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リハビリmemo

大学病院勤務・大学院リハビリテーション学所属の理学療法士による「研究と臨床をつなげるための記録」

変形性股関節症・変形性膝関節症の保存療法によるリスクを知っておこう

 

 「手術をすべきか、しないべきか」

 多くの患者さんが迷うところだと思います。

 

 この判断をするためには、手術による利点とリスク、手術をしないことによる利点とリスクを正しく理解することが大切です。

 

 変形性股関節症や変形性膝関節症の主な手術は、人工股関節置換術(THA)あるいは人工膝関節置換術(TKA)になります。これらの手術による利点には関節機能の改善、痛みの緩解、歩行や生活の質(QOL)の改善などのエビデンスが示されています(Price AJ, 2010)。

 

 近年では手術の手技のレベルも上がり、手術による傷を最小の範囲で行うMIS(Minimally Invasive Surgery )も多くの病院で取り入れるようになってきています。

最新手術「筋肉温存型人工股関節置換術」まとめ

 

 手術による利点が明確となり、手術のレベルも向上する中で、THAやTKAを受ける患者さんは年々、増えつづけています。また、手術を受ける年齢も低年齢化しているのです。

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Fig.1:日本人工関節学会の人工関節登録調査集計より筆者作成

 

 しかし良い面ばかりではありません。THAには脱臼などのリスクがあります。また人工関節は摩耗や緩みにより、ある程度の年数が経過すると再置換術を行う必要もあります。

人工股関節置換術・人工膝関節置換術の再置換率を知っておこう

 

 患者さんは、手術の利点だけでなく、リスクを十分に理解した上で、手術をするか、しないかの判断をするべきです。そして医療者はその判断を助けるためにも十分な説明をしなければなりません。

 

 次に、手術をしないことによる利点とリスクについて考えてみましょう。

 

 手術をしないときの選択肢として保存療法があります。変形性関節症に対する保存療法の知見は少ないですが、筋肉へのアプローチによる痛みの緩解、動作指導による日常生活動作能力の改善などが報告されています。

手術か保存療法か

手術か保存療法か(その2)

 

 では、保存療法のリスクとは何なのでしょうか?

 

 今回は、2017年3月にフロリダ国際大学のLaverniaらが報告した「Prolonged conservative management in total joint arthroplasty: Harming the patient?(保存療法による手術の延期は患者さんの損失になる?)」という知見をもとに、保存療法のリスクについて考えていきましょう。

 

www.ncbi.nlm.nih.gov

 

 Laverniaらは、変形性股関節症、変形性膝関節症の手術前の重症度が、術後10年以上という長期の回復状況にどのように影響するのか?という疑問を検証しました。

 

 105名の症例(変形性股関節症54名、変形性膝関節症51名)を対象とし、重症度に応じて重症のグループ(31名)、軽症のグループ(74名)に分けられました。これらのすべての症例が保存療法を受けており、その後、人工股関節置換術、人工膝関節置換術を受けています。

 

 それぞれのグループの症例は、術前と術後(平均11.2年後)に関節の機能や痛みを評価するWOMAC、健康に関連する生活の質(QOL)を評価するSF-36、満足度調査が行われました。

 

 その結果、WOMAC、SF-36ともに術前と比較して術後では、両グループともに回復が認められ、満足度も同等でした。特に重症のグループのWOMACは、軽症のグループよりも回復度が高いことが示されました。しかし、WOMAC、SF-36において、重症のグループが軽症のグループの回復レベルを超えることもなければ、達することもなかったのです。

*WOMACはスコアが高いほど重度

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Fig.2:Lavernia CJ, 2017より引用改変

 

 この結果を受けて、Laverniaらは保存療法により手術を延期し、関節症が重度になってから手術をした場合、関節の機能や痛み、QOLは、術後10年以上たっても軽度の状態で手術をしたものに「追いつくことはできない」と述べています。

 

 変形性関節症が重度であっても保存療法により手術を先に延ばすことは、患者さんの利益にはならず、逆にリスクになるということです。 

 

 Laverniaらは、今回の調査から、WOMACの身体機能スコアの合計が「51以上」になる場合は、保存療法を継続するのではなく、手術を検討するべきであると警鐘を鳴らしています(Lavernia CJ, 2017)。

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Fig.3:WOMACの身体機能スコア

 

 この報告は、患者さんにおいても、医療者においても、保存療法により手術を先延ばしにするリスクとして知っておくべき知見でしょう。

 

 手術を受けるということは、人生においての重大なイベントです。だからこそ手術による利点とリスク、手術をしないことによる利点とリスクを知り、専門職とともに判断すべきなのです。そしてわれわれ医療者は、患者さんの判断をサポートするためにも、身体所見や生活状況をしっかりと把握し、正確な情報を提供しなければならないのです。


 保存療法を行う場合は、病院で医師の診察のもと、理学療法士の定期的な評価・指導を受けることがリスクを回避するためにも望まれます。


 

変形性股関節症の保存療法

シリーズ①:変形性股関節症の保存療法と基本戦略①

シリーズ②:変形性股関節症の保存療法と基本戦略②

シリーズ③:変形性股関節症の保存療法と基本戦略③

シリーズ④:変形性股関節症の悪化を予測する新しい指標を知っておこう 

シリーズ⑤:変形性股関節症・変形性膝関節症の保存療法によるリスクを知っておこう

 

変形性股関節症リハビリテーション

股関節リハビリ①:歩行時の振り出しで上手に腸腰筋をつかうためのヒント

股関節リハビリ②:力学的負荷から見た股関節運動の注意点

股関節リハビリ③:歩行時の股関節伸展角度が出にくい理由

股関節リハビリ④:股関節症術後に見られる階段昇降の足の使い方

股関節リハビリ⑤:手術か保存療法か

股関節リハビリ⑥:手術か保存療法か(その2) 

股関節リハビリ⑦:人工股関節術後に残りやすい歩き方のポイント

股関節リハビリ⑧:人工股関節術後に残りやすい立ち上がり動作のポイント

股関節リハビリ⑨:自分で簡単に変形性股関節症の程度を確認できる方法

股関節リハビリ⑩:歩容から見る変形性股関節症の重症度

股関節リハビリ⑪:変形性股関節症の簡単な脊椎疾患との鑑別法

股関節リハビリ⑫:変形性股関節症の遺伝子研究の進展

股関節リハビリ⑬:最新手術「筋肉温存型人工股関節置換術」まとめ

股関節リハビリ⑭:歩きに適した外転筋トレーニングの方法

股関節リハビリ⑮:見落としがちな歩き方のポイント

股関節リハビリ⑯:見落としがちな歩き方のポイント(その2)

股関節リハビリ⑰:変形性股関節症の保存療法と関節軟骨

股関節リハビリ⑱:変形性股関節症とランニング(まとめ)

股関節リハビリ⑲:人工股関節置換術とスポーツ

股関節リハビリ⑳:人工股関節・人工膝関節置換術の再置換率を知っておこう

 

References

Price AJ, et al. Are pain and function better measures of outcome than revision rates after TKR in the younger patient? Knee. 2010 Jun;17(3):196-9.
Lavernia CJ, et al. Prolonged Conservative Management in Total Joint Arthroplasty: Harming the Patient? J Arthroplasty. 2017 Mar 23. pii: S0883-5403(17)30270-X

筋トレの効果を最大にする運動強度(負荷)の実践論

 

 現代のスポーツ運動生理学は、トレーニングによって効果的に筋肉を肥大させるためには「自分を追い込み、総負荷量を増やせ」と言います。

 

 これまで筋肉を肥大させるためには、高強度のトレーニングを行うことが推奨されてきました。これは高い運動強度によって、多くの運動単位を動員できるためです。しかし、筋肉を構成する筋タンパク質の合成作用が計測できるようになると、運動強度に対する新しい考え方が報告されるようになりました。

 

 そこで明らかになったことは「筋タンパク質の合成作用は、運動強度と運動回数をかけ合わせた総負荷量(training volume)に応じて増大する」というものでした。

 

 筋タンパク質の合成作用=トレーニングの総負荷量(運動強度 × 運動回数)

 

 これは低強度であっても疲労困憊まで運動回数を高めて総負荷量を増やすことで、高強度と同じかそれ以上の筋タンパク質の合成作用が得られるということを示しています。筋タンパク質の合成作用は、運動強度によって決まるのではなく、総負荷量によって決まるのです。

筋トレの効果を最大にする運動強度(負荷)について知っておこう

 

 しかし、ここまでにわかったことは、トレーニングの総負荷量が筋タンパク質の合成作用を即時的(トレーニング後24時間)に増大させるということです。では、総負荷量を高めるトレーニングを長期に行った場合、本当に筋肉は肥大するのでしょうか?

 

 今回は、総負荷量を考慮した長期間のトレーニング効果を検証した報告をご紹介しながら、実際の方法論について考えてみましょう。



◆ 低強度×高回数と高強度×低回数による長期間のトレーニング効果

 

 マクマスター大学のMitchellらは、低強度と高強度によるトレーニング効果について、10週間の縦断的調査を行っています。被検者はトレーニング経験のない18名の男性(平均年齢23歳)として、レッグエクステンションを1RMの30%で行うグループと80%で行うグループに分けられました。両グループともに疲労困憊になるまでレッグエクステンションを行い、このトレーニングを1日3セット、週3回、10週間、実施しました。

*1RM:1回で持ち上げれられる最大の重量(1 repetition maximum)

 

 10週間のトレーニングを終えた被検者の大腿四頭筋の筋量を計測してみると、トレーニング前に比べて両グループともに筋量の増大を示しましたが、増加率に有意な差は認められませんでした。

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Fig.1:Mitchell CJ, 2012より引用改変

 

 また、膝の伸展筋力の1RMを計測すると、両グループともにトレーニング前に比べて増加が見られましたが、高強度グループが低強度グループよりも有意な増加を示しました。

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Fig.2:Mitchell CJ, 2012より引用改変

 

 この結果から、Mitchellらは10週間のトレーニングにおいても、低強度×高回数のトレーニングは高強度×低回数と同じ筋肉の肥大効果が期待できることを示唆しています。また1RMでは、高強度×低回数でより増大が示されたことが興味深いと述べています。

 

 しかし、Mitchellらの報告はトレーニングの未経験者によるのもであり、トレーニングの経験者に対する総負荷量の筋肥大効果は明らかにされていませんでした。

 

 この疑問に挑戦したのがマクマスター大学のMortonらです。2016年、Mortonらはトレーニング経験のある49名の男性(平均年齢23歳)を対象に低強度と高強度のトレーニングによる筋肥大効果について調査をしました。

 

 被験者は、低強度×高回数グループ(1RMの30-50%で20-25回)と高強度×低回数グループ(1RMの75-90%で8-12回)に分けれれ、4つのトレーニング(レッグプレス、ベンチプレス、ニーエクステンション、ショルダープレス)を1日3セット、週に4回、12週間行いました。

 

 12週間のトレーニング後の筋線維(タイプⅠ・Ⅱ)の肥大は両グループともに有意に増加しましたが、グループ間に差は見られませんでした。

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Fig.3:Morton RW, 2016より引用改変

 

 また1RMの増加は、ベンチプレスのみに高強度×低回数グループで有意な増大を示しました。

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Fig.4:Morton RW, 2016より引用改変

 

 さらに、両グループの筋肥大の増加率は、トレーニング未経験者を対象にしたMitchellらの報告に比べて少ないことが示されました。

 

 これらの結果から、トレーニング経験者においても低強度×高回数のトレーニングが高強度×低回数と同様の筋肥大効果を示すことがわかったのです。また、高強度×低回数によりベンチプレスの1RMが増大したことから、Mitchellらの報告と合わせて、最大筋力の増強には高強度×低回数が適切である可能性が示唆されました。

 

 トレーニングによる筋肥大の増加率は、Mitchellらが示したトレーニング未経験者の増加率のほうが高く、低強度×高回数のトレーニングはより初心者に最適であることも推察されました。

 

 マクマスター大学のMitchell、Mortonらの報告により、長期間のトレーニングにおいても低強度×高回数により総負荷量を増大させることで、高強度×低回数と同じ筋肥大の効果を得られること明らかになりました。総負荷量を増大させるトレーニングは、即時的に筋タンパク質の合成作用を促進させるとともに、長期のトレーニングによって筋肉を効果的に肥大させるのです。



◆ これらの知見を実際のトレーニングにどう生かすか?

 

 このような研究が報告される中、2016年にはニューヨーク市立大学のSchoenfeldらはトレーニングの運動強度に関するメタアナリシスを報告しました。

*メタアナリシス:複数の研究結果をを統合しデータ解析する研究手法。

 

 Schoenfeldらは10の研究報告のデータを解析し、トレーニングにおける運動強度について報告しています。

 

・低強度のトレーニングであっても、疲労困憊まで運動回数を行い、総負荷量を高めることで効果的な筋肉の肥大が期待できる。

 

・この効果は、疲労困憊まで運動回数を行うことによって生じる筋線維活性が要因であると推測される。

 

・最大筋力を高めたい場合は、高強度×低回数が適している可能性が示唆される。

 

・しかし、トレーニング経験者に対する研究報告の数が少なく、今後のさらなる検証が必要である。

 

 Schoenfeldらはこれらの結果から、実際のトレーニングでは、総負荷量を徐々に増やすようなプランニングすべきであると述べています。特に初心者は、低強度×低回数から始め、徐々に運動回数を増やして総負荷量をアップすることを推奨しています。これとは逆にトレーニング経験者には初心者の倍の運動回数が必要だろうとも述べています。

 

 しかし、過度の運動回数の実施には注意が必要のようです。Schoenfeldらは2007年に報告されたレビュー(Wernbom M, 2007)をもとに、運動回数の実施による筋肥大の効果は「逆U字型」であるとしています。

 

 Wernbomらのレビューでは、同強度での運動回数40回以下では筋肥大が1日に0.15%増加し、40-70回では0.26%の増加が認めらました。しかし70-120回では0.18%に減少することが示されているのです。

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Fig.5:Wernbom M, 2007より引用改変

 

 このことから、Schoenfeldらは推奨される運動回数は40-70回程度であり、それ以上の運動回数ではオーバートレーニングを生じさせるリスクがあると述べています。そのため、低強度×高回数のトレーニングの実施では、セット間で十分な休憩時間をとり総負荷量を増やすべきだと注意を喚起しています。

 


 効果的に筋肉を肥大させるためには、トレーニングの「総負荷量」を高めることが重要です。初心者は低強度×高回数のトレーニングを取り入れ、上級者はその倍の運動回数を行う必要があるようです。また最大筋力を高めたい場合は、高強度×低回数のトレーニングを取り入れても良いかもしれません。

 

 そして総負荷量を高めるためには「疲労困憊になるまで自分を追い込む」ことが前提になります。しかし、オーバートレーニングのリスクがあるので、無理せずセット間で休息をとりましょう。

 

 トレーニング=総負荷量(運動強度 × 運動回数) × ? × ?

 *前提条件:自分を追い込む

 

 効果的なトレーニングの要素として総負荷量について考察してきました。今後も新たな知見が報告され次第、ご紹介していきたいと思います。次回は、トレーニングのその他の要素について、近年のスポーツ運動生理学の知見をご紹介していきます。

 

 

筋力トレニーングの科学

シリーズ①:筋肉を増やすための栄養摂取のメカニズムを理解しよう

シリーズ②:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取量を知っておこう

シリーズ③:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取タイミングを知っておこう

シリーズ④:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取パターンを知っておこう

シリーズ⑤:筋トレの効果を最大にする就寝前のプロテイン摂取を知っておこう

シリーズ⑥:筋トレの効果を最大にする就寝前のプロテイン摂取の方法論 

シリーズ⑦:筋トレの効果を最大にする運動強度(負荷)について知っておこう

シリーズ⑧:筋トレの効果を最大にする運動強度(負荷)の実践論

 

References

Mitchell CJ, et al. Resistance exercise load does not determine training-mediated hypertrophic gains in young men. J Appl Physiol (1985). 2012 Jul;113(1):71-7.

Morton RW, et al. Neither load nor systemic hormones determine resistance training-mediated hypertrophy or strength gains in resistance-trained young men. J Appl Physiol (1985). 2016 Jul 1;121(1):129-38.

Schoenfeld BJ, et al. Muscular adaptations in low- versus high-load resistance training: A meta-analysis. Eur J Sport Sci. 2016;16(1):1-10.

Wernbom M, et al. The influence of frequency, intensity, volume and mode of strength training on whole muscle cross-sectional area in humans. Sports Med. 2007;37(3):225-64.

筋トレの効果を最大にする運動強度(負荷)について知っておこう

 

 トレーニングによって筋肥大を起こさせるためには、筋肉を構成する筋タンパク質の合成作用が分解作用を上回らなければなりません。


 筋肥大=筋タンパク質の合成作用 > 分解作用

 筋タンパク質の合成作用は、トレーニング内容とタンパク質の摂取状況というふたつの因子により規定されます。

 筋タンパク質の合成作用=トレーニング × タンパク質摂取

 これまでのエントリーでは、スポーツ栄養学の知見にもとづき、効果的なタンパク質の摂取方法について考察してきました。効果的にタンパク質を摂取するためには最適な摂取量、摂取タイミング、摂取パターンなどを考慮する必要があります。

 タンパク質摂取=摂取量 × 摂取タイミング × 摂取パターン…

 では、もうひとつの因子である「トレーニング」の要素はどのように考慮すれば良いのでしょうか?

 

 トレーニング= ? × ? × ? 


 今回は、トレーニングの効果を最大にする運動強度について、近年のスポーツ運動生理学の知見をご紹介します。



◆ 低強度でも高強度と同じ筋タンパク質の合成作用が得られる?

 

 ひとつの運動神経には、多くの筋線維がつながっています。このユニットを運動単位といいます。大きな筋力を発揮するためには、多くの運動単位の動員が必要であり、多くの運動単位を動員することが効果的なトレーニングになるとされてきました。そのため、高強度の運動強度が選択されてきたのです。

 

 このような前提のもと、これまでは筋肥大を生じさせるために1RMの70%以上の運動強度が必要であると推奨されてきました(Kraemer WJ, 2004)。

✻1RMは、1回で持ち上げられる最大の重量(1 repetition maximum)

 

 しかし、近年になってアミノ酸安定同位体を用いる研究手法が構築され、運動強度と筋タンパク質の合成作用との関係が明らかになると、異なる見解が報告されるようになったのです。

 

 レジスタンストレーニングは、成長因子や代謝ストレスなどによって、筋細胞内のmTORC1やリボゾーム生合成を増加させることで筋タンパク質の合成作用を高めます(Glass DJ, 2005)。このメカニズムを利用し、トレーニングによる筋タンパク質の合成作用を測定することにより、効果の高い運動強度を調べることが可能になりました。

 

 2009年、ノッティンガム大学のKumarらは、異なる運動強度が筋タンパク質の合成作用に与える影響について調べました。その結果、筋タンパク質の合成率は低〜中等度の強度(1RMの20〜60%)までは運動強度に比例して増加しますが、高度の運動強度(1RMの60%以上)では頭打ち(プラトー)になるというものでした(Kumar V, 2009)。

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Fig.1:Kumar V, 2009より引用改変

 

 Kumarらの報告により、初めて中等度の運動強度でも高強度と同じように筋タンパク質の合成作用を高められることが明らかになったのです。

 

 しかし、高強度を推奨する声は根強く、この報告をきっかけに、トレーニングの運動強度における低強度vs高強度の論争が始まりました。



◆ トレーニング効果を最大にするのは「総負荷量」

 

 この議論の打開を図ったのがマクマスター大学のBurdらです。Burdらは、筋タンパク質の合成作用を高めるのは運動強度ではなく、運動強度に運動回数をかけ合わせた「総負荷量」であることを報告しました。

 

 2010年、Burdらは同じ運動強度であれば、運動回数(セット数)に応じて筋タンパク質の合成作用が増加するのではないか?という仮説を検証しました。

 

 被験者は1RMの70%の高強度でレッグエクステンションを1セットだけ行う場合、3セット行う場合のふたつの条件で疲労困憊になるまで実施しました。

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Fig.2:Burd NA, 2010aより引用改変

 

 トレーニング後、それぞれのセット数における筋タンパク質の合成率を比較しました。その結果、3セット行った場合は、1セットに比べてトレーニング後5時間、29時間の筋タンパク質の合成率が有意に増大したのです(Burd NA, 2010a)。

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Fig.3:Burd NA, 2010aより引用改変

 

 Burdらの報告により、同じ運動強度でも運動回数によって筋タンパク質の合成作用が高まることが示されました。これにより、筋タンパク質の合成作用は運動強度とともに運動回数を掛け合わせた総負荷量に応じて増加することが示唆されたのです。

 では、異なる運動強度の場合においても、筋タンパク質の合成作用は総負荷量に応答し、増加するのでしょうか?

 

 Burdらは筋タンパク質の合成作用に対する総負荷量の影響を調べるために、低強度・高回数と高強度・低回数でのトレーニング効果について検討しました。

 

 被検者はレッグエクステンションを1RMの90%で行う条件、1RMの30%で行う条件の2条件を疲労困憊になるまで実施しました。トレーニング後の24時間の時点で筋タンパク質の合成率が測定されました。

 

 1RMの90%の高強度トレーニングでは、疲労困憊までの回数が5±0.2回と低回数であり、1RMの30%の低強度では24±1.1回と高回数でした。その結果、運動強度と運動回数をかけ合わせた総負荷量は、高強度の条件よりも低強度の条件で高くなりました。

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Fig.4:Burd NA, 2010bより引用改変

 

 そして筋タンパク質の合成率においても低強度×高回数の条件が高強度×低回数の条件を有意に上回ったのです(Burd NA, 2010b)。

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Fig.5:Burd NA, 2010bより引用改変

 

 これらの結果が示すことは、1RMの30%の低強度であっても、運動回数を疲労困憊まで行い総負荷量を高めることで、高強度と同等かそれ以上の筋タンパク質の合成作用が期待できるということです。

 

 2012年、Burdらは、これまでの研究をまとめたレビューを報告しています。そこで総負荷量が筋タンパク質の合成作用を増加させる理由として「筋線維活性」を挙げています。高強度×低回数ではタイプⅠ線維の動員で対応されます。低強度×高回数で疲労困憊まで行うことによってタイプⅠ線維に加えてタイプⅡ線維まで動員され、筋線維活性が増加し、筋タンパク質の合成作用が高まるのだろうと推測しています(Burd NA, 2012)。



 これらの知見から現在では、トレーニング効果を最大化するためには、運動強度に運動回数をかけ合わせた総負荷量を考慮することが推奨されているのです。

 

 トレーニング= 総負荷量(運動強度 × 運動回数) × ? × ? 

 

 では、長期間のレジスタンストレーニングにおいても、総負荷量によって筋タンパク質の合成作用が応答するのでしょうか?

 

 次回、総負荷量と筋タンパク質の合成作用についての縦断的研究とともに、2016年に発表された運動強度についてのメタアナリシスをご紹介し、さらに効果的な運動強度について考察していきましょう。

 

 

筋力トレーニングの科学

シリーズ①:筋肉を増やすための栄養摂取のメカニズムを理解しよう

シリーズ②:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取量を知っておこう

シリーズ③:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取タイミングを知っておこう

シリーズ④:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取パターンを知っておこう

シリーズ⑤:筋トレの効果を最大にする就寝前のプロテイン摂取を知っておこう

シリーズ⑥:筋トレの効果を最大にする就寝前のプロテイン摂取の方法論 

シリーズ⑦:筋トレの効果を最大にする運動強度(負荷)について知っておこう

シリーズ⑧:筋トレの効果を最大にする運動強度(負荷)の実践論

 

References

Glass DJ, et al. Skeletal muscle hypertrophy and atrophy signaling pathways. Skeletal muscle hypertrophy and atrophy signaling pathways.

Kraemer WJ, et al. Fundamentals of resistance training: progression and exercise prescription. Med Sci Sports Exerc. 2004 Apr;36(4):674-88.

Kumar V, et al. Age-related differences in the dose-response relationship of muscle protein synthesis to resistance exercise in young and old men. J Physiol. 2009 Jan 15;587(1):211-7.

Burd NA, et al. Resistance exercise volume affects myofibrillar protein synthesis and anabolic signalling molecule phosphorylation in young men. J Physiol. 2010a Aug 15;588(Pt 16):3119-30.

Burd NA, et al. Low-load high volume resistance exercise stimulates muscle protein synthesis more than high-load low volume resistance exercise in young men. PLoS One. 2010b Aug 9;5(8):e12033.

Burd NA, et al. Bigger weights may not beget bigger muscles: evidence from acute muscle protein synthetic responses after resistance exercise. Appl Physiol Nutr Metab. 2012 Jun;37(3):551-4.

筋トレの効果を最大にする就寝前のプロテイン摂取の方法論

 

 2016年、オランダ・マーストリヒト大学のTrommelenらは、雑誌Nutrientsで就寝前のタンパク質摂取がトレーニング効果を高める根拠や、その方法論について体系化させたレビュー(まとめ)を報告しています(Trommelen J, 2016)。現代のスポーツ栄養学では、就寝前にタンパク質を摂取することによって、トレーニング後の筋タンパク質の合成作用を最大化させることが明らかになっているのです。

 

 2008年から始まった就寝前のタンパク質摂取の研究により、就寝時の筋タンパク質の合成作用を高めるためには、より多くのタンパク質の摂取量(30-40g)が必要であることがわかりました。これは概日リズム(サーカディアンリズム)によって、就寝時の腸の吸収機能が低下するためです。

 

 これらの基礎研究をもとに、実際に就寝前に高用量のタンパク質を摂取すると、就寝後7-9時間の筋タンパク質の合成率が増加することが明らかになりました。また12週間、就寝前のタンパク質摂取を継続することにより、筋肉のボリュームや筋力の増強が示されています。

筋トレの効果を最大にする就寝前のプロテイン摂取を知っておこう

 

 そして2016年になると、就寝前のタンパク質摂取の効果をさらに高める方法論についての研究結果が報告されるようになりました。

 

 今回は、就寝前のタンパク質摂取の方法論について考察していきましょう。

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◆ 就寝前のタンパク質を摂取する場合、トレーニングは夕方に行うと効果的

 

 トレーニング後、少なくとも24時間は筋タンパク質の合成感度が増大し、筋肉が増えやすくなります。ここでトレーニング効果を最大化するために必要なのが3食のバランスの良いタンパク質の摂取です。

筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取パターンを知っておこう

 

 例えば、早朝にトレーニングを行った場合、その後の朝食、昼食、夕食時に必要量のタンパク質を摂取することが推奨されています。

 

 では、この場合でも就寝前のタンパク質摂取は効果的なのでしょうか?

 

 答えは「No」となります。スポーツ栄養学では早朝のトレーニングにおける就寝前のタンパク質摂取の効果は高くないことが示されています。就寝前のタンパク質摂取による効果を最大にしたいときは、早朝ではなく「夕方」にトレーニングを行うべきなのです。

 

 2016年、Trommelenらは24名の被検者(平均年齢23歳、体重75kg)を対象にして、異なる時間帯にトレーニングを行い、就寝前のタンパク質摂取による筋タンパク質の合成率を比較しました。その結果、夕方にトレーニングを行ったグループは他の時間帯に行ったグループよりも30%以上の筋タンパク質の合成率の増加を認めました(Trommelen J, 2016)。

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Fig.1:Trommelen J, 2016より引用改変

 

 また、オランダ食品栄養学先端研究所のHolwerdaらは、23名の高齢者(平均年齢71歳、体重79kg)を対象に、異なるトレーニング時間帯による就寝前のタンパク質摂取の影響について検証しました。その結果は、やはり夕方に行ったグループの筋タンパク質の合成率が30%増加しました(Holwerda AM, 2016)。

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Fig.2:Holwerda AM, 2016より引用改変

 

 これらの報告から、就寝前のタンパク質摂取を考慮した場合、夕方にトレーニングを行うことがトレーニング後24時間の筋タンパク質の合成作用を最大化させると示唆されているのです。

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 しかし、この論考に対して「就寝前のタンパク質摂取が、翌日の朝食時のタンパク質摂取による筋タンパク質の合成作用を低下させるのではないか?」という疑義が生じていました。

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 この疑義に対して、マーストリヒト大学のWallらは、就寝前にタンパク質摂取を行ったときの翌日の朝食後の筋タンパク質の合成率の変化を検証しました。

 

 16名の被検者(平均年齢24歳、体重74kg)をトレーニング後の就寝前にタンパク質を摂取したグループ、摂取しないグループのふたつに分け、翌日の朝食後の筋タンパク質の合成率を比較しました。その結果、ふたつのグループの筋タンパク質の合成率に差がないことがわかったのです。

 

 この結果は、就寝前にタンパク質を摂取しても、翌日の朝食後の筋タンパク質の合成作用を阻害しないことを示しています。

 

 これらの知見から、スポーツ栄養学はトレーニング後24時間の効率的なタンパク質摂取について、こう結論づけています。

 

 「夕方にトレーニングを行い、その後の夕食、就寝前、翌日の朝食、昼食に適切なタンパク質の摂取量を摂取することがトレーニング効果を最大化させる」



◆ 就寝前のプロテイン摂取は「カゼイン」一択

 

 トレーニング後の適切なタンパク質の摂取量は、年齢や体重によって異なります。では就寝前のタンパク質の摂取量はどの程度が適切なのでしょうか?

 

 これまでの知見から「30g〜40gの高容量」が適切であるとされています。睡眠時は腸のタンパク質の吸収能が低下します。そのため、年齢や体重から推奨される摂取量では不十分なのです。今まで紹介してきた臨床研究の全てで30g以上のタンパク質が使用されており、その効果が確認されています。

 

 では、どのようなプロテインの種類を選択すれば効果的なのでしょうか?

 

 スポーツ栄養学では、この問いについて「カゼイン」のプロテインが最適であるとしています。

 

 タンパク質には乳タンパク質や大豆タンパク質などがあり、乳タンパク質にはホエイとカゼインがあります。ホエイは胃からの排出速度が早いため、速やかに吸収されますが、カゼインは胃酸により凝固、沈殿するため、胃からの排出が遅くなります。その結果として、ホエイとカゼインを比較した研究では、6時間の筋タンパク質の合成作用において、ホエイが速く、カゼインが遅いことが示されています(Pennings B, 2011)。

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Fig.3:Pennings B, 2011より引用改変

 

 典型的な食後の時間(4-5時間)に比べて長い就寝時間では、ゆっくり消化され、血中アミノ酸濃度が中等度で長時間において維持できるカゼインが適していると考えられているのです。実際、これまで紹介した臨床研究はすべてカゼインプロテインが使用されています。

 

 また、カゼインはホエイに比べて血中ロイシン濃度も低くなります。そのため、Trommelenらはカゼインに2gのロイシンを加えたプロテインを就寝前に摂取させましたが、カゼインのみのプロテインと筋タンパク質の合成率に差はなかったことを示しています(Trommelen J, 2016)。

 

 これらの知見から、就寝前のタンパク質摂取にカゼインが最適であるとしているのです。

 

 参考ですが、Trommelenらのレビューでは、カゼインのみでなく、カゼイン加水分解物50%とカゼイン50%の組み合わせが血中アミノ酸濃度をすばやく増加させ、長時間にわたって筋タンパク質の合成作用を高めるとして薦めています。試してみても良いかもしれません。

 

カゼイン加水分解プロテイン「ペプトフォース」by PPN 

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 就寝前のタンパク質摂取は明らかにトレーニング後24時間の筋タンパク質の合成作用を高めます。夕方にトレーニングを行えるときは、就寝前のタンパク質摂取を考慮することでトレーニング効果に差をつけることができるでしょう。



筋力トレーニングの科学

シリーズ①:筋肉を増やすための栄養摂取のメカニズムを理解しよう

シリーズ②:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取量を知っておこう

シリーズ③:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取タイミングを知っておこう

シリーズ④:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取パターンを知っておこう

シリーズ⑤:筋トレの効果を最大にする就寝前のプロテイン摂取を知っておこう

シリーズ⑥:筋トレの効果を最大にする就寝前のプロテイン摂取の方法論 

シリーズ⑦:筋トレの効果を最大にする運動強度(負荷)について知っておこう

シリーズ⑧:筋トレの効果を最大にする運動強度(負荷)の実践論

 

References

Trommelen J, et al. Pre-Sleep Protein Ingestion to Improve the Skeletal Muscle Adaptive Response to Exercise Training. Nutrients. 2016 Nov 28;8(12).

Trommelen J, et al. Resistance Exercise Augments Postprandial Overnight Muscle Protein Synthesis Rates. Med Sci Sports Exerc. 2016 Dec;48(12):2517-2525.

Holwerda AM, et al. Physical Activity Performed in the Evening Increases the Overnight Muscle Protein Synthetic Response to Presleep Protein Ingestion in Older Men. J Nutr. 2016 Jul;146(7):1307-14.

Wall BT, et al. Presleep protein ingestion does not compromise the muscle protein synthetic response to protein ingested the following morning. Am J Physiol Endocrinol Metab. 2016 Dec 1;311(6):E964-E973.

Pennings B, et al. Whey protein stimulates postprandial muscle protein accretion more effectively than do casein and casein hydrolysate in older men. Am J Clin Nutr. 2011 May;93(5):997-1005.

筋トレの効果を最大にする就寝前のプロテイン摂取を知っておこう

 

 私たちの筋肉が増えたり、減ったりするのは、筋肉のもとである筋タンパク質の合成作用と分解作用のバランスによって決まります。筋肉を増やすためには、筋タンパク質の合成作用が分解作用を上回らなければなりません。

筋肉を増やすための栄養摂取のメカニズムを理解しよう

 

 マクマスター大学のPhillipsらは、筋タンパク質の合成作用に対するトレーニングとタンパク質摂取の重要性について報告しています。お腹が空いた状態では分解作用が大きくなりバランスはマイナスになります。ここで食事(タンパク質)をとると合成作用が分解作用を上回り、バランスはややプラスに戻ります。また、お腹が空いた状態でトレーニングをしてもバランスはマイナスになります。トレーニングをして、食事をすることで筋タンパク質が大きくプラスになります(Phillips SM, 2004)。

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Fig.1:Phillips SM, 2004より引用改変

 

 このように筋タンパク質の合成作用を大きくし、筋肉を増大させるためには「トレーニングと食事(タンパク質)」の組み合わせが必須になるのです。

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 ここでトレーニングの量が一定だとすると、筋タンパク質の合成作用を最大化させるためには「タンパク質の効果的な摂取」がKey factorになります。

 

 タンパク質の摂取は、タンパク質の量、摂取タイミング、摂取パターンなどによって規定されます。効果的にタンパク質を摂取するためには、これらの要素を根拠ある方法によって実践しなければなりません。そのため本ブログでは、これらの要素についてスポーツ栄養学の知見にもとづいて考察してきました。

 

 筋タンパク質の合成感度がもっとも高まるのは、トレーニング後1時間以内であり、この時間帯はタンパク質摂取のゴールデンタイムと言われています。この時間に最適なタンパク質の量を摂取することがトレーニング効果の最大化に寄与することが明らかになっています。

筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取量を知っておこう

筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取タイミングを知っておこう

 

 また、トレーニング後24時間は筋タンパク質の合成感度が高い状態が続きます。トレーニング効果を最大化させるためには、この24時間に最適なタンパク質の摂取パターンを考慮しなければなりません。現在では、タンパク質の必要量を3時間おきに摂取するパターンが推奨されています(Areta JL, 2013)。しかし、3時間おきの摂取が難しい場合は、3食の食事においてタンパク質をバランス良く摂取することが薦められています(Mamerow MM, 2014)。

筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取パターンを知っておこう

 

 そして2016年、新たなタンパク質の摂取方法を体系化させた報告が雑誌Nutrientsに掲載されました。それが「就寝前のタンパク質摂取(Pre-sleep protein ingection)」です。

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◆ 就寝時はタンパク質の吸収能力が低下する

 

 仕事終わりの夕方にトレーニングを行った場合、その後の夕食、翌日の朝食と昼食までの3食のバランスの良いタンパク質摂取が筋タンパク質の合成作用を高め、トレーニング効果を最大化させます。

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 しかし、この考えには大事な時間帯が抜けています。それは就寝時間が考慮されていないことです。就寝後は筋タンパク質の合成作用が刺激されないため、筋タンパク質のバランスは分解作用に大きく傾いてしまうのです。

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 そのため、就寝前にプロテインを摂取し、就寝時の筋タンパク質の合成作用を高めることによってさらにトレーニング効果を最大化できないか?と考え、スポーツ栄養学の界隈で研究が始まりました。

 

 2008年、マーストリヒト大学のBeelenはトレーニングを行った日の就寝前にプロテインによりタンパク質20-25gを摂取し、就寝9時間後の筋タンパク質の合成率を検証しました。Beelenらは就寝前のタンパク質摂取が筋タンパク質の合成率を高めると仮説を立てていましたが、結果は水を飲んだ被検者と差がないというものだったのです。

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Fig.2:Beelen M, 2008より引用改変

 

 この結果から、就寝前のタンパク質摂取は、筋タンパク質の合成作用を促進しない可能性が示唆されました(Beelen M, 2008)。

 

 この報告に疑問をもったのが同じ研究グループのGroenです。Groenは腸内運動が概日リズム(サーカディアン・リズム)にもとづくことから、夜間はタンパク質の吸収機能が低下すると仮定し、より多くのタンパク質を摂取することによって筋タンパク質の合成作用を刺激できるのではないか?と考えました。

 

 Groenはこの仮説を実証するため、被検者の就寝中に経鼻胃管(鼻から胃まで入れられたチューブ)を通じてタンパク質を直接、摂取させて筋タンパク質の合成反応を調べました。その結果、タンパク質を40gまで増量することによって、筋タンパク質の合成率が高まることがわかったのです。

 

 この結果から、就寝中のタンパク質の吸収能力は低下しますが、タンパク質の摂取量を増やすことで筋タンパク質の合成が可能であることが明らかになりました(Groen BB, 2012)。

 

 これらの知見から、就寝前に一般的な摂取量よりも多めのタンパク質を摂取することによって、就寝中の筋タンパク質の合成作用を増大できることが推測されました。ここから就寝前のタンパク質摂取の研究は次のステップに移っていきます。

 

 

◆ 就寝前のタンパク質摂取は筋タンパク質の合成作用を高める

 

 Groenらの研究報告を受けて、Resらは新たに就寝前のタンパク質摂取による効果について調査しました。レジスタンストレーニングを行った被検者に対して、就寝前に40gのタンパク質を摂取させました。就寝後7.5時間が経過したところで筋タンパク質の合成率を計測すると、水を飲んだ被検者に比べて、約22%の筋タンパク質の合成率の増加を認めたのです(Res PT, 2012)。

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Fig.3:Res PT, 2012より引用改変

 

 これらの報告から、就寝前のタンパク質の摂取では、一般的な20-25gでは筋タンパク質の合成作用を刺激するためには不十分であること、40g程度の高用量のタンパク質を摂取することで効果的に筋タンパク質の合成を高められることが明らかになりました。

 

 では、このような就寝前のタンパク質摂取を継続した場合、効果的に筋肉を増やすことができるのでしょうか?

 

 Snijdersらは長期間の就寝前のタンパク質摂取の効果を検証しました。トレーニング歴のある44名の若者(平均年齢22歳、体重80kg)を対象に、12週間のトレーニングプログラムとともに就寝前にカゼインプロテイン30gを摂取させました。その結果、就寝前に水を摂取したグループと比較して、大腿四頭筋の筋ボリュームが増加するとともに、筋力(1RM)も増強されることが示唆されたのです(Snijders T, 2015)。

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Fig.4:Snijders T, 2015より引用改変

 

 Snijdersらの報告は、トレーニング後の就寝前のタンパク質摂取は、即時的に筋タンパク質の合成作用を高めるだけでなく、長期的に継続することによってさらに筋肉を増大させる可能性を示したものでした。

 

 2008年から始まった就寝前のタンパク質摂取の研究により、高用量のタンパク質を摂取することによって、就寝時でも筋タンパク質の合成作用を刺激できることがわかりました。そしてトレーニングとともに就寝前のタンパク質摂取を長期に継続することで筋肉を効率的に増加させることが明らかになっているのです。

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 それでは、就寝前のタンパク質摂取の効能をさらに高めるトレーニングの時間帯はいつが良いでしょうか?またどのような種類のタンパク質を摂取するば効果的なのでしょうか?これらの疑問も現代のスポーツ栄養学で明らかにされています。

 

 次回、睡眠前のタンパク質摂取の具体的な方法論について考察していきましょう。



筋力トレーニングの科学

シリーズ①:筋肉を増やすための栄養摂取のメカニズムを理解しよう

シリーズ②:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取量を知っておこう

シリーズ③:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取タイミングを知っておこう

シリーズ④:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取パターンを知っておこう

シリーズ⑤:筋トレの効果を最大にする就寝前のプロテイン摂取を知っておこう

シリーズ⑥:筋トレの効果を最大にする就寝前のプロテイン摂取の方法論

シリーズ⑦:筋トレの効果を最大にする運動強度(負荷)について知っておこう

シリーズ⑧:筋トレの効果を最大にする運動強度(負荷)の実践論

 

References

Phillips SM, et al. Protein requirements and supplementation in strength sports. Nutrition. 2004 Jul-Aug;20(7-8):689-95.

Areta JL, et al. Timing and distribution of protein ingestion during prolonged recovery from resistance exercise alters myofibrillar protein synthesis. J Physiol. 2013 May 1;591(9):2319-31.

Mamerow MM, et al. Dietary protein distribution positively influences 24-h muscle protein synthesis in healthy adults. J Nutr. 2014 Jun;144(6):876-80.

Beelen M, et al. Coingestion of carbohydrate and protein hydrolysate stimulates muscle protein synthesis during exercise in young men, with no further increase during subsequent overnight recovery. J Nutr. 2008 Nov;138(11):2198-204.

Groen BB, et al. Intragastric protein administration stimulates overnight muscle protein synthesis in elderly men. Am J Physiol Endocrinol Metab. 2012 Jan 1;302(1):E52-60.

Res PT, et al. Protein ingestion before sleep improves postexercise overnight recovery. Med Sci Sports Exerc. 2012 Aug;44(8):1560-9.

Snijders T, et al. Protein Ingestion before Sleep Increases Muscle Mass and Strength Gains during Prolonged Resistance-Type Exercise Training in Healthy Young Men. J Nutr. 2015 Jun;145(6):1178-84.