歩行適応(locomotor adaptation)の神経メカニズムは、「feedback control」と「feedforward adaptation」に分けることができる。
feedback controlとfeedforward adaptationをリハビリの歩き方の練習で例えると、、
feedback controlは、セラピストに「踵から着くように意識して」という指導のもと、何回か繰り返す中で、できるようになることである。しかし、次のリハビリのときには戻っている特徴がある。つまり、即時的な歩行適応のことを言う。
feedforward adaptationは、次のリハビリのときにも意識することなく踵からつけている状態であり、継続的な歩行適応のことを言う。
歩行のリハビリの目的は、feedforward adaptaionの獲得になるだろう。
近年、split-belt treadmillという左右のベルトが異なる早さで動くトレッドミルを用いて、歩行適応の神経メカニズムを調査する研究が行われている。
MortonとBastianらは、小脳損傷患者に対して、このsplit-treadmillを用い、feedback controlとfeedforward adaptationへの影響について調査した。その結果、feedback controlは保たれるが、feedforward adaptationは損なわれること明らかになった(Morton and Bastian, 2006)。
つまり、小脳はfeedforward adaptationの重要な役割を担っていることが示唆された。
今回、紹介する報告は、feedforward adaptationに対する大脳皮質の影響について調査したものである。
reference)
Walking flexibility after hemispherectomy: split-belt treadmill adaptation and feedback control.
Brain, 2009
対象は、難治性のてんかん発作に対して半球切除術(大脳皮質を含む)を施行された子供10名。
被験者は、split-belt treadmillを使用し、①左右のスピードが異なる環境で10分間、歩行する。その後、②左右のスピードを同じ早さにした環境で5分間、歩行する。
①では、徐々に異なる左右のベルトのスピードに歩行適応する(feedback control)。
②では、最初は①の歩容が残存する(後効果:feedforward adaptation)が、その後、徐々に元の歩容に戻る。
①、②の条件で、時間的・空間的パラメーターを測定した。
時間的パラメーターは、立脚期時間、二重支持時間。
空間的パラメーターは、歩幅、重複歩距離。
その結果、全ての被験者において、①の適応が認められ、さらに②の後効果も認められた。つまり、feedback controlもfeedforward adaptationの機能も維持されていた。しかし、数人は、時間的パラメーターの後効果の減少が認められた。
とのこと。
小脳は、歩行におけるfeedback controlに関与せず、feedforward adaptationに関与することは以前から明らかになっている。
今回の結果から、大脳皮質はfeedback contorl、feedforward adaptationの双方に関与しないことが示唆された。
つまり、
feedback controlは、小脳、大脳皮質が関与せず、脊髄レベルで統合されている可能性がある。
feedforward adaptationは、小脳が重要であるが、タイミングのような時間的パラメーターにおいては大脳皮質も関与している可能性がある。
このように考えると、皮質・皮質下の脳卒中患者は、ある程度の随意運動が行えれば継続的な歩行適応は可能なのかもしれない。また、小脳の脳卒中患者は、即時的な適応は可能でも、継続的な歩行適応は難しいことが理解できる。
歩行適応の神経生理学的研究は、まだまだこれからの領域である。
効率的な歩行適応についての知見は、中枢神経、整形疾患関係なく、歩行障害の患者さんにとって有益なものになるだろう。
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