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リハビリmemo

大学病院勤務・大学院リハビリテーション学所属の理学療法士による「研究と臨床をつなげるための記録」

筋トレの効果を最大にするセット数について知っておこう

 

 2009年、アメリカスポーツ医学会(American College of Sports Medicine:ACSM)から「レジスタンストレーニングのガイドライン」が発表され、現代のトレーニング方法の基準となっています。(American College of Sports Medicine. 2009)。

 

 しかし、近年、筋肉のもととなる筋タンパク質の合成作用を計測することが可能になると、トレーニング方法に対する新しい解釈が報告されるようになりました。

 

 ACSMのガイドライン2009では、効果的に筋肉を肥大させるためには、1RMの70%以上の高強度でトレーニングを行う必要があると言います。これに対して、現代のスポーツ運動生理学では、高強度でなくとも低強度で運動回数を多くし、総負荷量を高めることで高強度と同等か、それ以上の筋タンパク質の合成作用が得られることを示しています。

*1RM:1回で持ち上げれられる最大の重量(1 repetition maximum)

筋トレの効果を最大にする運動強度(負荷)を知っておこう

筋トレの効果を最大にする運動強度(負荷)の実践論

 

 このように、筋タンパク質の合成作用という視点からトレーニング内容を見直すと、以前とは異なる新しい方法論と根拠を得ることができるのです。

 

 それでは、今回はトレーニングの「セット数」について、筋タンパク質の合成作用の視点から考察していきましょう。

 

 

◆ セット数に対するメタアナリシスの結論は?

 

 ACSMのガイドライン2009では、トレーニングのセット数について明確な記載はありません。そのためか、メディアや個人のブログを見ても「2〜3セット」という数字が多く見受けられます。しかしながら、その根拠を記したものは多くありません。

 

 スポーツ運動生理学の分野においても、筋トレの効果を最大化する「セット数」についての報告にはばらつきがあります。1セットでも良い(ACSM1998)、いや2〜3セットはやらないと(Paulsen G, 2003)、いやいや8セットですよ(Marshall PW, 2011)、などの報告が見られます。

 

 このような中、2010年に発表されたKriegerらのメタアナリシスの報告がひとつの答えを示してくれました。

*メタアナリシス:複数の研究結果を統合しデータ解析する研究手法。

 

 Kriegerらは、1960年から2009年までに報告された論文を参考に、統計的に有効な8つの報告を対象にしました。セット数を1セット、2〜3セット、4〜6セットに分類し、トレーニングによる筋肥大の効果を検証しました。

 

 まず、1セットと複数セットの比較を行った結果、1セットより複数セットのほうが有意に筋肥大の増加が示されました。

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Fig.1:Krieger JW, 2010より引用改変

 

 次に、1セット、2〜3セット、4〜6セットの比較を行いました。その結果、1セットに比べて2〜3セットでは有意な筋肥大の増加を認めましたが、2〜3セットと4〜6セットの比較では有意な差はありませんでした。

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Fig.2:Krieger JW, 2010より引用改変

 

 これらの分析結果から、1セットよりは複数セットのほうが効果があること、3セットを超えると筋肥大の効果は頭打ち(プラトー)となり、それ以上のセット数では大きな効果が期待できないことが示唆されました。

 

 この理由として、Kriegerらは「筋タンパク質の合成作用の限界(anabolic limit)」が寄与していると推察しています。

 

 以前の報告から、筋タンパク質の合成作用には運動強度に対する限界点があることが示されています。1RMの60%の運動強度を超えると、筋タンパク質の合成作用はプラトーに達します(Kumar V, 2009)。Kriegerらは、セット数においても、このような筋タンパク質の合成作用の限界点があり、そのセット数が2〜3セットであると述べています(Krieger JW, 2010)。

 

 そして、Kriegerらの推論は、2012年になって検証されることになります。

 

 

◆ 筋タンパク質の合成作用は3セットでプラトーに達する

 

 2012年、ノッティンガム大学のKumarらは、筋タンパク質の合成作用の視点から、トレーニングに最適なセット数の検証を行いました。

 

 対象は、トレーニング歴のない男性12名(平均年齢24歳)です。レッグエクステンションを1RMの40%の運動強度で14回行う設定とし、3セットと6セットを施行した際の筋タンパク質の合成率を比較しました。

 

 その結果、トレーニング後4時間までの筋タンパク質の合成作用は3セット、6セットともに増加しましたが、有意な差は認められませんでした。

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Fig.3:Kumar V, 2012より引用改変

 

 次に、運動強度を増やした設定においても検証しています。1RMの75%の運動強度で8回行う設定で、3セットと6セットを施行した場合では、両セットに有意な差はありませんでした。しかし、6セットにおいて筋タンパク質の合成作用の増加傾向が認められました。

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Fig.4:Kumar V, 2012より引用改変

  

 Kumarらは、これらの結果から、セット数における即時的な筋タンパク質の合成作用では「3セット」が限界点であることを示唆しており、6セットでは既にプラトーに達している可能性を推察しています。

 

 しかしながら、Kumarらの報告は被検者が少なく、横断的な研究であるため、大規模な縦断的研究の検証が必要と思われます。

 

 

 KriegerやKumarらの報告から「3セット」が筋タンパク質の合成作用を高める最適なセット数であることが推察されています。また、3セットより多くのセット数においても、筋タンパク質の合成作用を増加させる可能性はあります。しかし、中枢性・末梢性疲労のリスクや、1日のセット数でなく週単位のトレーニング頻度で考えると3セット程度が適当と考えられているのです(疲労については別の機会で考察します)。

 

 近年のスポーツ運動生理学により、トレーニングの運動強度、セット数には筋タンパク質の合成作用の限界点があることが示されています。まだ推論の域を超えませんが、このような知見から、現在では週単位のトレーニング頻度についても新たな報告がなされています。

 

 次回は、週単位のトレーニング頻度について最近、報告されたスポーツ運動生理学の知見をご紹介したいと思います。

 

 効果的なトレーニング=総負荷量(運動強度 × 運動回数)× セット数 × 頻度(←次回)

 

 

筋力トレニーングの科学

シリーズ①:筋肉を増やすための栄養摂取のメカニズムを理解しよう

シリーズ②:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取量を知っておこう

シリーズ③:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取タイミングを知っておこう

シリーズ④:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取パターンを知っておこう

シリーズ⑤:筋トレの効果を最大にする就寝前のプロテイン摂取を知っておこう

シリーズ⑥:筋トレの効果を最大にする就寝前のプロテイン摂取の方法論 

シリーズ⑦:筋トレの効果を最大にする運動強度(負荷)について知っておこう

シリーズ⑧:筋トレの効果を最大にする運動強度(負荷)の実践論

シリーズ⑨:筋トレの効果を最大にするセット数について知っておこう 

 

References

American College of Sports Medicine. American College of Sports Medicine position stand. Progression models in resistance training for healthy adults. Med Sci Sports Exerc. 2009 Mar;41(3):687-708.

American College of Sports Medicine Position Stand. The recommended quantity and quality of exercise for developing and maintaining cardiorespiratory and muscular fitness, and flexibility in healthy adults. Med Sci Sports Exerc. 1998 Jun;30(6):975-91.

Paulsen G, et al. The influence of volume of exercise on early adaptations to strength training. J Strength Cond Res. 2003 Feb;17(1):115-20. 

Marshall PW, et al. Strength and neuromuscular adaptation following one, four, and eight sets of high intensity resistance exercise in trained males. Eur J Appl Physiol. 2011 Dec;111(12):3007-16. 

Krieger JW, et al. Single vs. multiple sets of resistance exercise for muscle hypertrophy: a meta-analysis. J Strength Cond Res. 2010 Apr;24(4):1150-9.

Kumar V, et al. Age-related differences in the dose-response relationship of muscle protein synthesis to resistance exercise in young and old men. J Physiol. 2009 Jan 15;587(1):211-7.

Kumar V, et al. Muscle protein synthetic responses to exercise: effects of age, volume, and intensity. J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2012 Nov;67(11):1170-7.

変形性股関節症・変形性膝関節症の保存療法によるリスクを知っておこう

 

 「手術をすべきか、しないべきか」

 多くの患者さんが迷うところだと思います。

 

 この判断をするためには、手術による利点とリスク、手術をしないことによる利点とリスクを正しく理解することが大切です。

 

 変形性股関節症や変形性膝関節症の主な手術は、人工股関節置換術(THA)あるいは人工膝関節置換術(TKA)になります。これらの手術による利点には関節機能の改善、痛みの緩解、歩行や生活の質(QOL)の改善などのエビデンスが示されています(Price AJ, 2010)。

 

 近年では手術の手技のレベルも上がり、手術による傷を最小の範囲で行うMIS(Minimally Invasive Surgery )も多くの病院で取り入れるようになってきています。

最新手術「筋肉温存型人工股関節置換術」まとめ

 

 手術による利点が明確となり、手術のレベルも向上する中で、THAやTKAを受ける患者さんは年々、増えつづけています。また、手術を受ける年齢も低年齢化しているのです。

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Fig.1:日本人工関節学会の人工関節登録調査集計より筆者作成

 

 しかし良い面ばかりではありません。THAには脱臼などのリスクがあります。また人工関節は摩耗や緩みにより、ある程度の年数が経過すると再置換術を行う必要もあります。

人工股関節置換術・人工膝関節置換術の再置換率を知っておこう

 

 患者さんは、手術の利点だけでなく、リスクを十分に理解した上で、手術をするか、しないかの判断をするべきです。そして医療者はその判断を助けるためにも十分な説明をしなければなりません。

 

 次に、手術をしないことによる利点とリスクについて考えてみましょう。

 

 手術をしないときの選択肢として保存療法があります。変形性関節症に対する保存療法の知見は少ないですが、筋肉へのアプローチによる痛みの緩解、動作指導による日常生活動作能力の改善などが報告されています。

手術か保存療法か

手術か保存療法か(その2)

 

 では、保存療法のリスクとは何なのでしょうか?

 

 今回は、2017年3月にフロリダ国際大学のLaverniaらが報告した「Prolonged conservative management in total joint arthroplasty: Harming the patient?(保存療法による手術の延期は患者さんの損失になる?)」という知見をもとに、保存療法のリスクについて考えていきましょう。

 

www.ncbi.nlm.nih.gov

 

 Laverniaらは、変形性股関節症、変形性膝関節症の手術前の重症度が、術後10年以上という長期の回復状況にどのように影響するのか?という疑問を検証しました。

 

 105名の症例(変形性股関節症54名、変形性膝関節症51名)を対象とし、重症度に応じて重症のグループ(31名)、軽症のグループ(74名)に分けられました。これらのすべての症例が保存療法を受けており、その後、人工股関節置換術、人工膝関節置換術を受けています。

 

 それぞれのグループの症例は、術前と術後(平均11.2年後)に関節の機能や痛みを評価するWOMAC、健康に関連する生活の質(QOL)を評価するSF-36、満足度調査が行われました。

 

 その結果、WOMAC、SF-36ともに術前と比較して術後では、両グループともに回復が認められ、満足度も同等でした。特に重症のグループのWOMACは、軽症のグループよりも回復度が高いことが示されました。しかし、WOMAC、SF-36において、重症のグループが軽症のグループの回復レベルを超えることもなければ、達することもなかったのです。

*WOMACはスコアが高いほど重度

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Fig.2:Lavernia CJ, 2017より引用改変

 

 この結果を受けて、Laverniaらは保存療法により手術を延期し、関節症が重度になってから手術をした場合、関節の機能や痛み、QOLは、術後10年以上たっても軽度の状態で手術をしたものに「追いつくことはできない」と述べています。

 

 変形性関節症が重度であっても保存療法により手術を先に延ばすことは、患者さんの利益にはならず、逆にリスクになるということです。 

 

 Laverniaらは、今回の調査から、WOMACの身体機能スコアの合計が「51以上」になる場合は、保存療法を継続するのではなく、手術を検討するべきであると警鐘を鳴らしています(Lavernia CJ, 2017)。

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Fig.3:WOMACの身体機能スコア

 

 この報告は、患者さんにおいても、医療者においても、保存療法により手術を先延ばしにするリスクとして知っておくべき知見でしょう。

 

 手術を受けるということは、人生においての重大なイベントです。だからこそ手術による利点とリスク、手術をしないことによる利点とリスクを知り、専門職とともに判断すべきなのです。そしてわれわれ医療者は、患者さんの判断をサポートするためにも、身体所見や生活状況をしっかりと把握し、正確な情報を提供しなければならないのです。


 保存療法を行う場合は、病院で医師の診察のもと、理学療法士の定期的な評価・指導を受けることがリスクを回避するためにも望まれます。


 

変形性股関節症の保存療法

シリーズ①:変形性股関節症の保存療法と基本戦略①

シリーズ②:変形性股関節症の保存療法と基本戦略②

シリーズ③:変形性股関節症の保存療法と基本戦略③

シリーズ④:変形性股関節症の悪化を予測する新しい指標を知っておこう 

シリーズ⑤:変形性股関節症・変形性膝関節症の保存療法によるリスクを知っておこう

 

変形性股関節症リハビリテーション

股関節リハビリ①:歩行時の振り出しで上手に腸腰筋をつかうためのヒント

股関節リハビリ②:力学的負荷から見た股関節運動の注意点

股関節リハビリ③:歩行時の股関節伸展角度が出にくい理由

股関節リハビリ④:股関節症術後に見られる階段昇降の足の使い方

股関節リハビリ⑤:手術か保存療法か

股関節リハビリ⑥:手術か保存療法か(その2) 

股関節リハビリ⑦:人工股関節術後に残りやすい歩き方のポイント

股関節リハビリ⑧:人工股関節術後に残りやすい立ち上がり動作のポイント

股関節リハビリ⑨:自分で簡単に変形性股関節症の程度を確認できる方法

股関節リハビリ⑩:歩容から見る変形性股関節症の重症度

股関節リハビリ⑪:変形性股関節症の簡単な脊椎疾患との鑑別法

股関節リハビリ⑫:変形性股関節症の遺伝子研究の進展

股関節リハビリ⑬:最新手術「筋肉温存型人工股関節置換術」まとめ

股関節リハビリ⑭:歩きに適した外転筋トレーニングの方法

股関節リハビリ⑮:見落としがちな歩き方のポイント

股関節リハビリ⑯:見落としがちな歩き方のポイント(その2)

股関節リハビリ⑰:変形性股関節症の保存療法と関節軟骨

股関節リハビリ⑱:変形性股関節症とランニング(まとめ)

股関節リハビリ⑲:人工股関節置換術とスポーツ

股関節リハビリ⑳:人工股関節・人工膝関節置換術の再置換率を知っておこう

 

References

Price AJ, et al. Are pain and function better measures of outcome than revision rates after TKR in the younger patient? Knee. 2010 Jun;17(3):196-9.
Lavernia CJ, et al. Prolonged Conservative Management in Total Joint Arthroplasty: Harming the Patient? J Arthroplasty. 2017 Mar 23. pii: S0883-5403(17)30270-X

筋トレの効果を最大にする運動強度(負荷)の実践論

 

 現代のスポーツ運動生理学は、トレーニングによって効果的に筋肉を肥大させるためには「自分を追い込み、総負荷量を増やせ」と言います。

 

 これまで筋肉を肥大させるためには、高強度のトレーニングを行うことが推奨されてきました。これは高い運動強度によって、多くの運動単位を動員できるためです。しかし、筋肉を構成する筋タンパク質の合成作用が計測できるようになると、運動強度に対する新しい考え方が報告されるようになりました。

 

 そこで明らかになったことは「筋タンパク質の合成作用は、運動強度と運動回数をかけ合わせた総負荷量(training volume)に応じて増大する」というものでした。

 

 筋タンパク質の合成作用=トレーニングの総負荷量(運動強度 × 運動回数)

 

 これは低強度であっても疲労困憊まで運動回数を高めて総負荷量を増やすことで、高強度と同じかそれ以上の筋タンパク質の合成作用が得られるということを示しています。筋タンパク質の合成作用は、運動強度によって決まるのではなく、総負荷量によって決まるのです。

筋トレの効果を最大にする運動強度(負荷)について知っておこう

 

 しかし、ここまでにわかったことは、トレーニングの総負荷量が筋タンパク質の合成作用を即時的(トレーニング後24時間)に増大させるということです。では、総負荷量を高めるトレーニングを長期に行った場合、本当に筋肉は肥大するのでしょうか?

 

 今回は、総負荷量を考慮した長期間のトレーニング効果を検証した報告をご紹介しながら、実際の方法論について考えてみましょう。



◆ 低強度×高回数と高強度×低回数による長期間のトレーニング効果

 

 マクマスター大学のMitchellらは、低強度と高強度によるトレーニング効果について、10週間の縦断的調査を行っています。被検者はトレーニング経験のない18名の男性(平均年齢23歳)として、レッグエクステンションを1RMの30%で行うグループと80%で行うグループに分けられました。両グループともに疲労困憊になるまでレッグエクステンションを行い、このトレーニングを1日3セット、週3回、10週間、実施しました。

*1RM:1回で持ち上げれられる最大の重量(1 repetition maximum)

 

 10週間のトレーニングを終えた被検者の大腿四頭筋の筋量を計測してみると、トレーニング前に比べて両グループともに筋量の増大を示しましたが、増加率に有意な差は認められませんでした。

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Fig.1:Mitchell CJ, 2012より引用改変

 

 また、膝の伸展筋力の1RMを計測すると、両グループともにトレーニング前に比べて増加が見られましたが、高強度グループが低強度グループよりも有意な増加を示しました。

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Fig.2:Mitchell CJ, 2012より引用改変

 

 この結果から、Mitchellらは10週間のトレーニングにおいても、低強度×高回数のトレーニングは高強度×低回数と同じ筋肉の肥大効果が期待できることを示唆しています。また1RMでは、高強度×低回数でより増大が示されたことが興味深いと述べています。

 

 しかし、Mitchellらの報告はトレーニングの未経験者によるのもであり、トレーニングの経験者に対する総負荷量の筋肥大効果は明らかにされていませんでした。

 

 この疑問に挑戦したのがマクマスター大学のMortonらです。2016年、Mortonらはトレーニング経験のある49名の男性(平均年齢23歳)を対象に低強度と高強度のトレーニングによる筋肥大効果について調査をしました。

 

 被験者は、低強度×高回数グループ(1RMの30-50%で20-25回)と高強度×低回数グループ(1RMの75-90%で8-12回)に分けれれ、4つのトレーニング(レッグプレス、ベンチプレス、ニーエクステンション、ショルダープレス)を1日3セット、週に4回、12週間行いました。

 

 12週間のトレーニング後の筋線維(タイプⅠ・Ⅱ)の肥大は両グループともに有意に増加しましたが、グループ間に差は見られませんでした。

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Fig.3:Morton RW, 2016より引用改変

 

 また1RMの増加は、ベンチプレスのみに高強度×低回数グループで有意な増大を示しました。

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Fig.4:Morton RW, 2016より引用改変

 

 さらに、両グループの筋肥大の増加率は、トレーニング未経験者を対象にしたMitchellらの報告に比べて少ないことが示されました。

 

 これらの結果から、トレーニング経験者においても低強度×高回数のトレーニングが高強度×低回数と同様の筋肥大効果を示すことがわかったのです。また、高強度×低回数によりベンチプレスの1RMが増大したことから、Mitchellらの報告と合わせて、最大筋力の増強には高強度×低回数が適切である可能性が示唆されました。

 

 トレーニングによる筋肥大の増加率は、Mitchellらが示したトレーニング未経験者の増加率のほうが高く、低強度×高回数のトレーニングはより初心者に最適であることも推察されました。

 

 マクマスター大学のMitchell、Mortonらの報告により、長期間のトレーニングにおいても低強度×高回数により総負荷量を増大させることで、高強度×低回数と同じ筋肥大の効果を得られること明らかになりました。総負荷量を増大させるトレーニングは、即時的に筋タンパク質の合成作用を促進させるとともに、長期のトレーニングによって筋肉を効果的に肥大させるのです。



◆ これらの知見を実際のトレーニングにどう生かすか?

 

 このような研究が報告される中、2016年にはニューヨーク市立大学のSchoenfeldらはトレーニングの運動強度に関するメタアナリシスを報告しました。

*メタアナリシス:複数の研究結果をを統合しデータ解析する研究手法。

 

 Schoenfeldらは10の研究報告のデータを解析し、トレーニングにおける運動強度について報告しています。

 

・低強度のトレーニングであっても、疲労困憊まで運動回数を行い、総負荷量を高めることで効果的な筋肉の肥大が期待できる。

 

・この効果は、疲労困憊まで運動回数を行うことによって生じる筋線維活性が要因であると推測される。

 

・最大筋力を高めたい場合は、高強度×低回数が適している可能性が示唆される。

 

・しかし、トレーニング経験者に対する研究報告の数が少なく、今後のさらなる検証が必要である。

 

 Schoenfeldらはこれらの結果から、実際のトレーニングでは、総負荷量を徐々に増やすようなプランニングすべきであると述べています。特に初心者は、低強度×低回数から始め、徐々に運動回数を増やして総負荷量をアップすることを推奨しています。これとは逆にトレーニング経験者には初心者の倍の運動回数が必要だろうとも述べています。

 

 しかし、過度の運動回数の実施には注意が必要のようです。Schoenfeldらは2007年に報告されたレビュー(Wernbom M, 2007)をもとに、運動回数の実施による筋肥大の効果は「逆U字型」であるとしています。

 

 Wernbomらのレビューでは、同強度での運動回数40回以下では筋肥大が1日に0.15%増加し、40-70回では0.26%の増加が認めらました。しかし70-120回では0.18%に減少することが示されているのです。

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Fig.5:Wernbom M, 2007より引用改変

 

 このことから、Schoenfeldらは推奨される運動回数は40-70回程度であり、それ以上の運動回数ではオーバートレーニングを生じさせるリスクがあると述べています。そのため、低強度×高回数のトレーニングの実施では、セット間で十分な休憩時間をとり総負荷量を増やすべきだと注意を喚起しています。

 

 

 効果的に筋肉を肥大させるためには、トレーニングの「総負荷量」を高めることが重要です。初心者は低強度×高回数のトレーニングを取り入れ、上級者はその倍の運動回数を行う必要があるようです。また最大筋力を高めたい場合は、高強度×低回数のトレーニングを取り入れても良いかもしれません。

 

 そして総負荷量を高めるためには「疲労困憊になるまで自分を追い込む」ことが前提になります。しかし、オーバートレーニングのリスクがあるので、無理せずセット間で休息をとりましょう。

 

 トレーニング=総負荷量(運動強度 × 運動回数) × ? × ?

 *前提条件:自分を追い込む

 

 効果的なトレーニングの要素として総負荷量について考察してきました。今後も新たな知見が報告され次第、ご紹介していきたいと思います。次回は、トレーニングのその他の要素について、近年のスポーツ運動生理学の知見をご紹介していきます。

 

 

筋力トレニーングの科学

シリーズ①:筋肉を増やすための栄養摂取のメカニズムを理解しよう

シリーズ②:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取量を知っておこう

シリーズ③:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取タイミングを知っておこう

シリーズ④:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取パターンを知っておこう

シリーズ⑤:筋トレの効果を最大にする就寝前のプロテイン摂取を知っておこう

シリーズ⑥:筋トレの効果を最大にする就寝前のプロテイン摂取の方法論 

シリーズ⑦:筋トレの効果を最大にする運動強度(負荷)について知っておこう

シリーズ⑧:筋トレの効果を最大にする運動強度(負荷)の実践論

シリーズ⑨:筋トレの効果を最大にするセット数について知っておこう 

 

References

Mitchell CJ, et al. Resistance exercise load does not determine training-mediated hypertrophic gains in young men. J Appl Physiol (1985). 2012 Jul;113(1):71-7.

Morton RW, et al. Neither load nor systemic hormones determine resistance training-mediated hypertrophy or strength gains in resistance-trained young men. J Appl Physiol (1985). 2016 Jul 1;121(1):129-38.

Schoenfeld BJ, et al. Muscular adaptations in low- versus high-load resistance training: A meta-analysis. Eur J Sport Sci. 2016;16(1):1-10.

Wernbom M, et al. The influence of frequency, intensity, volume and mode of strength training on whole muscle cross-sectional area in humans. Sports Med. 2007;37(3):225-64.

筋トレの効果を最大にする運動強度(負荷)について知っておこう

 

 トレーニングによって筋肥大を起こさせるためには、筋肉を構成する筋タンパク質の合成作用が分解作用を上回らなければなりません。


 筋肥大=筋タンパク質の合成作用 > 分解作用

 筋タンパク質の合成作用は、トレーニング内容とタンパク質の摂取状況というふたつの因子により規定されます。

 筋タンパク質の合成作用=トレーニング × タンパク質摂取

 これまでのエントリーでは、スポーツ栄養学の知見にもとづき、効果的なタンパク質の摂取方法について考察してきました。効果的にタンパク質を摂取するためには最適な摂取量、摂取タイミング、摂取パターンなどを考慮する必要があります。

 タンパク質摂取=摂取量 × 摂取タイミング × 摂取パターン…

 では、もうひとつの因子である「トレーニング」の要素はどのように考慮すれば良いのでしょうか?

 

 トレーニング= ? × ? × ? 


 今回は、トレーニングの効果を最大にする運動強度について、近年のスポーツ運動生理学の知見をご紹介します。



◆ 低強度でも高強度と同じ筋タンパク質の合成作用が得られる?

 

 ひとつの運動神経には、多くの筋線維がつながっています。このユニットを運動単位といいます。大きな筋力を発揮するためには、多くの運動単位の動員が必要であり、多くの運動単位を動員することが効果的なトレーニングになるとされてきました。そのため、高強度の運動強度が選択されてきたのです。

 

 このような前提のもと、これまでは筋肥大を生じさせるために1RMの70%以上の運動強度が必要であると推奨されてきました(Kraemer WJ, 2004)。

✻1RMは、1回で持ち上げられる最大の重量(1 repetition maximum)

 

 しかし、近年になってアミノ酸安定同位体を用いる研究手法が構築され、運動強度と筋タンパク質の合成作用との関係が明らかになると、異なる見解が報告されるようになったのです。

 

 レジスタンストレーニングは、成長因子や代謝ストレスなどによって、筋細胞内のmTORC1やリボゾーム生合成を増加させることで筋タンパク質の合成作用を高めます(Glass DJ, 2005)。このメカニズムを利用し、トレーニングによる筋タンパク質の合成作用を測定することにより、効果の高い運動強度を調べることが可能になりました。

 

 2009年、ノッティンガム大学のKumarらは、異なる運動強度が筋タンパク質の合成作用に与える影響について調べました。その結果、筋タンパク質の合成率は低〜中等度の強度(1RMの20〜60%)までは運動強度に比例して増加しますが、高度の運動強度(1RMの60%以上)では頭打ち(プラトー)になるというものでした(Kumar V, 2009)。

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Fig.1:Kumar V, 2009より引用改変

 

 Kumarらの報告により、初めて中等度の運動強度でも高強度と同じように筋タンパク質の合成作用を高められることが明らかになったのです。

 

 しかし、高強度を推奨する声は根強く、この報告をきっかけに、トレーニングの運動強度における低強度vs高強度の論争が始まりました。



◆ トレーニング効果を最大にするのは「総負荷量」

 

 この議論の打開を図ったのがマクマスター大学のBurdらです。Burdらは、筋タンパク質の合成作用を高めるのは運動強度ではなく、運動強度に運動回数をかけ合わせた「総負荷量」であることを報告しました。

 

 2010年、Burdらは同じ運動強度であれば、運動回数(セット数)に応じて筋タンパク質の合成作用が増加するのではないか?という仮説を検証しました。

 

 被験者は1RMの70%の高強度でレッグエクステンションを1セットだけ行う場合、3セット行う場合のふたつの条件で疲労困憊になるまで実施しました。

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Fig.2:Burd NA, 2010aより引用改変

 

 トレーニング後、それぞれのセット数における筋タンパク質の合成率を比較しました。その結果、3セット行った場合は、1セットに比べてトレーニング後5時間、29時間の筋タンパク質の合成率が有意に増大したのです(Burd NA, 2010a)。

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Fig.3:Burd NA, 2010aより引用改変

 

 Burdらの報告により、同じ運動強度でも運動回数によって筋タンパク質の合成作用が高まることが示されました。これにより、筋タンパク質の合成作用は運動強度とともに運動回数を掛け合わせた総負荷量に応じて増加することが示唆されたのです。

 では、異なる運動強度の場合においても、筋タンパク質の合成作用は総負荷量に応答し、増加するのでしょうか?

 

 Burdらは筋タンパク質の合成作用に対する総負荷量の影響を調べるために、低強度・高回数と高強度・低回数でのトレーニング効果について検討しました。

 

 被検者はレッグエクステンションを1RMの90%で行う条件、1RMの30%で行う条件の2条件を疲労困憊になるまで実施しました。トレーニング後の24時間の時点で筋タンパク質の合成率が測定されました。

 

 1RMの90%の高強度トレーニングでは、疲労困憊までの回数が5±0.2回と低回数であり、1RMの30%の低強度では24±1.1回と高回数でした。その結果、運動強度と運動回数をかけ合わせた総負荷量は、高強度の条件よりも低強度の条件で高くなりました。

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Fig.4:Burd NA, 2010bより引用改変

 

 そして筋タンパク質の合成率においても低強度×高回数の条件が高強度×低回数の条件を有意に上回ったのです(Burd NA, 2010b)。

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Fig.5:Burd NA, 2010bより引用改変

 

 これらの結果が示すことは、1RMの30%の低強度であっても、運動回数を疲労困憊まで行い総負荷量を高めることで、高強度と同等かそれ以上の筋タンパク質の合成作用が期待できるということです。

 

 2012年、Burdらは、これまでの研究をまとめたレビューを報告しています。そこで総負荷量が筋タンパク質の合成作用を増加させる理由として「筋線維活性」を挙げています。高強度×低回数ではタイプⅠ線維の動員で対応されます。低強度×高回数で疲労困憊まで行うことによってタイプⅠ線維に加えてタイプⅡ線維まで動員され、筋線維活性が増加し、筋タンパク質の合成作用が高まるのだろうと推測しています(Burd NA, 2012)。



 これらの知見から現在では、トレーニング効果を最大化するためには、運動強度に運動回数をかけ合わせた総負荷量を考慮することが推奨されているのです。

 

 トレーニング= 総負荷量(運動強度 × 運動回数) × ? × ? 

 

 では、長期間のレジスタンストレーニングにおいても、総負荷量によって筋タンパク質の合成作用が応答するのでしょうか?

 

 次回、総負荷量と筋タンパク質の合成作用についての縦断的研究とともに、2016年に発表された運動強度についてのメタアナリシスをご紹介し、さらに効果的な運動強度について考察していきましょう。

 

 

筋力トレーニングの科学

シリーズ①:筋肉を増やすための栄養摂取のメカニズムを理解しよう

シリーズ②:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取量を知っておこう

シリーズ③:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取タイミングを知っておこう

シリーズ④:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取パターンを知っておこう

シリーズ⑤:筋トレの効果を最大にする就寝前のプロテイン摂取を知っておこう

シリーズ⑥:筋トレの効果を最大にする就寝前のプロテイン摂取の方法論 

シリーズ⑦:筋トレの効果を最大にする運動強度(負荷)について知っておこう

シリーズ⑧:筋トレの効果を最大にする運動強度(負荷)の実践論

シリーズ⑨:筋トレの効果を最大にするセット数について知っておこう 

 

References

Glass DJ, et al. Skeletal muscle hypertrophy and atrophy signaling pathways. Skeletal muscle hypertrophy and atrophy signaling pathways.

Kraemer WJ, et al. Fundamentals of resistance training: progression and exercise prescription. Med Sci Sports Exerc. 2004 Apr;36(4):674-88.

Kumar V, et al. Age-related differences in the dose-response relationship of muscle protein synthesis to resistance exercise in young and old men. J Physiol. 2009 Jan 15;587(1):211-7.

Burd NA, et al. Resistance exercise volume affects myofibrillar protein synthesis and anabolic signalling molecule phosphorylation in young men. J Physiol. 2010a Aug 15;588(Pt 16):3119-30.

Burd NA, et al. Low-load high volume resistance exercise stimulates muscle protein synthesis more than high-load low volume resistance exercise in young men. PLoS One. 2010b Aug 9;5(8):e12033.

Burd NA, et al. Bigger weights may not beget bigger muscles: evidence from acute muscle protein synthetic responses after resistance exercise. Appl Physiol Nutr Metab. 2012 Jun;37(3):551-4.

筋トレの効果を最大にする就寝前のプロテイン摂取の方法論

 

 2016年、オランダ・マーストリヒト大学のTrommelenらは、雑誌Nutrientsで就寝前のタンパク質摂取がトレーニング効果を高める根拠や、その方法論について体系化させたレビュー(まとめ)を報告しています(Trommelen J, 2016)。現代のスポーツ栄養学では、就寝前にタンパク質を摂取することによって、トレーニング後の筋タンパク質の合成作用を最大化させることが明らかになっているのです。

 

 2008年から始まった就寝前のタンパク質摂取の研究により、就寝時の筋タンパク質の合成作用を高めるためには、より多くのタンパク質の摂取量(30-40g)が必要であることがわかりました。これは概日リズム(サーカディアンリズム)によって、就寝時の腸の吸収機能が低下するためです。

 

 これらの基礎研究をもとに、実際に就寝前に高用量のタンパク質を摂取すると、就寝後7-9時間の筋タンパク質の合成率が増加することが明らかになりました。また12週間、就寝前のタンパク質摂取を継続することにより、筋肉のボリュームや筋力の増強が示されています。

筋トレの効果を最大にする就寝前のプロテイン摂取を知っておこう

 

 そして2016年になると、就寝前のタンパク質摂取の効果をさらに高める方法論についての研究結果が報告されるようになりました。

 

 今回は、就寝前のタンパク質摂取の方法論について考察していきましょう。

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◆ 就寝前のタンパク質を摂取する場合、トレーニングは夕方に行うと効果的

 

 トレーニング後、少なくとも24時間は筋タンパク質の合成感度が増大し、筋肉が増えやすくなります。ここでトレーニング効果を最大化するために必要なのが3食のバランスの良いタンパク質の摂取です。

筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取パターンを知っておこう

 

 例えば、早朝にトレーニングを行った場合、その後の朝食、昼食、夕食時に必要量のタンパク質を摂取することが推奨されています。

 

 では、この場合でも就寝前のタンパク質摂取は効果的なのでしょうか?

 

 答えは「No」となります。スポーツ栄養学では早朝のトレーニングにおける就寝前のタンパク質摂取の効果は高くないことが示されています。就寝前のタンパク質摂取による効果を最大にしたいときは、早朝ではなく「夕方」にトレーニングを行うべきなのです。

 

 2016年、Trommelenらは24名の被検者(平均年齢23歳、体重75kg)を対象にして、異なる時間帯にトレーニングを行い、就寝前のタンパク質摂取による筋タンパク質の合成率を比較しました。その結果、夕方にトレーニングを行ったグループは他の時間帯に行ったグループよりも30%以上の筋タンパク質の合成率の増加を認めました(Trommelen J, 2016)。

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Fig.1:Trommelen J, 2016より引用改変

 

 また、オランダ食品栄養学先端研究所のHolwerdaらは、23名の高齢者(平均年齢71歳、体重79kg)を対象に、異なるトレーニング時間帯による就寝前のタンパク質摂取の影響について検証しました。その結果は、やはり夕方に行ったグループの筋タンパク質の合成率が30%増加しました(Holwerda AM, 2016)。

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Fig.2:Holwerda AM, 2016より引用改変

 

 これらの報告から、就寝前のタンパク質摂取を考慮した場合、夕方にトレーニングを行うことがトレーニング後24時間の筋タンパク質の合成作用を最大化させると示唆されているのです。

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 しかし、この論考に対して「就寝前のタンパク質摂取が、翌日の朝食時のタンパク質摂取による筋タンパク質の合成作用を低下させるのではないか?」という疑義が生じていました。

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 この疑義に対して、マーストリヒト大学のWallらは、就寝前にタンパク質摂取を行ったときの翌日の朝食後の筋タンパク質の合成率の変化を検証しました。

 

 16名の被検者(平均年齢24歳、体重74kg)をトレーニング後の就寝前にタンパク質を摂取したグループ、摂取しないグループのふたつに分け、翌日の朝食後の筋タンパク質の合成率を比較しました。その結果、ふたつのグループの筋タンパク質の合成率に差がないことがわかったのです。

 

 この結果は、就寝前にタンパク質を摂取しても、翌日の朝食後の筋タンパク質の合成作用を阻害しないことを示しています。

 

 これらの知見から、スポーツ栄養学はトレーニング後24時間の効率的なタンパク質摂取について、こう結論づけています。

 

 「夕方にトレーニングを行い、その後の夕食、就寝前、翌日の朝食、昼食に適切なタンパク質の摂取量を摂取することがトレーニング効果を最大化させる」



◆ 就寝前のプロテイン摂取は「カゼイン」一択

 

 トレーニング後の適切なタンパク質の摂取量は、年齢や体重によって異なります。では就寝前のタンパク質の摂取量はどの程度が適切なのでしょうか?

 

 これまでの知見から「30g〜40gの高容量」が適切であるとされています。睡眠時は腸のタンパク質の吸収能が低下します。そのため、年齢や体重から推奨される摂取量では不十分なのです。今まで紹介してきた臨床研究の全てで30g以上のタンパク質が使用されており、その効果が確認されています。

 

 では、どのようなプロテインの種類を選択すれば効果的なのでしょうか?

 

 スポーツ栄養学では、この問いについて「カゼイン」のプロテインが最適であるとしています。

 

 タンパク質には乳タンパク質や大豆タンパク質などがあり、乳タンパク質にはホエイとカゼインがあります。ホエイは胃からの排出速度が早いため、速やかに吸収されますが、カゼインは胃酸により凝固、沈殿するため、胃からの排出が遅くなります。その結果として、ホエイとカゼインを比較した研究では、6時間の筋タンパク質の合成作用において、ホエイが速く、カゼインが遅いことが示されています(Pennings B, 2011)。

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Fig.3:Pennings B, 2011より引用改変

 

 典型的な食後の時間(4-5時間)に比べて長い就寝時間では、ゆっくり消化され、血中アミノ酸濃度が中等度で長時間において維持できるカゼインが適していると考えられているのです。実際、これまで紹介した臨床研究はすべてカゼインプロテインが使用されています。

 

 また、カゼインはホエイに比べて血中ロイシン濃度も低くなります。そのため、Trommelenらはカゼインに2gのロイシンを加えたプロテインを就寝前に摂取させましたが、カゼインのみのプロテインと筋タンパク質の合成率に差はなかったことを示しています(Trommelen J, 2016)。

 

 これらの知見から、就寝前のタンパク質摂取にカゼインが最適であるとしているのです。

 

 参考ですが、Trommelenらのレビューでは、カゼインのみでなく、カゼイン加水分解物50%とカゼイン50%の組み合わせが血中アミノ酸濃度をすばやく増加させ、長時間にわたって筋タンパク質の合成作用を高めるとして薦めています。試してみても良いかもしれません。

 

カゼイン加水分解プロテイン「ペプトフォース」by PPN 

PPNの001'PEPTO FORCE 300g  オリンピック代表選手用に独占的に開発された新しいタンパク質素材ペプトプロ®90%配合 アミノ酸に代わる次世代タンパク質サプリメント ドーピング物質混入検査済み

 

 就寝前のタンパク質摂取は明らかにトレーニング後24時間の筋タンパク質の合成作用を高めます。夕方にトレーニングを行えるときは、就寝前のタンパク質摂取を考慮することでトレーニング効果に差をつけることができるでしょう。



筋力トレーニングの科学

シリーズ①:筋肉を増やすための栄養摂取のメカニズムを理解しよう

シリーズ②:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取量を知っておこう

シリーズ③:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取タイミングを知っておこう

シリーズ④:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取パターンを知っておこう

シリーズ⑤:筋トレの効果を最大にする就寝前のプロテイン摂取を知っておこう

シリーズ⑥:筋トレの効果を最大にする就寝前のプロテイン摂取の方法論 

シリーズ⑦:筋トレの効果を最大にする運動強度(負荷)について知っておこう

シリーズ⑧:筋トレの効果を最大にする運動強度(負荷)の実践論

シリーズ⑨:筋トレの効果を最大にするセット数について知っておこう 

 

References

Trommelen J, et al. Pre-Sleep Protein Ingestion to Improve the Skeletal Muscle Adaptive Response to Exercise Training. Nutrients. 2016 Nov 28;8(12).

Trommelen J, et al. Resistance Exercise Augments Postprandial Overnight Muscle Protein Synthesis Rates. Med Sci Sports Exerc. 2016 Dec;48(12):2517-2525.

Holwerda AM, et al. Physical Activity Performed in the Evening Increases the Overnight Muscle Protein Synthetic Response to Presleep Protein Ingestion in Older Men. J Nutr. 2016 Jul;146(7):1307-14.

Wall BT, et al. Presleep protein ingestion does not compromise the muscle protein synthetic response to protein ingested the following morning. Am J Physiol Endocrinol Metab. 2016 Dec 1;311(6):E964-E973.

Pennings B, et al. Whey protein stimulates postprandial muscle protein accretion more effectively than do casein and casein hydrolysate in older men. Am J Clin Nutr. 2011 May;93(5):997-1005.