リハビリmemo

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脳卒中の超早期リハビリテーション論争 まとめ①


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  今回から、脳卒中の超早期リハビリテーションの30年に及ぶ議論について紹介するとともに、近年、新たな展開を迎えた超早期リハビリテーションの最新の知見までをシリーズで紹介していきたい。まずは超早期リハビリの30年史を見ていこう。

  

 1980年代半ば、スウェーデンで行われた脳卒中カンファレンスで初めてソレは議論された。

 

 ある臨床医は「早期リハビリは脳卒中の改善に有効だ」と言い、ある臨床医は「いやいや早期リハビリは脳卒中を改善させるどころか、悪化させるリスクがある」と。

 

 ここから30年を超える「脳卒中の超早期リハビリテーション論争」が始まるのである。

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 1990年代になると、脳卒中に対する超早期リハビリテーションの介入報告が見られるようになる。1991年、Indredavikらは雑誌Strokeに超早期リハビリが行われる脳卒中ユニットに入院中の患者は、一般病棟に入院している患者に比べて自宅復帰率、在院日数、死亡率が有意に減少し、52週後のBarthel indexや神経学的所見の有意な改善を示すことを初めて報告した(Indredavik B, 1991)。

 

 さらに1999年のIndredavikらの追試、2003年のDi Lauro、2005年のZhangらの検証においても脳卒中の超早期リハビリテの有効性が支持されたのである。この時期から各国の脳卒中ガイドラインにおいても超早期リハビリの有効性が登場するようになる(Australia National Stroke Foundation, 2003)。

 

 しかしながら、その安全性や実行可能性についての検証には疑問が残っており、超早期リハビリの実施については異論が生じていた(Diserens K, 2006)。

 

 現在までに報告された脳卒中に対する超早期リハビリの代表的なRCTは主に4つある。有名なのはオーストリアで行われているAVERT(A very early rehabilitation trail)だろう。AVERTは脳卒中発症後24時間以内にリハビリテーションを行う超早期リハビリの介入効果の検証報告を続けている。

 

 2008年に報告されたAVERTⅡでは「24時間以内の超早期リハビリテーションは本当に安全に実施できるの?」という疑問に対してその安全性と実行可能性を調査した。

 

 メルボルン大学のBernhardtらは、超早期リハビリの安全性のアウトカムを「発症3ヶ月後の死亡数」、実行可能性を「離床できた量」として超早期リハビリ群と標準リハビリ群で比較した。その結果、死亡数に有意な差はなく、離床の量においても標準リハビリの2倍という目標を達成できた。さらに機能改善(mRS)においても超早期リハビリが有効である傾向が示された。

 

 この結果から、Bernhardtらは24時間以内の超早期リハビリは安全を担保して、十分な量のリハビリを行える介入方法であり、機能改善への有効性も期待できると結論づけている(Bernhardt J, 2008)。

 

 AVERTⅡの報告によって、超早期リハビリの安全性、実行可能性の疑義は棄却され、超早期リハビリの議論における推奨派の優位性が高まっていく。

 

 この流れは我が国にも影響を与える。脳卒中学会は2009年の脳卒中ガイドラインにおいて超早期リハビリを推奨する項目を記した。そこには「できるだけ発症後早期から積極的なリハビリテーションを行うことが強く勧められる(グレードA)」とされている。

 

 AVERTの他の研究では、超早期リハビリは入院コストを軽減させること(Tay-Teo K, 2008)、Barthel indexなどの日常生活のみならず自立歩行の獲得にも寄与すること(Cumming TB, 2011)などが報告されており、超早期リハビリの推奨に拍車をかけた。

 

 AVERT以外の超早期リハビリのRCTにはVERITAS、Lausanne trial、AKEMISがある。

 

 グラスゴー大学のLanghorneらはVERITAS(very early rehabilitation or intensive telemetry after stroke)というパイロットRCTを報告し、32名の脳卒中対象者において超早期リハビリは不動関連合併症(脳卒中に特異的な廃用症候群)を減少する結果が得られたとしている(Langhorne P, 2010)。

 

 ローザンヌ大学のDiserensらは、RCTのパイロットトライアル(Lausanne trial)として、52名の脳卒中患者に対する超早期リハビリが重度の合併症の予防に寄与し、超早期リハビリによる神経学的所見、循環動態の増悪はなかったとしている(Diserens K, 2012)。

 

 しかし一方で、グラスゴー大学のCraigらは、脳卒中患者56名を対象にした超早期リハビリのメタアナライシス(AKEMIS)において、発症後24時間以内にリハビリを行う超早期リハビリは24時間〜48時間に行う早期リハビリに比べて3ヶ月後の機能改善(mRS)が不良であると報告した(Craig LE, 2010)。

 

 VERITAS、Lausanne tarialによって超早期リハビリの有効性におけるパイロットスタディ(大規模RCTの準備研究)が報告され、超早期リハビリの有効性が期待された一方、効果の不確実性が払拭できず、さらに侃々諤々の議論がなされた。この議論に決着をつけるためにも超早期リハビリの大規模RCTが待たれたのであった。


 そして2015年、雑誌The Lancetに掲載された脳卒中の超早期リハビリの有効性に関する大規模RCT(AVERTⅢ)の結果に大きな衝撃が走ったのである。

 

 次回、「脳卒中の超早期リハビリテーション論争 まとめ②」に続く 

 

 

脳卒中の超早期リハビリテーション論争

脳卒中の超早期リハビリテーション論争 まとめ①

脳卒中の超早期リハビリテーション論争 まとめ②

脳卒中の超早期リハビリテーション論争 AVERTⅢの全容と批判

脳卒中の超早期リハビリテーション論争 そして新たな展開へ

 

Reference

Indredavik B, et al. Benefit of a stroke unit: a randomized controlled trial. Stroke. 1991 Aug;22(8):1026-31.

Indredavik B, et al. Treatment in a combined acute and rehabilitation stroke unit: which aspects are most important? Stroke. 1999 May;30(5):917-23.

Di Lauro A, et al. A randomized trial on the efficacy of intensive rehabilitation in the acute phase of ischemic stroke. J Neurol. 2003 Oct;250(10):1206-8.

Zhang D, Zhu S, Cui G, Liu S, Li Y. Difference between early and late rehabilitative intervention in ameliorating the motor function and activities of daily living in patients with cerebral infarction. Chin J Clin Rehabil. 2005;9:149 –151.

The working group of the National Stroke Foundation. National Clinical Guidelines for Acute Stroke Management. Melbourne, Australia: National Stroke Foundation; 2003.

Diserens K, et al. Early mobilisation after stroke: Review of the literature. Cerebrovasc Dis. 2006;22(2-3):183-90.

Bernhardt J, et al. A very early rehabilitation trial for stroke (AVERT): phase II safety and feasibility. Stroke. 2008 Feb;39(2):390-6.

Tay-Teo K, et al. Economic evaluation alongside a phase II, multi-centre, randomised controlled trial of very early rehabilitation after stroke (AVERT). Cerebrovasc Dis. 2008;26(5):475-81.

Cumming TB, et al. Very early mobilization after stroke fast-tracks return to walking: further results from the phase II AVERT randomized controlled trial. Stroke. 2011 Jan;42(1):153-8.

Langhorne P, et al. Very early rehabilitation or intensive telemetry after stroke: a pilot randomised trial. Cerebrovasc Dis. 2010;29(4):352-60.

Diserens K, et al. Early mobilization out of bed after ischaemic stroke reduces severe complications but not cerebral blood flow: a randomized controlled pilot trial. Clin Rehabil. 2012 May;26(5):451-9.

Craig LE, et al. Early mobilization after stroke: an example of an individual patient data meta-analysis of a complex intervention. Stroke. 2010 Nov;41(11):2632-6.