リハビリmemo

大学病院勤務・大学院リハビリテーション学所属の理学療法士による「研究と臨床をつなげるための記録」

レントゲンでもわからない初期の変形性膝関節症を示す「ある痛み」とは?

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 早期治療には「早期発見」が大切です。

 

 誰でも膝が痛いときは病院へ行かれると思います。病院では、変形性膝関節症が疑われる場合、まずレントゲンが撮られます。レントゲン所見で得られる膝関節の構造的な変化(骨の硬化像や骨棘)が診断に有用とされているからです(Guermazi A, 2012)。

 

 しかし、初期の変形性膝関節症では、関節の構造的な変化がまだ少なく、レントゲン所見の診断に疑問の声が上がっています。

 

 慢性的な痛みはあるが、レントゲン所見から変形性膝関節症ではないと診断された患者143名の12年後の変形性膝関節症の発症率は、50%〜86%であるということが報告されています(Thorstensson CA, 2009)。

 

 また、初期の変形性膝関節症のレントゲン所見による5年後の増悪の予測率は低く、骨棘がある場合でもオッズ比は1.5程度と報告されています(Kinds MB, 2012)。

 

 そのため、レントゲン所見は、補助的診断として認識すべきであると言われています。

 

 では、レントゲン所見以外の評価で初期の変形性膝関節症を診断することができるのでしょうか?

 

 この問いに対して、イギリス・リーズ大学のHensorらは雑誌Arthritis Care & Researchで興味深い報告をしています。そこでHensorらはこう答えています。

 

 変形性膝関節症の早期発見には「ある痛み」の評価が重要であると。

 

 

◆ 初期の変形性膝関節症を示す「ある痛み」とは?

 

 Hensorらは、初期の変形性膝関節症の「ある特異的の痛み」が診断に有用であると仮設をたて、大規模で長期間の検証を行いました。

www.ncbi.nlm.nih.gov

 

 対象は、健常者、初期の変形性膝関節症患者4.673名です。

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Fig.1:Hensor EM, 2015より引用(ベースライン)

 

 アウトカムはWOMACのスコアにもとづき、5つの動作(歩行、階段昇降、立位、座位、臥位)時の疼痛を評価しました。疼痛スコアは毎年、評価され、評価期間は7年にも及びました。

 

 これらのデータをラッシュモデルで解析した結果、初期の変形性膝関節症の増悪に関与する動作時の痛みは、階段昇降(-4.74logits)、歩行(-2.94logits)、立位(-2.65logits)、座位(-2.0logits)、臥位(-1.32logits)の順で高いことがわりました。

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Fig.2:Hensor EM, 2015より引用

 

 この結果から、Hensorらは初期の変形性膝関節症の診断に「階段昇降時の痛み」の有無を聴取することが有効であると述べています。

 

 変形性膝関節症は、膝関節に生じる負荷であるメカニカルストレスにより発症・増悪します。

変形性膝関節症のリハビリの新しい考え方

 

 膝関節に生じるメカニカルストレスは坂道や階段昇降などの膝を曲げて、体重をかける動作でもっとも高まることがわかっています。

生体力学が教える変形性膝関節症で注意すべき日常生活動作

変形性膝関節症で注意すべき日常生活動作とその理由

 

 Hensorらは、このような背景から、階段昇降の痛みが初期の変形性膝関節症の有無を特定する「特異的な痛み」であると結論づけました。

 

 また、初期の変形性膝関節症の評価でWOMACを用いる場合、特に階段昇降に関する項目に注意するべきであると言います。レントゲン所見で関節変形が特定されていなくても、WOMACの階段昇降に関する所見で点数が高い場合は、保存療法としてのリハビリテーションやセルフマネージメントの教育を行うことが早期治療につながるとのことです。

 

 WOMACの評価表(翻訳版)を貼り付けておきます。特に階段昇降に関する評価項目に注意して、臨床時の問診や患者さん自身が自己評価で使用してもいいかもしれませんね。

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変形性膝関節症の保存療法

保存療法①:変形性膝関節症を予防する基本戦略

保存療法②:変形性膝関節症の予防① 股関節外転筋トレーニングの有効性について 

保存療法③:変形性膝関節症の予防② 膝OAで股関節外転筋力が低下する理由 

保存療法④:変形性膝関節症の予防③ 股関節外転勤トレーニングをしよう 

保存療法⑤:変形性膝関節症の予防④ 膝の屈曲拘縮を予防しよう!

保存療法⑥:変形性膝関節症に良い靴選び

保存療法⑦:変形性膝関節症に良い靴選び②

保存療法⑧:変形性膝関節症に良い靴選び③

保存療法⑨:変形性膝関節症に良い靴選び④

保存療法⑩:変形性膝関節症の予防⑤ 生体力学が教える注意すべき日常生活動作 

保存療法⑪:変形性膝関節症の予防⑥ 注意すべき日常生活動作とその理由

保存療法⑫:変形性膝関節症は体重を減らせばOK!という簡単な話ではありません

保存療法⑬:変形性膝関節症の術後の痛みが転倒リスクになる

保存療法⑭:レントゲンでもわからない初期の変形性膝関節症を示す「ある痛み」とは?

 

References

Guermazi A, et al. Prevalence of abnormalities in knees detected by MRI in adults without knee osteoarthritis: population based observational study (Framingham Osteoarthritis Study). BMJ. 2012 Aug 29;345:e5339.

Thorstensson CA, et al. Natural course of knee osteoarthritis in middle-aged subjects with knee pain: 12-year follow-up using clinical and radiographic criteria. Ann Rheum Dis. 2009 Dec;68(12):1890-3.

Kinds MB, et al. Evaluation of separate quantitative radiographic features adds to the prediction of incident radiographic osteoarthritis in individuals with recent onset of knee pain: 5-year follow-up in the CHECK cohort. Osteoarthritis Cartilage. 2012 Jun;20(6):548-56.

Hensor EM, et al. Toward a clinical definition of early osteoarthritis: onset of patient-reported knee pain begins on stairs. Data from the osteoarthritis initiative. Arthritis Care Res (Hoboken). 2015 Jan;67(1):40-7.