメな根拠

脳卒中リハビリ⑯:片麻痺にもインソールは有効。

脳卒中リハビリ⑰:中殿筋への機能的電気刺激療法は、歩行の対称性を改善させます

脳卒中リハビリ⑱:効果的な立ち上がり練習の方法

脳卒中リハビリ⑲:立ち上がり動作と荷重感覚

脳卒中リハビリ⑳:筋力トレーニングだけでは効果なし

脳卒中リハビリ㉑:脳卒中後の回復メカニズムの新たな発見をキャッチアップしよう

脳卒中リハビリ㉒:脳卒中後の歩行速度とQOL

脳卒中リハビリ㉓:脳卒中後の効果的な立ち上がり動作トレーニングとは?

 

References

Nyberg L, et al. Patient falls in stroke rehabilitation. A challenge to rehabilitation strategies. Stroke. 1995 May;26(5):838-42.

Duclos C, et al. Lateral trunk displacement and stability during sit-to-stand transfer in relation to foot placement in patients with hemiparesis. Neurorehabil Neural Repair. 2008 Nov-Dec;22(6):715-22.

Engardt M, et al. Rising and sitting down in stroke patients. Auditory feedback and dynamic strength training to enhance symmetrical body weight distribution. Scand J Rehabil Med Suppl. 1994;31:1-57.

Roy G, et al. The effect of foot position and chair height on the asymmetry of vertical forces during sit-to-stand and stand-to-sit tasks in individuals with hemiparesis. Clin Biomech (Bristol, Avon). 2006 Jul;21(6):585-93. Epub 2006 Mar 15.

Liu M, et al. Effects of modified sit-to-stand training on balance control in hemiplegic stroke patients: a randomized controlled trial. Clin Rehabil. 2016 Jul;30(7):627-36.

Khemlani MM, et al. Muscle synergies and joint linkages in sit-to-stand under two initial foot positions. Clin Biomech (Bristol, Avon). 1999 May;14(4):236-46.

Camargos AC, et al. The effects of foot position on the performance of the sit-to-stand movement with chronic stroke subjects. Arch Phys Med Rehabil. 2009 Feb;90(2):314-9.

Jung KS, et al. Effects of sit-to-stand training combined with transcutaneous electrical stimulation on spasticity, muscle strength and balance ability in patients with stroke: A randomized controlled study. Gait Posture. 2017 Mar 10;54:183-187.

Mills PB, et al. Transcutaneous Electrical Nerve Stimulation for Management of Limb Spasticity: A Systematic Review. Am J Phys Med Rehabil. 2016 Apr;95(4):309-18.

Tanuma A, et al. After-effects of pedaling exercise on spinal excitability and spinal reciprocal inhibition in patients with chronic stroke. Int J Neurosci. 2017 Jan;127(1):73-79.