リハビリmemo

大学病院勤務・大学院リハビリテーション学所属の理学療法士・トレーナーによる「最新の研究をトレーニングにつなげるための記録」

H反射を理解して立位姿勢制御のしくみを知ろう

 

 「H反射」この言葉を聞いて嫌になる気持ち、よくわかります。

 しかしです、H反射を理解することで立位姿勢制御や歩行制御のメカニズムを知ることができ、臨床におけるクリニカルリーズニングの質を高められるとしたら、少しはこのエントリを読んでみようと思いませんか?

 今回は、H反射を簡単に説明して、H反射の知識をもとに、立位姿勢制御のしくみについて考えてみたいと思います。



◆ 1分でH反射を理解しよう

 

 H反射をひとことでいうと、「脊髄の興奮性(興奮のしやすさ)」をあらわす指標となります。H反射は、なじみのある腱反射と同じメカニズムなので、まずは簡単に腱反射をおさらいしましょう。

 

 腱反射は、打腱器で腱を叩くことによって筋紡錘が伸張され、その伸張刺激が感覚神経であるⅠa線維を通じて脊髄へ伝達され、脊髄内でα運動ニューロンに伝わり、運動神経であるα運動線維を通って筋を収縮させます。

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 通常、脊髄の興奮性は、脳からの抑制が働いています。しかし、脳卒中などの錐体路錐体外路障害がある場合、脳からの抑制が弱まるため、脊髄の興奮性が高まります(興奮しやすくなる)。そのため、腱を叩くと筋の収縮が過度に生じ、筋収縮や関節運動の変化から、腱反射が亢進していると評価されます。

 

 H反射は、1990年にドイツのPaul Hoffmannによって報告され、Hoffmann氏の頭文字からH反射と呼ばれています(Hoffmann P, 1910)。

 

 Hoffmann氏は、打腱器の代わりに電気刺激を用い、筋収縮や関節運動の評価の代わりに筋電図を用いて脊髄の興奮性を評価しました。

 

 筋に電気刺激を与えると、太く興奮しやすい(閾値の低い)感覚神経であるⅠa線維が刺激されます。刺激はⅠa線維を上行して脊髄内に届けられます。脊髄内でシナプスを介してα運動ニューロンに伝わり、α運動線維を下行して筋に到達し、筋の収縮が生じます。この筋収縮を筋電図で波形(H波)として評価します。

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 H波の振幅や潜時の増減により脊髄の興奮性の変化を示すことができます。またM波との閾値比(H/M)も指標として用いられますが、今回は省略していおきます。

 

 H反射は、筋電図を用いるため、腱反射よりも詳細に客観的に評価できる点で優れていますが、何と言っても立位や歩行で測定できる点で、リハビリテーション医療に多くのことを教えてくれる指標なのです。



◆ 足底感覚はH反射を介して立位姿勢を制御する

 

 私たちは意識せずに立っていることができます。しかし、実際は前後にわずかながらに揺れているのです。この前後の揺れは足関節の底屈筋により制御されています。これをAnkle strategyとも言います。

 

 立位姿勢の前後の揺れは、身体重心(COM)の揺れであり、COMの揺れは足圧中心(COP)の移動で表すことができます(Winter DA, 1998)。

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Fig.1:Winter DA, 1998より引用改変。COMとCOPは同じ軌跡を示している。

 

 2007年、Tokunoらはヒトの立位におけるAnkle strategyとH反射との関係について報告しました。

 

 立位時のCOPの前後の変位、ヒラメ筋の筋電図所見、H反射を同時に測定しました。その結果、COPが前方へ変位した際、ヒラメ筋の筋活動の増加と、H反射の振幅の増加が認められました。

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Fig.2:Tokuno CD, 2007より引用改変

 

 立位におけるAnkle strategyは、主にヒラメ筋の筋活動により制御され、ヒラメ筋の筋活動は、H反射の増加(脊髄の興奮性の増大)によって調整されていることがわかっているのです。

 

 では、なぜ立位でCOPが前方へ変位すると脊髄の興奮性が増大するのでしょうか?その理由のひとつとして、足底感覚の寄与が報告されています。

 

 2009年のSayenkoらの報告では、足底の感覚入力を行う部位によってH反射の振幅が変化することを明らかにしています。

 

 踵部と中足骨部の感覚入力では、中足骨部においてH反射の振幅が増大したのです。

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Fig.3:Sayenko DG, 2009より引用改変

 

 つまり、立位時のCOPの前方変位により、足底感覚の入力部位が前方へ移動し、その入力が脊髄の興奮性を高めた結果、H反射が増大し、ヒラメ筋の筋活動による制御が働いたと推測されているのです。

 

 このようにH反射を計測することによって、立位時の足底感覚入力の変化が脊髄の興奮性を変化させ、立位姿勢制御に寄与していることがわかるのです。

 

 足底感覚以外にも様々な感覚入力によりH反射は変化します。逆に言えば、H反射を測定することによって感覚入力による脊髄の興奮性への影響を評価することが可能となります。

 

 立位姿勢制御は、主に視覚、前庭覚、体性感覚が影響を与えてます。

ロンベルグ試験から立位姿勢制御のしくみを理解しよう

 

 これらの影響もH反射を評価することで調べることができます。また、脳幹や大脳皮質、小脳も脊髄の興奮性に関与するため、H反射によりその関与を調べることができます。さらに、H反射は座位や立位、歩行でも測定することができるため、下肢の課題特異性を調べることができます。そして加齢の影響も…

 

 このようにH反射を知ることによって、ヒトの姿勢や歩行の多くの特性を理解することができるのです。次回は、H反射の知識をもとに立位姿勢制御における感覚入力の重要性について考察していきましょう。

 

*今回は、H反射の詳しい説明の多くを省いて、シンプルに説明しています。詳しく知りたい方は是非、教科書を参照して下さい。

 

 

姿勢制御のしくみとリハビリテーション

シリーズ①:小脳の障害像と損傷部位の関係を理解しよう

シリーズ②:ロンベルグ試験から立位姿勢制御のしくみを理解しよう

シリーズ③:ヒトの皮質網様体路と姿勢制御 ①

シリーズ④:ヒトの皮質網様体路と姿勢制御 ②

シリーズ⑤:ヒトの大脳皮質と姿勢制御 ①

シリーズ⑥:ヒトの大脳皮質と姿勢制御 ②

シリーズ⑦:ヒトの大脳皮質と予測的姿勢制御 ①

シリーズ⑧:ステップ動作の予測的姿勢制御を理解しよう!

シリーズ⑨:H反射を理解して立位姿勢制御のしくみを知ろう

 

Reference

Hoffmann P. Beitrag zur Kenntnis der menschlichen Reflexe mit besonderer Berucksichtigung der elektrischen Erscheinungen. Arch Anat Physiol 1910;1:223–46. 

Winter DA, et al. Stiffness control of balance in quiet standing. J Neurophysiol. 1998 Sep;80(3):1211-21.

Tokuno CD, et al. Control of the triceps surae during the postural sway of quiet standing. Acta Physiol (Oxf). 2007 Nov;191(3):229-36.

Sayenko DG, et al. Differential effects of plantar cutaneous afferent excitation on soleus stretch and H-reflex. Muscle Nerve. 2009 Jun;39(6):761-9.

ステップ動作の予測的姿勢制御を理解しよう!

 

 生体力学が言う安定した立位とは、身体重心(Center of mass:COM)が足圧中心(Center of pressure:COP)の真上に保たれている状態のことです。手のひらで棒を立ててバランスをとる場面を想像するとわかりやすですね。

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 立位で上肢を挙上させるとCOMを前方へ移動させようとする慣性の力が生じます。COMが前方に移動するとCOPから逸脱してしまうため、体が前に倒れてしまいます。これでは安定して上肢を挙上することができないので、上肢を挙上する前から脊柱起立筋やハムストリングスなどの筋を活動させてCOMの前方移動を防ぐ姿勢制御が働いているのです。この動作に先行する姿勢制御を予測的姿勢制御(anticipatory postural adjustments:APA)と言います。

 

 そして立位での上肢の挙上動作の予測姿勢制御には大脳皮質の補足運動野(SMA)が関与していることが脳波研究により示されています。

ヒトの大脳皮質と予測的姿勢制御 ①

 

 では、立位での下肢のステップ動作ではどのような予測的姿勢制御が働き、それは大脳皮質のどの部位が関与しているのでしょうか?

 今回は、ステップ動作の予測的姿勢制御のしくみを簡単に理解していきましょう。

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 左足を一歩前に出す場面をイメージして下さい。左足を前に出すためには、重心(COM)を右足に乗せることは容易にイメージできると思います。では、その際のCOPの移動の軌跡を見てみましょう。

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 左足を一歩前に出すのに、足圧の中心であるCOPは一度、左足の踵のほうへ移動し、その後に右足に移動していきます。この左足に足圧を移動させることがステップ動作の予測的姿勢制御であり、いわゆる逆応答現象と言われています(Cau N, 2014)。

 

 では、なぜ、支持する右足ではなく、逆の振りだす左足にCOPを移動させる必要があるのでしょうか?

 

 私たちの歩行が適応する基準は「歩きやすさ」です。歩く速度がそれぞれの人によって異なるように、身体の状態に合わせて、もっとも歩きやすい(身体にとって快適な)速度が無意識下に規定されいるのです。

歩き方をデザインする基準

 

 歩行を獲得した400万年前、ヒトは少ない食料(エネルギー)で長距離を移動しなければなりませんでした。生き延び、子孫を残すためにはエネルギーを節約した歩容に適応する必要があり、進化の過程で自然選択されてきたのです。

歩行の起源

 

 このような進化の形はステップ動作にも反映されています。

 

 COP上にCOMが位置する安定した立位から左足を一歩前に出すためには、COMを右足側に移動させ、さらに前方へ移動させていく必要があります。

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 このようなCOMの移動は筋活動により行えますが、もっと省エネする方法はないのでしょうか?

 

 手のひらに乗せた棒をイメージしてみましょう。この棒を前方へ倒すためにはどのようにしたら良いでしょうか?手前に手のひらを引けばいいんですよね。そうすることでCOMがCOPの前方に逸脱するため、棒は勝手に前へ倒れてくれるのです。

 

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  では、今度は棒を横方向へ倒すためにはどうしたら良いでしょうか?これも同じように反対側へ手のひらを動かせばCOMがCOPの側方へ逸脱して勝手に側方へ倒れてくれます。

 

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 もう一度、左足をステップする際のCOMとCOPの移動の軌跡を見てみましょう。

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 安定した立位ではCOP上にCOMが位置しています。左足を一歩、前に出すためにはCOMを前方および右側へ移動させなければなりません。その際、事前にCOPを左足の踵方向へ移動させることによってCOMを前方および右側へ逸脱させることができます。すると手のひらの棒と同じように身体が勝手に前方および右側へ倒れるのです。身体が倒れるとCOMも移動するので無駄な筋活動を使わずに省エネ化したステップが行えるのです。これがステップ動作の予測的姿勢制御のメカニズムなんですね。

 

 ヒトの身体はミリ秒単位でこのような姿勢制御を行うことによって、意識せず、努力せずに歩き出すことができているのです。



◆ すくみ足のメカニズム

 

 ステップ動作の予測的姿勢制御が損なわれると歩き始めの一歩が出づらくなります。その症状の代表がパーキンソン病の「すくみ足(Freezing of gait)」です。

 

 パーキンソン患者のステップ動作のCOPの移動の奇跡を健常者と比べてみましょう。下の図はFernandezらが行ったパーキンソン患者と本態性振戦患者のステップ動作時のCOPの軌跡を健常者と比べたものです。

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Fig.1:Fernandez KM, 2013より引用改変

 

 健常者に比べて特にパーキンソン患者では後方へのCOPの移動が少ないことがわかります。そのため、ステップに必要となるCOMの前方移動が難しくなり、足が出にくくなるのです。これがすくみ足のメカニズムになります。

 

 

 では、このようなステップ動作の予測的姿勢制御に大脳皮質は関与しているのでしょうか?

 次回はステップ動作時の脳波研究の知見をご紹介していきます。そこから予測姿勢制御に対する神経活動の課題特異性が垣間見れます。予測的姿勢制御の課題によって神経活動が異なるという知見は臨床に応用できるかもしれません。

 

 

姿勢制御のしくみとリハビリテーション

シリーズ①:小脳の障害像と損傷部位の関係を理解しよう

シリーズ②:ロンベルグ試験から立位姿勢制御のしくみを理解しよう

シリーズ③:ヒトの皮質網様体路と姿勢制御 ①

シリーズ④:ヒトの皮質網様体路と姿勢制御 ②

シリーズ⑤:ヒトの大脳皮質と姿勢制御 ①

シリーズ⑥:ヒトの大脳皮質と姿勢制御 ②

シリーズ⑦:ヒトの大脳皮質と予測的姿勢制御 ①

シリーズ⑧:ステップ動作の予測的姿勢制御を理解しよう!

 

歩行のしくみとリハビリテーション

歩行のしくみ①:CPGについて考えよう

歩行のしくみ②:歩行適応について考える 

歩行のしくみ③:歩行適応の神経メカニズム

歩行のしくみ④:歩行を早く適応させる2つの方法

歩行のしくみ⑤:歩行を早く適応させる2つの方法・その2

歩行のしくみ⑥:歩行の起源

歩行のしくみ⑦:歩き方をデザインする基準

歩行のしくみ⑧:歩行適応における踵接地の役割 

歩行のしくみ⑨:加齢により歩行の適応能力は変化する?①

歩行のしくみ⑩:加齢により歩行の適応能力は変化する?②

歩行のしくみ⑪:歩行速度で余命を予測しよう

歩行のしくみ⑫:歩行速度で転倒リスクを予測しよう

歩行のしくみ⑬:脳卒中後の歩行速度とQOL

歩行のしくみ⑭:生体力学が教える速く歩くためのポイント 

歩行のしくみ⑮:生体力学が教える速く歩くためのポイント②

歩行のしくみ⑯:脳卒中の発症部位と歩行速度

歩行のしくみ⑰:ヒトの皮質網様体路と歩行制御

歩行のしくみ⑱:ステップ動作の予測的姿勢制御を理解しよう!

 

Reference

Cau N, et al. Center of pressure displacements during gait initiation in individuals with obesity. J Neuroeng Rehabil. 2014 May 7;11:82.

Fernandez KM, et al. Gait initiation impairments in both Essential Tremor and Parkinson's disease. Gait Posture. 2013 Sep;38(4):956-61.


参考資料

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ヒトの大脳皮質と予測的姿勢制御 ①

 

 1985年、アメリカの生理学者であるLibetらは、脳科学の視点から「自由意志」の存在を疑う研究論文”Unconscious cerebral initiative and the role of conscious will in voluntary action”を発表しました(Libet B. 1985)。この論文の内容は「リベットの実験」として多くの書籍に引用されています。

 

 自分の手首を動かそうとするとき、誰でもそれは自分の意志によって実行されたと思います。しかし、リベットの実験では、手首を動かそうと意図する前に脳の活動が始まっていることを示したのです。

 

 Libetらは、被験者に手首を動そうと意図した時間と実際に動かした時間を計測しました。意図から実行までの時間は0.2秒でした。次に、脳波を測定したところ、実際に手首を動かす0.55秒前に脳の活動が記録されたのです。

 

 脳は、手首を動かそうと意図する0.35秒前から活動していることが明らかになったのです。

 

 「私たちが行動しようと意図する前から脳が活動しているとすると、私たちの自由意志とはいったい何のだろうか…」とLibetは述べています。



 今回は、立位姿勢の予測的姿勢制御について近年の脳波研究を紹介しながら、大脳皮質と姿勢制御の関係についてさらに考察していきましょう。

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 私たちは意識せずに安定した立位をとることができますが、立位姿勢制御には視覚、前庭感覚、固有感覚といった多くの感覚入力と抗重力筋の出力により成り立っています。

ロンベルグ試験から立位姿勢制御のしくみを理解しよう

 

 生体力学の視点では、安定した立位とは身体重心(Center of mass:COM)が足圧中心(Center of presure:COP)の真上に位置していることを言います。これはバットを手のひらに乗せてバランスをとることを想像するとわかりやすですよね。

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 バットが倒れそうになったときは手のひらを動かすことによってCOP上にCOMが位置するように制御します。

 

 ヒトの立位姿勢の場合、COMの偏位に対して足関節底屈筋などの抗重力筋がCOMをCOPの真上に引き戻すように働きます。体重計に乗るとただ立っているだけなのにメモリが小刻みに動いているのは姿勢のゆらぎ(COMの小さな偏位)を抗重力筋がたえず制御している結果なのです。

 

 立位で手を挙上するとき、COMを前方へ移動させようとする慣性力が働きます。そのため身体が前に倒れないように挙上運動の前に抗重力筋の筋活動が始まります。この姿勢制御によって安定した立位(COMがCOP上に位置した状態)で手を挙上することができるのです。この動作に先行して行われる姿勢制御を「予測的姿勢制御(anticipatory postural adjustments:APA)」と言います。

 

 私たちが安定して立ちながらスマホを見たり、サッと手を挙げたりできるのはAPAのおかげなんですよね。 



◆ 予測的姿勢制御を司るのは補足運動野

 

 冒頭で紹介したLibetらは、脳波計測により手首を動かそうと意図する0.35秒前から脳が活動していることを発見し、自由意志の存在に異議を突きつけました。

 

 このように脳波は高い時間分解能によってミリ秒単位の計測が可能です。2008年、千葉大学のYoshidaらは脳波を用いて予測的姿勢制御に関与する大脳皮質の領域を明らかにしました。

 

 健常者を対象に、座位、立位で上肢を挙上させた際の三角筋、脊柱起立筋、腹直筋、大腿直筋、大腿二頭筋の筋電図を測定しました。また、脳波により得られる運動関連脳電位の成分である準備電位を計測しました。準備電位とは運動の準備状態を反映する電位のことを言います。

 

 その結果、立位の上肢挙上では、基準となる肩挙上に伴う三角筋の筋活動に先行して0.45〜0.5秒前から大腿二頭筋、脊柱起立筋の筋活動が認められたとともに、補足運動野領域の準備電位の増大が0.5〜0.6秒前に認められたのです。

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Fig.1:Yoshida S, 2008より引用改変。

 

 Yoshidaらは、この結果から補足運動野を中心とした大脳皮質領域がAPAの神経制御に関与していると示唆しています(Yoshida S, 2008)。

 

 旭川医科大学の高草木氏はパーキンソン病などの疾病モデル(Jacobs JV, 2009)から先行性(予測的)姿勢制御は補足運動野が関与するという作業仮説を述べています。補足運動野で生成された姿勢制御のプログラムが皮質網様体脊髄路を介し、随意運動に先行して構えの姿勢などの姿勢調整を実現するとしています(高草木, 2009)。

  

 Yoshidaらの知見は、高草木氏の先行性姿勢制御の作業仮説を裏付けるものになるでしょう。補足運動野では生成した姿勢制御プログラムを随意運動に先行して投射し、予測的姿勢制御を行こなうことによって動作時のCOMの安定を図っているのです。

 

 それでは、下肢のステップ運動時の予測姿勢制御においても補足運動野が関与しているのでしょうか?下肢のステップ運動は、上肢の挙上運動に比べて生体力学的な予測的姿勢制御が異なり、いわゆる「逆応答現象」が生じます。

 

 次回は下肢のスッテプ時の予測的姿勢制御と大脳皮質の脳活動に関する知見を紹介していきましょう。

 

 それにしても、私たちが手を挙げようと思う前に、脳が手を挙げる準備をしているというのは不思議ですね…

 

 

姿勢制御のしくみとリハビリテーション

シリーズ①:小脳の障害像と損傷部位の関係を理解しよう

シリーズ②:ロンベルグ試験から立位姿勢制御のしくみを理解しよう

シリーズ③:ヒトの皮質網様体路と姿勢制御 ①

シリーズ④:ヒトの皮質網様体路と姿勢制御 ②

シリーズ⑤:ヒトの大脳皮質と姿勢制御 ①

シリーズ⑥:ヒトの大脳皮質と姿勢制御 ②

シリーズ⑦:ヒトの大脳皮質と予測的姿勢制御 ①

 

脳のしくみとリハビリテーション

シリーズ①:小脳の障害像と損傷部位の関係を理解しよう

シリーズ②:ロンベルグ試験から立位姿勢制御のしくみを理解しよう

シリーズ③:脳卒中後の回復メカニズムの新たな発見をキャッチアップしよう

シリーズ④:脳卒中の発症部位と歩行速度

シリーズ⑤:ヒトの皮質網様体路と姿勢制御 ①

シリーズ⑥:ヒトの皮質網様体路と姿勢制御 ②

シリーズ⑦:ヒトの皮質網様体路と歩行制御 

シリーズ⑧:ヒトの大脳皮質と姿勢制御 ①

シリーズ⑨:ヒトの大脳皮質と姿勢制御 ②

シリーズ⑩:ヒトの大脳皮質と予測的姿勢制御 ①

 

参考文献

高草木 薫, ニューロリハビリテーションにおけるサイエンス. 脊髄脊椎ジャーナル. 2014.

 

Reference

Libet B. Unconscious cerebral initiative and the role of conscious will in voluntary action.  Behav. Brain Sci. 8, 529–566 (1985).

Jacobs JV, et al. The supplementary motor area contributes to the timing of the anticipatory postural adjustment during step initiation in participants with and without Parkinson's disease. Neuroscience. 2009 Dec 1;164(2):877-85.

Yoshida S, et al. Anticipatory postural adjustments modify the movement-related potentials of upper extremity voluntary movement. Gait Posture. 2008 Jan;27(1):97-102.

 

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ヒトの大脳皮質と姿勢制御 ②

 

 ヒトの立位姿勢は、脊髄、脳幹、小脳、基底核そして大脳皮質を含む階層的な神経システムによって制御されています。近年では、ニューロイメージング研究の発展にともない、大脳皮質でも特に補足運動野が立位バランスに関与していることが明らかになりつつあります。

ヒトの大脳皮質と姿勢制御①

 

 現在では、姿勢制御は錐体路系よりも皮質網様体脊髄路を代表とする錐体外路系の関与が注目されており、旭川医科大学の高草木氏らは脳卒中後の立位姿勢・歩行制御に皮質網様体脊髄路が寄与しているという仮説を提唱しています(高草木, 2014)。

 

 脳卒中後の痙性麻痺患者に見られるWernicke-Mann肢位の発生機序は明らかになっていません。高草木氏はこのWernicke-Mann肢位は錐体路ではなく補足運動野、運動前野などの運動関連領野から投射される皮質網様体脊髄路によって発現するといいます。

 

 姿勢や動作、歩行などの随意運動を開始するときにこの肢位が誘発されることから、随意運動に先行して運動関連領野から皮質網様体脊髄路を通じて姿勢制御が行われ、動作の安定化がもたらされ、その結果がWernicke-Mann肢位として現れていると述べています。

 

 では、脳卒中患者のバランス能力の改善に大脳皮質の補足運動野(SMA)は関与しているのでしょうか?

 

 今回も近年に報告された近赤外線分光法(NIRS)によるニューロイメージング研究をご紹介しながら考察してみましょう。

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 大阪大学大学院のMIharaらのグループは、NIRSを用いて健常者の立位姿勢制御に前頭前野、SMA、後部頭頂葉によるネットワークが関与していることを明らかにし、立位姿勢制御時の足関節戦略にSMAの活性化が寄与していると推測しています(Mihara M, 2008)。

 

 そして近年、同じ手法を用いて、脳卒中患者を対象とした立位姿勢制御のイメージング研究を報告しました。

 

 脳卒中患者20名を対象に立位姿勢時の大脳皮質の血流量の変化をNIRSを用いて測定し、バランス能力を指標としてBerg balance scale(BBS)を評価しました。

 

 その結果、立位姿勢制御では両側の前頭前野、運動前野、SMA、後部頭頂葉の血流量増加が認められました。また、BBSの点数との相関関係を調べると前頭前野、SMAとの間に正の相関が示されたのです。

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Fig.1:Mihara M, 2012より引用改変

 

 この結果からMiharaらは、脳卒中患者の立位姿勢制御においても健常者と同じように前頭前野、運動前野、SMA、後部頭頂葉といった広いネットワークの活性化が必要であり、バランス能力の改善には特に前頭前野とSMAが関与している可能性があると示唆しています(Mihara M, 2012)。 

 

 前頭前野、SMAの活性化が脳卒中患者のBBSのスコアの改善に関与しているというMiharaらの横断的研究に対して、同じグループに所属するFujimotoらは脳卒中患者に1週間のリハビリを行い、その前後における大脳皮質の血流量とBBSによるバランス能力の変化を計測する縦断的研究を報告しています。

 

 その結果、立位姿勢制御時のSMAの血流量はリハビリの前後において両側性に血流量が増加していることがわかりました。

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Fig.2:Fujimoto H, 2014より引用改変

 

 さらにリハビリ前後のBBSの改善度とSMAの血流量の間には高い正の相関関係(r=0.72)が認められたのです。

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Fig.3:Fujimoto H, 2014より引用改変

 

 これらの所見から、FujimotoらはSMAが姿勢バランス制御において重要な役割を示すとともに、SMAが脳卒中後のバランス改善に重要な領域であることを示唆しています(Fujimoto H, 2014)。

 

 

 ヒトの姿勢制御にSMAが関与する知見は、高草木氏が提唱する姿勢制御の作業仮説を支持するものであり、ヒトにおいてもSMAからの皮質網様体脊髄路が姿勢制御の役割を担うメカニズムが明らかになってきているのです。さらに脳卒中後のバランス能力の改善にSMAの活性化がターゲットになることは臨床での介入に大きな示唆を与えてくれるでしょう。

 

 しかし、SMAと随意運動に先行して姿勢を制御するという予測的姿勢制御との関係性は時間分解能の低いNIRSでは計測することができません。予測的姿勢制御(anticipatory postural adjustments:APA)の計測は100ms(0.1秒)単位の時間分解能が必要であり、これは脳波により解析が可能です。

 

 次回は、APAの脳波研究をご紹介しながら、さらにSMAと姿勢制御について考察していきましょう。

 

 

参考文献

高草木 薫, ニューロリハビリテーションにおけるサイエンス. 脊髄脊椎ジャーナル. 2014.

 

Reference

Mihara M, et al. Role of the prefrontal cortex in human balance control. Neuroimage. 2008 Nov 1;43(2):329-36.

Mihara M, et al. Cortical control of postural balance in patients with hemiplegic stroke. Neuroreport. 2012 Mar 28;23(5):314-9.

Fujimoto H, et al. Cortical changes underlying balance recovery in patients with hemiplegic stroke. Neuroimage. 2014 Jan 15;85 Pt 1:547-54.

 

 

姿勢制御のしくみとリハビリテーション

シリーズ①:小脳の障害像と損傷部位の関係を理解しよう

シリーズ②:ロンベルグ試験から立位姿勢制御のしくみを理解しよう

シリーズ③:ヒトの皮質網様体路と姿勢制御 ①

シリーズ④:ヒトの皮質網様体路と姿勢制御 ② 

シリーズ⑤:ヒトの大脳皮質と姿勢制御 ①

シリーズ⑥:ヒトの大脳皮質と姿勢制御 ②

 

脳のしくみとリハビリテーション

シリーズ①:小脳の障害像と損傷部位の関係を理解しよう

シリーズ②:ロンベルグ試験から立位姿勢制御のしくみを理解しよう

シリーズ③:脳卒中後の回復メカニズムの新たな発見をキャッチアップしよう

シリーズ④:脳卒中の発症部位と歩行速度

シリーズ⑤:ヒトの皮質網様体路と姿勢制御 ①

シリーズ⑥:ヒトの皮質網様体路と姿勢制御 ② 

シリーズ⑦:ヒトの皮質網様体路と歩行制御 

シリーズ⑧:ヒトの大脳皮質と姿勢制御 ①

シリーズ⑨:ヒトの大脳皮質と姿勢制御 ②

 

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ヒトの大脳皮質と姿勢制御 ①

 

 効果的に姿勢や歩行障害を改善させるためには、そのしくみを理解しリハビリテーションをデザインすることが大切です。運動学や脳科学といった学問により明らかにされた「しくみ」は科学的に検証された知見であり、しくみにもとづくリハビリテーションは、科学的根拠にもとづくリハビリテーションとも言い換えられるでしょう。

 

 長らく脳卒中患者の姿勢・歩行障害は錐体路徴候に主眼があてられていました。しかし現在では、皮質網様体脊髄路を代表とする錐体外路の役割が注目されています。

 

 旭川医科大学の高草木氏は動物研究にもとづき、姿勢・歩行制御における皮質網様体脊髄路の役割を作業仮説として提唱しています。そして近年ではニューロイメージング(脳機能画像)研究の発展により、ヒトの姿勢・歩行制御に対する皮質網様体脊髄路の役割が明らかになりつつあります。

ヒトの皮質網様体路と姿勢制御①

ヒトの皮質網様体路と姿勢制御②

ヒトの皮質網様体路と歩行制御

 

 さらに臨床においても脳卒中による皮質網様体脊髄路の損傷が歩行能力の低下に寄与することが明らかになっています。

脳卒中の発症部位と歩行速度

 

 このように従来とは異なり、近年では姿勢・歩行に対する皮質網様体脊髄路の関与が強く示唆されているのです。効果的な姿勢・歩行障害のリハビリテーションをデザインするためには、さらに神経系のしくみを理解する必要があるでしょう。

 

 今回は、ヒトの大脳皮質と姿勢制御について近年のニューロイメージング研究をご紹介します。

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 脳活動計測では、EEG(脳波)やMRI(磁気共鳴画像)が代表的ですが、これらの欠点はヒトが動いている間の脳活動を測定できない点です。そのため姿勢や歩行時の運動イメージなどによって代替的な脳活動研究が行われています。

 

 この問題を解決するニューロイメージング機器として登場したのがNIRS(近赤外線分光法)です。

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by prweb

 

 脳活動は神経細胞の電気的な活動により行われます。私たちと同じように神経細胞は酸素を取り込むことによって活動しており、神経細胞が活性化すると、それに応じて脳血流も増加します(神経血管カップリング)。NIRSは神経血管カップリングの原理を利用して、脳血流量の変化を神経細胞の活動の変化として計測します。

 

 NIRSは頭部に計測プローブのついたキャップをかぶるだけで、MRIのように被験者を拘束する必要がありません。そのため立位やトレッドミル上での歩行時の脳活動計測が可能になるのです。

 

 

◆ 立位姿勢制御における補足運動野の関与

 

 大阪大学大学院のMiharaらのグループは、NIRSを用いることで、ヒトの姿勢制御に大脳皮質が関与することを初めて明らかにしました。

 

 健常者にNIRSを装着し、立位姿勢の状態で外乱(床が前後に動く)を与えた際の脳血流量の変化を計測しました。

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Fig.2:Mihara M, 2008, Life and Biomedical Sciencesより引用改変

 

 その結果、外乱による立位姿勢制御には前頭前野、補足運動野(SMA)、後部頭頂葉の脳血流量の増加が示されたのです。

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Fig.3:Mihara M, 2008, Life and Biomedical Sciencesより引用改変

 

 前頭前野の活性化は注意の配分、後部頭頂葉の活性化は身体図式に寄与していると推察しながら、Miharaらは特にSMAの活性化に注目しています。

 

 外乱に対する姿勢バランスは、足関節のスティフネスによって制御(足関節戦略)されることが運動学的に示されています(Winter DA, 1998)。また、MRI研究では足関節の運動の準備にSMAの活性化の関与が示唆されており(Sahyoun C, 2004)、Miharaらはこれらの知見から立位姿勢制御における足関節戦略にSMAの活性化が関与しているのだろうと結論づけています(Mihara M, 2008)。



 高草木氏は、大脳皮質の6野には皮質網様体路の投射が豊富であるという動物実験(Matsuyama, 1997)から、ヒトにおいてもSMAや運動前野から姿勢制御プログラムが網様体へ投射することで姿勢制御を行うという作業仮説を提唱しました。

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Fig.4:高草木 薫, 2009より引用改変

 

 

 この作業仮説に対して、近年の拡散テンソルトラクトグラフィーを用いた画像研究では、ヒトにおいても皮質網様体路がSMAや運動前野に由来していることを示しています。

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ヒトの皮質網様体路と姿勢制御①

 

 そして今回の報告では、初めてヒトにおいても姿勢制御にSMAが関与することが証明されたのです。ヒトの姿勢制御は、SMAの活性化が始点となり、SMAから投射される皮質網様体路を通じて実行されることが示唆されているのです。

 

 では、脳卒中後の姿勢制御の改善に大脳皮質は関与しているのでしょうか?

 

 次回は、脳卒中患者を対象にした姿勢制御のNIRS研究をご紹介しながら、姿勢制御のしくみについてさらに理解を深めていきましょう。

 

 

姿勢制御のしくみとリハビリテーション

シリーズ①:小脳の障害像と損傷部位の関係を理解しよう

シリーズ②:ロンベルグ試験から立位姿勢制御のしくみを理解しよう

シリーズ③:ヒトの皮質網様体路と姿勢制御 ①

シリーズ④:ヒトの皮質網様体路と姿勢制御 ② 

シリーズ⑤:ヒトの大脳皮質と姿勢制御 ①

シリーズ⑥:ヒトの大脳皮質と姿勢制御 ②

 

脳のしくみとリハビリテーション

シリーズ①:小脳の障害像と損傷部位の関係を理解しよう

シリーズ②:ロンベルグ試験から立位姿勢制御のしくみを理解しよう

シリーズ③:脳卒中後の回復メカニズムの新たな発見をキャッチアップしよう

シリーズ④:ヒトの皮質網様体路と姿勢制御 ①

シリーズ⑤:ヒトの皮質網様体路と姿勢制御 ② 

シリーズ⑥:ヒトの皮質網様体路と歩行制御 

シリーズ⑦:ヒトの大脳皮質と姿勢制御 ①

シリーズ⑧:ヒトの大脳皮質と姿勢制御 ②

 

 

参考文献

高草木 薫. 大脳基底核による運動の制御. 臨床神経,49:325―334, 2009

  

Reference

Mihara M, et al. Role of the prefrontal cortex in human balance control. Neuroimage. 2008 Nov 1;43(2):329-36.

Infrared Spectroscopy - Life and Biomedical Sciences, 2012. INTECH

Winter DA, et al. Stiffness control of balance in quiet standing. J Neurophysiol. 1998 Sep;80(3):1211-21.

Sahyoun C, et al. Towards an understanding of gait control: brain activation during the anticipation, preparation and execution of foot movements. Neuroimage. 2004 Feb;21(2):568-75.

Matsuyama K, et al. Organization of the projections from the pericruciate cortex to the pontomedullary brainstem of the cat: a study using the anterograde tracer Phaseolus vulgaris-leucoagglutinin. J Comp Neurol. 1997 Dec 29;389(4):617-41.

 

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ヒトの皮質網様体路と姿勢制御 ②

 

 旭川医科大学の高草木教授は、動物実験や病態モデルの研究報告をもとに「皮質網様体路は姿勢制御に関与する」という仮説を提唱しています。

 

 前回のエントリでは、拡散テンソルトラクトグラフィー(Diffusion tensor tractography:DTT)を用いて、初めてヒトの皮質網様体路の存在とその経路、近位筋への神経支配を示した画像研究ご紹介しました。

 

 ヒトにおいても皮質網様体路は運動前野、補足運動野に起始をもち脳幹網様体につながっていること、皮質網様体路の損傷は近位筋の弱化(muscle weakness)を生じさせることから皮質網様体路は近位筋の制御に関与していることがDDTの画像研究により示唆されているのです。

ヒトの皮質網様体路と姿勢制御①

 

 今回は、ヒトの皮質網様体路が立位姿勢制御にどのように関与しているのか?について近年のDTTの研究報告をご紹介します。

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 高草木氏は、脊髄脊椎ジャーナル「ニューロリハビリテーションにおけるサイエンス」の中で動物実験、病態モデルの知見をもとにした「先行性姿勢制御に関する作業仮説」を提唱しています。

 

 先行性姿勢制御とは、随意運動に先行する姿勢を調整する仕組みであり、これは予期的姿勢制御(Anticipatory postural adjustment:APA)とも呼ばれています。ドアを開ける動作では、予期的姿勢制御に対応する抗重力筋である下腿三頭筋の筋活動が、ドアを開ける手や腕の動作よりも約0.1秒先行します。

 

 高草木氏は、このような先行性姿勢制御のメカニズムについて以下のような作業仮説を述べています。

 

A:姿勢制御プログラムの実行

a)6野では、姿勢制御と随意運動の双方のプログラムが生成される。

b)姿勢制御プログラムは、皮質網様体路を介して脳幹網様体に伝達され、その信号は網様体脊髄路を通じて先行性姿勢制御を実行する。

c)随意運動のプログラムは一次運動野に伝達される。

 

B:随意運動の実行

6野から送られた随意運動のプログラムは、運動指令として4野に起始する外側皮質脊髄路を下行して脊髄に伝達され、目的とする随意動作が実行される。

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 図:高草木薫, 2014より引用

 

 手を伸ばす際、6野からの姿勢制御プログラムが随意運動に先行して姿勢を制御することによって、バランスを保った状態で随意運動を実行できるのです。

 

 皮質網様体路は6野で生成された姿勢制御プログラムを脳幹網様体に伝達する役割を有していることが作業仮説として推測さています(高草木薫, 2014)。

 

 では、ヒトにおいても皮質網様体路は立位姿勢制御に関与しているのでしょうか?

 

 脳挫傷後の主症状として、バランス能力が低下しやすいことが報告されています(Pickett TC, 2007)。嶺南大学のLeeらは、脳挫傷患者の特異的なバランス能力の低下に皮質網様体路が関与していると考え、DTTによる検査を行いました。

 

 DTTにより同定された皮質網様体路を健常者と比べると、断裂や線維のボリュームの減少、部分断裂していることがわかりました。

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Fig.1:Lee HD, 2015より引用改変

 

 また、皮質網様体路が変性している脳挫傷後の患者の多くに、肩や股関節といった近位筋の弱化が認めらました。この結果から、Leeらは脳挫傷後のバランス能力低下に皮質網様体路の変性が関与しており、近位筋の弱化によりバランス能力が低下すると結論付けています(Lee HD, 2015)。

 

 さらに脳挫傷患者の皮質網様体路の変性がバランス能力の低下に関与することもわかっています。

 

 JangらはDTTにより皮質網様体路に変性が認められた脳挫傷患者25名と健常者25名を対象に、バランス能力の計測を行いました。バランス能力の測定は硬い床面と柔らかい床面の2つの環境でおこなわれ、通常の立位、片脚立位、タンデム肢位の3つの肢位により測定されました。

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Fig.2:Jang SH, 2016より引用改変

 

 脳挫傷患者は健常者に比べて、3つの肢位の全てにおいて、硬い床面、柔らかい床面ともにバランス能力の低下を認めました。特に柔らかい床面では顕著な低下を示していました。

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Fig.3:Jang SH, 2016より引用改変。バランス能力はBalance Error Scoring System(BESS)により判定。数値が高いほうがバランス能力が低い。

 

 さらに足底圧の中心(COP)の偏位を調べると、脳挫傷患者は偏位距離、最大距離ともに偏位量が多いことが示されました。

 

 脳挫傷により皮質網様体路が変性している患者では、健常者に比べて立位バランスを維持するのに努力的(COPの変位量が多い)であり、柔らかい床など、環境の変化でバランス能力が低下しやすいことがわかったのです(Jang SH, 2016)。

 

 これらの研究から、皮質網様体路の損傷、変性により、近位筋の弱化とともに立位バランス能力の低下が認められることがわかりました。ヒトにおいても皮質網様体路が立位姿勢制御に関与することが示唆されているのです。 

 

 今までは動物実験や病態モデルから皮質網様体路と姿勢制御の関係を推測することしかできませんでしたが、DTTにより皮質網様体路を同定することによって、ヒトの皮質網様体路が姿勢制御に関わっている知見が集まり始めています。しかし、高草木氏が提唱する皮質網様体路が先行性姿勢制御に関与するという作業仮説の実証には至っていません。この作業仮説をもとに今後もさらなる研究が進められていくでしょう。もちろんこのブログでも新しい知見をピックアップしていきます。

 

 次回は、高草木氏が提唱するもうひとつの作業仮説である「皮質網様体路の歩行制御への関与」について、DTTによる画像研究の知見をご紹介する予定です。

 

 

姿勢制御のしくみとリハビリテーション

シリーズ①:小脳の障害像と損傷部位の関係を理解しよう

シリーズ②:ロンベルグ試験から立位姿勢制御のしくみを理解しよう

シリーズ③:ヒトの皮質網様体路と姿勢制御 ①

シリーズ④:ヒトの皮質網様体路と姿勢制御 ② 

シリーズ⑤:ヒトの大脳皮質と姿勢制御 ①

シリーズ⑥:ヒトの大脳皮質と姿勢制御 ②

 

脳のしくみとリハビリテーション

シリーズ①:小脳の障害像と損傷部位の関係を理解しよう

シリーズ②:ロンベルグ試験から立位姿勢制御のしくみを理解しよう

シリーズ③:脳卒中後の回復メカニズムの新たな発見をキャッチアップしよう

シリーズ④:ヒトの皮質網様体路と姿勢制御 ①

シリーズ⑤:ヒトの皮質網様体路と姿勢制御 ② 

シリーズ⑥:ヒトの皮質網様体路と歩行制御 

シリーズ⑦:ヒトの大脳皮質と姿勢制御 ①

シリーズ⑧:ヒトの大脳皮質と姿勢制御 ②

 

 

参考資料

高草木 薫, ニューロリハビリテーションにおけるサイエンス. 脊髄脊椎ジャーナル. 2014.

 

Reference

Pickett TC, et al. Objectively assessing balance deficits after TBI: Role of computerized posturography. J Rehabil Res Dev. 2007;44(7):983-90.

Lee HD, et al. Injury of the corticoreticular pathway in patients with mild traumatic brain injury: A diffusion tensor tractography study. Brain Inj. 2015 Jul 23:1-4.

Jang SH, et al. Postural Instability in Patients With Injury of Corticoreticular Pathway Following Mild Traumatic Brain Injury. Am J Phys Med Rehabil. 2016 Jan 29.

 

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ヒトの皮質網様体路と姿勢制御 ①

 

「運動前野、補足運動野から脳幹網様体に至る皮質網様体路は、姿勢制御に関与する」

 

 大脳基底核と運動制御の研究で著名な旭川医科大学の高草木教授は、動物研究、病態モデルからこのような仮説を提唱しています。そしてこの仮説は以下の根拠にもとづいています。

 

・ネコを用いた実験では、一側前肢を挙上する際に他の三肢と体幹を用いた姿勢のセットが前肢の挙上に先行する。この姿勢制御には、運動前皮質(6野)の活動が必要となる。

 

・運動前皮質は霊長類の運動前野と補足運動野に対応し、ネコを用いた実験から運動前皮質には皮質網様体路の投射が豊富であることが示されている(Matsuyama, 1997)。

 

・運動前野、捕捉運動野からの皮質網様体路は、基底核からの脱抑制とともに網様体脊髄路を活動させ、上肢などの随意運動に先行して体幹、上下肢のアライメントや筋緊張を調整する姿勢制御を行う。

 

パーキンソン病ジストニアのような基底核疾患の病態モデルからも皮質網様体路が姿勢制御に関与していることが説明できる。

 

 これらの動物実験、病態モデルにより、ヒトにおいても運動前野や捕捉運動野は豊富な皮質網様体路を介して網様体脊髄路を動員し、両上下肢の近位筋の協調的な運動や随意運動に先行する姿勢制御を行うことが推測されているのです(高草木 薫, 2009)。

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 図:高草木 薫, 2009より引用改変

 

 しかしながら、ヒトの皮質網様体路の存在は確認されていません。また、その姿勢制御との因果関係も仮説の域を超えていないのです。これは、動物実験とは異なり、ヒトでは人為的に脳を損傷させることが倫理的に許されないためです。脊髄の歩行中枢であるCPGの存在が仮説の域を超えない理由もここにあります。

 

 このような背景のもと、神経学は動物実験と臨床研究によって相互を補完する翻訳神経科学によって発展してきました。動物実験で得られた仮説を神経生理学的検査や画像診断といった臨床研究によって証明し、また、臨床研究で生じた疑問を動物研究に落としこんで仮説を洗練させていくのです。今年の1月に発表された脳卒中後の新たな回復メカニズムの発表が良い例ですね。

脳卒中後の回復メカニズムの新たな発見をキャッチアップしよう

 

 そして近年、皮質網様体路の研究についても動物研究からヒトの臨床研究に移り変わり始めています。今回は、ヒトの皮質網様体路の存在とその役割を示した近年の画像研究についてご紹介します。



◆ 皮質網様体路は運動前野、補足運動野に由来する

 

 2012年、檀国大学校のYeoらは、拡散テンソルトラクトグラフィー(Diffusion tensor tractography:DTT)を用いて、初めて皮質網様体路を同定しました。

 

 研究結果から、皮質網様体路は運動前野、補足運動野に由来しており、放線冠、皮質脊髄路が通る内包後脚の前方を下降し、中脳被蓋を通り延髄網様体に到達することが示されています。

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Fig.1:Yeo SS, 2012より引用改変。赤が皮質脊髄路で青が皮質網様体路。

 

 この結果より、運動前野、補足運動野には皮質網様体路の投射が豊富であるという動物実験の結果がヒトの画像所見においても初めて認められました。Yeoらは、皮質網様体路は運動関連領野に起始をもち、運動関連領野による運動プログラミングに伴う随伴性の姿勢制御に関わっている可能性があると述べています(Yeo SS, 2012)。

 

 

◆ 皮質網様体路は近位筋を制御する

 

 皮質網様体路は随意運動に先行して近位筋を制御することが動物実験により示さています。ヒトでは、随意運動に先行する近位筋の制御は補足運動野が関与していることが脳波による神経整理学研究で示唆されています(Yoshida S, 2008)。しかし、皮質網様体路が近位筋を制御しているという知見は報告されていませんでした。

 

 2013年、嶺南大学のDoらは皮質網様体路の近位筋への関与を調べるために、近位筋の弱化を認め、皮質脊髄路は損傷を受けていない脳梗塞患者4名を対象に皮質網様体路のDTTを計測しました。その結果、被験者4名全員の皮質網様体路に断裂またはワーラー変性が生じていることが示されたのです。

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Fig.2:Do KH, 2013より引用改変。左放線冠梗塞の症例。皮質脊髄路は損傷されていないが、左の皮質網様体路が断裂されている。

 

 さらに、2013年、YeoらはCRP損傷した脳挫傷患者の近位筋が弱化したというケース報告を発表しました。

 

 症例は62歳の男性、右前頭側頭葉の脳挫傷にて保存療法を行いました。発症後2週で主に右肩、股関節周囲筋の弱化を認めました。

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Fig.3:Yeo SS, 2013より引用。MRCは筋力の指標でMMTとほぼ同義。

 

 DTTの測定では、皮質脊髄路の損傷はなく、皮質網様体路のみが損傷されていました。この所見から、右肩、股関節の近位筋の弱化に皮質網様体路の損傷が寄与していることが示唆されたのです(Yeo SS, 2013)。

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Fig.4:Yeo SS, 2013より引用改変。左の皮質網様体脊髄路が中脳レベルで断裂している。

 

 

 これらのDTTの研究報告から動物実験で示された皮質網様体路は運動前野、補足運動野に由来すること、その役割は近位筋を制御することという仮説がヒトの画像研究においても明らかになりつつあるのです。

 

 では、皮質網様体路の主要な役割である姿勢制御、そして歩行制御に関与するという仮説はヒトの画像研究においても証明できるのでしょうか?次回、最近の報告も合わせてご紹介していきます。

 

 

姿勢制御のしくみとリハビリテーション

シリーズ①:小脳の障害像と損傷部位の関係を理解しよう

シリーズ②:ロンベルグ試験から立位姿勢制御のしくみを理解しよう

シリーズ③:ヒトの皮質網様体路と姿勢制御 ①

シリーズ④:ヒトの皮質網様体路と姿勢制御 ②

シリーズ⑤:ヒトの大脳皮質と姿勢制御 ①

シリーズ⑥:ヒトの大脳皮質と姿勢制御 ②

シリーズ⑦:ヒトの大脳皮質と予測的姿勢制御 ①

シリーズ⑧:ステップ動作の予測的姿勢制御を理解しよう!

シリーズ⑨:H反射を理解して立位姿勢制御のしくみを知ろう

 

脳のしくみとリハビリテーション

シリーズ①:小脳の障害像と損傷部位の関係を理解しよう

シリーズ②:ロンベルグ試験から立位姿勢制御のしくみを理解しよう

シリーズ③:脳卒中後の回復メカニズムの新たな発見をキャッチアップしよう

シリーズ④:ヒトの皮質網様体路と姿勢制御 ①

シリーズ⑤:ヒトの皮質網様体路と姿勢制御 ② 

シリーズ⑥:ヒトの皮質網様体路と歩行制御 

シリーズ⑦:ヒトの大脳皮質と姿勢制御 ①

シリーズ⑧:ヒトの大脳皮質と姿勢制御 ②

 

 

参考資料

高草木 薫. 大脳基底核による運動の制御. 臨床神経,49:325―334, 2009


Reference

Jang SH, et al. Functional role of the corticoreticular pathway in chronic stroke patients. Stroke. 2013 Apr;44(4):1099-104.

Yoshida S, et al. Anticipatory postural adjustments modify the movement-related potentials of upper extremity voluntary movement. Gait Posture. 2008

Do KH, et al. Injury of the corticoreticular pathway in patients with proximal weakness following cerebral infarct: diffusion tensor tractography study. Neurosci Lett. 2013 Jun 24;546:21-5.

Yeo SS, et al. Proximal weakness due to injury of the corticoreticular pathway in a patient with traumatic brain injury. NeuroRehabilitation. 2013;32(3):665-9.

 

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ロンベルグ試験から立位姿勢制御のしくみを理解しよう

 

 立位姿勢は、視覚、前庭感覚、固有感覚の3つの感覚により制御されている。

・視覚は、直立姿勢をジャッジするための動きと手がかりを与えてくれる。

・前庭感覚は、頭部の動きと重力に関する頭位についての情報を与えてくれる。

・固有感覚は、荷重情報、身体部位の相対的な位置情報を与えてくれる。 

 

 これらの3つの感覚機能が相互に補完し合うことによって、私たちは暗闇の中でも(視覚がなくても)、滑りやすい床面でも(固有感覚がなくても)安定して立位姿勢を保つことができるのである。

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 そして、これらの3つの感覚を統合するのが小脳である。特に脊髄小脳系の小脳虫部・傍部には視覚、前庭、固有感覚の入力があり、出力として体幹や近位筋の協調性のコントロールを行っている。そのため、小脳虫部・傍部の損傷では小脳性失調により立位姿勢が不安定になる。

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 これらのメカニズムをもとにロンベルグ試験を考えてみよう。ロンベルグ試験は2つの段階にて評価をする。

 

第1段階

 被験者は手を体の側面に添え、開眼して足をそろえて立つ。

第2段階

 被験者が目を閉じ、そのまま実施者は一分間観察する。

 

 ロンベルグ試験はこの2段階の条件で倒れないか、倒れるかで評価を行う。ロンベルグ徴候が陽性というのは以下の2つの要件を満たす場合に判断する。

①被験者は開眼していれば倒れない。

②被験者は閉眼すると倒れる。

 閉眼するというのは視覚による固有感覚の代償をなくすことを意味する。そのため、陽性というのは下肢の固有感覚障害を示す。ロンベルグ試験とは、小脳機能を見るのではなく、固有感覚障害を判断するための試験なのである。

 

 しかし、実は、ロンベルグ試験はその評価様式から立位姿勢制御を担う感覚機能と小脳機能を評価することができる。そこでロンベルグ試験を立位姿勢制御のメカニズムから考察するために簡単なマトリクスを作成してみた。

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  問題なしを青問題ありを赤にて分類している。

  まずは、ロンベルグ試験の第1段階である開眼立位を見てみよう。開眼して倒れなければ問題ないというのは理解しやすい。しかし、開眼立位で倒れないというのは、固有感覚の問題を視覚で代償している可能性がある。そのため、開眼立位で倒れなくても問題がないとは断言できない。

  次に、開眼していても倒れてしまう場合は、感覚入力の統合する部位である小脳機能に問題があることがわかる。特に脊髄小脳系で感覚入力が行われる小脳虫部、傍部の損傷による体幹および下肢の小脳性失調が疑われる。また、前庭小脳系の損傷でも開眼立位で倒れてしまう。この場合は迷路性失調が疑われる。小脳性失調と迷路性失調の鑑別は、小脳性失調が多方向にふらつくのに対して、迷路性失調は一方向にふらつくことから判別が可能である。

  つまり、第1段階において、開眼立位で倒れてしまえば小脳・前庭機能の問題が疑われ、倒れなければ小脳・前庭機能は問題ないが固有感覚障害の有無についてはわからないという判断ができる。

 

 第2段階の評価では、閉眼させることで視覚による代償を防ぐ。閉眼立位で倒れなければもちろん正常であり、固有感覚障害を否定できる。また、視覚、固有感覚、前庭の3つの感覚機能、これらの感覚を統合する小脳機能の問題もないことが確定する。

  しかし、ここで倒れる場合は、固有感覚障害が疑われ、本来のロンベルグ徴候が陽性と判断される。

 

 このように、ロンベルグ試験は立位姿勢制御のメカニズムを知っていることで、簡易的に立位姿勢制御における感覚系およひ小脳機能の評価を行うことが可能なのである。

 

 

姿勢制御のしくみとリハビリテーション

シリーズ①:小脳の障害像と損傷部位の関係を理解しよう

シリーズ②:ロンベルグ試験から立位姿勢制御のしくみを理解しよう

シリーズ③:ヒトの皮質網様体路と姿勢制御 ①

シリーズ④:ヒトの皮質網様体路と姿勢制御 ② 

シリーズ⑤:ヒトの大脳皮質と姿勢制御 ①

シリーズ⑥:ヒトの大脳皮質と姿勢制御 ②

 

脳のしくみとリハビリテーション

シリーズ①:小脳の障害像と損傷部位の関係を理解しよう

シリーズ②:ロンベルグ試験から立位姿勢制御のしくみを理解しよう

シリーズ③:脳卒中後の回復メカニズムの新たな発見をキャッチアップしよう

シリーズ④:ヒトの皮質網様体路と姿勢制御 ①

シリーズ⑤:ヒトの皮質網様体路と姿勢制御 ② 

シリーズ⑥:ヒトの皮質網様体路と歩行制御 

シリーズ⑦:ヒトの大脳皮質と姿勢制御 ①

シリーズ⑧:ヒトの大脳皮質と姿勢制御 ②

 

 

 本エントリは、Neuroscience: Fundamentals for Rehabilitation, 4eを参照して作成しています。Nueroscienceは洋書ですが、豊富なイラストと平易な英語で記載されており、日本語の教科書にはないリハビリテーションの視点で書かれた神経学の教科書になります。この本を通読すれば、中枢神経系の英語論文も読めるようになるでしょう。基礎を固めるのには最適な教科書です。

Kindle版 

Neuroscience: Fundamentals for Rehabilitation

Neuroscience: Fundamentals for Rehabilitation

 

ペーパーバック 

Neuroscience: Fundamentals for Rehabilitation, 4e

Neuroscience: Fundamentals for Rehabilitation, 4e

 

 

 

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小脳の障害像と損傷部位の関係を理解しよう

 

 今回は小脳疾患の障害像と損傷部位の関係について勉強しましょう。

 

 それでは、高い棚にある本を取ろうとする場面を思い浮かべてみて下さい。

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 ここで本をとる際の身体の運動を順を追って見てみましょう。

①リーチ動作に先行して下肢や背筋の筋が収縮する(予測的姿勢制御)

②本に向かって上肢をリーチする

③本を落とさないように把持する

 このように本をとる動作は、主に3つの運動機能に分けることができます。これらの運動機能を大きな枠組みで捉えると以下のようになります。

①予測的姿勢制御→平衡機能

②上肢のリーチ→四肢の粗大運動

③本の把持→末梢の巧緻運動

 そして、この3つの運動機能の役割をそれぞれ小脳の部位が担っているのです。

 

 小脳は主に前庭系、脊髄、大脳皮質とつながる3つの領域に分けることができます。また、それぞれの領域はカッコ内の小脳の部位に相当します。

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①前庭小脳系(小脳片葉)

②脊髄小脳系(小脳虫部・傍部)

③大脳小脳系(小脳半球)

  この3つの領域の機能的役割を理解するのに先ほどの3つの運動機能がそのまま当てはまるのです。

つまり…

①予測的姿勢制御→平衡機能→前庭小脳系(小脳片葉)

②上肢のリーチ→四肢の粗大運動→脊髄小脳系(小脳虫部・傍部)

③本の把持→末梢の巧緻運動→大脳小脳系(小脳半球)

 

 これで小脳の3つの領域の機能的役割が概ね理解できると思います。もう少し詳細に述べると、前庭小脳系は前庭器からの入力を受け、目の運動やバランス、平衡機能に関与します。脊髄小脳系は体性感覚や視覚、聴覚からの入力を受け、四肢の近位筋の協調性をコントロールします。大脳小脳系は大脳皮質からの入力を受け、四肢の末梢筋の協調性をコントロールします。

 

 そのため、前庭小脳系がある小脳片葉の損傷では、眼振や平衡機能障害が生じ、座位や立位保持が困難になります。いわゆる前庭性失調ですね。脊髄小脳系がある虫部、虫部傍部の損傷では、体幹失調や四肢近位筋の失調が生じます。そのため、測定障害や反復運動障害、運動時振戦、失調性歩行が認められます。大脳小脳系がある小脳半球の損傷では、手指の巧緻運動障害や構音障害を認めます。

 

 このように小脳の3つの領域とその機能的役割を知っていると画像からも障害像がイメージできますし、障害像からも小脳の損傷部位を推察することができるんですね。

 

 例えば、先ほどの本を取るシーンで考えてみましょう。

①本に手を伸ばそうとしても姿勢を保持できずに倒れてしまう(前庭小脳系の問題)

②本に手を伸ばそうとリーチしてもブレてしまう(脊髄小脳系の問題)

③本にリーチできても上手く把持できない(大脳小脳系の問題)

 

 という感じになります。ぜひとも臨床で活用してみてください。

 

 

姿勢制御のしくみとリハビリテーション

シリーズ①:小脳の障害像と損傷部位の関係を理解しよう

シリーズ②:ロンベルグ試験から立位姿勢制御のしくみを理解しよう

シリーズ③:ヒトの皮質網様体路と姿勢制御 ①

シリーズ④:ヒトの皮質網様体路と姿勢制御 ② 

シリーズ⑤:ヒトの大脳皮質と姿勢制御 ①

シリーズ⑥:ヒトの大脳皮質と姿勢制御 ②

 

脳のしくみとリハビリテーション

シリーズ①:小脳の障害像と損傷部位の関係を理解しよう

シリーズ②:ロンベルグ試験から立位姿勢制御のしくみを理解しよう

シリーズ③:脳卒中後の回復メカニズムの新たな発見をキャッチアップしよう

シリーズ④:ヒトの皮質網様体路と姿勢制御 ①

シリーズ⑤:ヒトの皮質網様体路と姿勢制御 ② 

シリーズ⑥:ヒトの皮質網様体路と歩行制御 

シリーズ⑦:ヒトの大脳皮質と姿勢制御 ①

シリーズ⑧:ヒトの大脳皮質と姿勢制御 ②

 

 

 本エントリは、Neuroscience: Fundamentals for Rehabilitation, 4eを参照して作成しています。Nueroscienceは洋書ですが、豊富なイラストと平易な英語で記載されており、日本語の教科書にはないリハビリテーションの視点で書かれた神経学の教科書になります。この本を通読すれば、中枢神経系の英語論文も読めるようになるでしょう。基礎を固めるのには最適な教科書です。

Kindle版 

Neuroscience: Fundamentals for Rehabilitation

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ペーパーバック 

Neuroscience: Fundamentals for Rehabilitation, 4e

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