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ねこ背になると肩が上がらなくなる?


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 新緑も深まり、春の到来を感じます。ほのぼのした陽気のもとで、バンザイをして背筋を伸ばしながら「うーーん!」と伸びをしたい気分ですね。

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 今回は、ねこ背と肩の関係について考察してみます。ねこ背になると肩が痛くなったり、肩を上げることができなくなったりするのでしょうか?

 

 2014年、Imagamaらは、ねこ背と肩関節の関係について興味深い報告をしています。日本の健康な高齢者317名を対象に、ねこ背の状態と肩関節の状態との関係性について調査しました。

 調査項目は、主に下記の3項目です。

・ねこ背の状態(胸椎の後弯角度、腰椎の前弯角度、胸腰椎の柔軟性、脊椎全体での傾き)

・肩関節の状態(挙上・外転の角度、運動時・安静時の痛み)

・その他(握力、背筋力、10m歩行速度)

 その結果、加齢とともにねこ背は強くなり、肩は上がらなくなる傾向がみられました(Fig.1)。

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(Fig.1:Shiro Imagama. 2014より改変)

 また、肩が上がらなくなる原因について、ねこ背との関係性を統計的に解析すると、胸椎の後弯角度、脊椎の傾き、背筋力の3つが関与することがわかりました(Fig.2)。

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(Fig.2:Shiro Imagama. 2014より改変

 ねこ背は胸椎の後弯角度が増加することで悪化していきます。それに伴い、脊椎の前方への傾きも大きくなります。また、ねこ背の原因の1つに背筋力が挙げられています(なぜ、ねこ背になるのか?)。これらのことから、ねこ背になると肩が上がらなくなることが本研究によって示されたのです。

 

 それでは、なぜ、ねこ背になると肩が上がらなくなるのでしょうか?

 

 肩をしっかり上げるためのメカニズムを確認していきましょう。肩を上げるには、肩関節と肩甲骨の協調的な動きが必要になります。ねこ背の場合、特に肩甲骨の動きが大きな問題になってくるのです。

 

 肩甲骨は、肩を上げる際、いくつかの方向に動いてくれます(Fig.3)。

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(Fig.3:Ludewig PM, 2009より改変)

 このように肩甲骨が動くのは、上腕骨の邪魔をせず、スムーズに肩を上げるためです。試しに、肩甲骨をしっかり押さえて肩を上げると、上がりずらいことが実感できます。 

 それでは、肩を上げる際の肩甲骨の動きについてMatsukiらの報告みてみましょう。Matsukiらは肩甲骨の動きを3D analysisという手法を用いて計測しました。その結果は以下のようになります。

  まず、上・下の回旋についてですが、肩を上げる角度の増加とともに、肩甲骨は上方回旋します(Fig.4)。

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(Fig.4:Keisuke Matsuki, 2011より改変 )

 次に、前・後の傾きですが、肩の角度の増加とともに、肩甲骨は後傾します(Fig.5)。

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(Fig.5:Keisuke Matsuki, 2011より改変 

 さらに、内・外の回旋ですが、肩の角度の増加とともに、肩甲骨は外旋します(Fig.6)。

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(Fig.6:Keisuke Matsuki, 2011より改変 

 以上から、肩をスムーズに、しっかりと上げるためには、肩甲骨の上方回旋、後傾、外旋の動きが大切なのです。

 

 では、ねこ背では、この肩甲骨の動きはどのように変化してしまうのでしょうか?

 Margaretらは、背筋を伸ばしている姿勢と前かがみの姿勢で肩を上げる際の肩甲骨の動きを調査しました。その結果、前かがみの姿勢では、肩甲骨の後傾、外旋の動きが減少することを示しました。ねこ背になると肩が上がらななくなる理由は、肩甲骨の動きの減少であることが明らかになったのです。しかしながら、なぜ、ねこ背になると肩甲骨の動きが減少するのか?その理由については明らかになっていません。

 

 肩甲骨の動きが制限されると、上腕骨が肩甲骨にぶつかってしまうインピンジメント症候群(impingement syndrome)が生じます。もともと肩甲骨と上腕骨の間にはある程度のスペースがあって、肩を上げる際に肩甲骨が動くことによってこのスペースを維持しているのです。しかし、肩甲骨の動きが妨げられると、このスペースが減少し、上腕骨と肩甲骨がぶつかって肩の上がりが制限されます。これが繰り返し生じると、肩関節にある柔らかい組織を傷つけて炎症を誘発するのです。

    Guminaらは、ねこ背になると、このスペースが減少することを明らかにし、Hebertらは、前かがみで肩を上げると、70-80度でこのスペースが減少し、インピンジメント症候群を誘発しやすいことを指摘しています(Fig.7)。

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(Fig.7:Hebert, L.J, 2003より改変) 

 

 ねこ背になると肩が上がらなくなる。これは、ねこ背になることによって、肩甲骨の動きが妨げられ、肩甲骨と上腕骨のスペースが減少することが原因です。また、このスペースの減少がインピンジメント症候群の誘発に寄与します。通常、日常生活に必要な肩の角度は120度と言われています。ねこ背の場合、肩を70-80度上げるだけでこのスペースが減少するため、日常生活で繰り返し肩を使用することによって、炎症や痛みを引き起こすリスクが高いと考えられているのです(Fig. 8)。

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 (Fg.8:ねこ背と肩関節フローチャート

 

 ねこ背になると肩が上がらなくなったり、痛みがでやすくなったります。予防するためには、肩甲骨の柔軟性を保つと同時に、肩甲骨の動きに関する筋力を維持することも重要でしょう。また肩が痛くなったりしたときは、姿勢が悪くなってないか、ねこ背になってないか確認しても良いかもしれません。

 いつまでも気持ちよく、「うーーん!」と伸びができる体でいたいですね。

 

 

ねこ背シリーズ 

ねこ背シリーズ①:ねこ背になると歩き方も変わる?

ねこ背シリーズ②:ねこ背になると生活がつまらなくなる?

ねこ背シリーズ③:「背が低くなったんじゃない?」と言われた要注意!

ねこ背シリーズ④:ねこ背になると転倒しやすくなる 〜大規模研究による検証〜

ねこ背シリーズ⑤:ねこ背になると転倒しやすくなる 〜本当の犯人は?〜

ねこ背シリーズ⑥:ねこ背になると転倒しやすくなる 〜腰がまっすぐになると…〜

ねこ背シリーズ⑦:自分でねこ背を計る方法(前編:科学的根拠の確認)

ねこ背シリーズ⑧:自分でねこ背を計る方法(後編:C7PL2.0をやってみよう!)

ねこ背シリーズ⑨:ねこ背と骨盤の代償運動を理解しよう

ねこ背シリーズ⑩:なぜ、ねこ背になるのか?

ねこ背シリーズ⑪:ねこ背の原因は背筋の霜降り化?

ねこ背シリーズ⑫:ハイヒールを履くとねこ背になる?

ねこ背シリーズ⑬:ねこ背と柔軟性 〜腰椎の柔らかさが大事〜

ねこ背シリーズ⑭:ねこ背になると肩が上がらなくなる?

ねこ背シリーズ⑮:座る姿勢がねこ背の原因になる?

 

Reference

Shiro Imagama. et al (2014). Impact of spinal alignment and back muscle strength on shoulder range of motion in middle-aged and elderly people in a prospective cohort study. Eur Spine J  23:1414–1419

Ludewig, P.M., Reynolds, J.F., 2009. The association of scapular kinematics and glenohumeral joint pathologies. J. Orthop. Sports Phys. Ther. 39, 90e104.

Keisuke Matsuki, et al. (2011) In vivo 3-dimensional analysis of scapular kinematics: comparison of dominant and nondominant shoulders. J Shoulder Elbow Surg (2011) 20, 659-665

Margaret A, et al. (2003) Effect of sitting posture on 3-dimensional scapular kinematics measured by skin-mounted electromagnetic tracking sensors. Arch Phys Med Rehabil Vol 84, 563-568

Gumina, S., Di Giorgio, G., Postacchini, F., Postacchini, R., 2008. Subacromial space in adult patients with thoracic hyperkyphosis and in healthy volunteers. Chi. degli organi di mov. 91, 93e96.

Hebert, L.J., Moffet, H., Dufour, M., Moisan, C., 2003. Acromio-humeral distance in a seated position in persons with impingement syndrome. J. Magn. Reson. Imag. 18, 72e79. 

 

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