リハビリmemo

理学療法士・トレーナーによる筋トレやダイエットについての最新の研究報告を紹介するブログ

残念ながら、ストレッチにダイエットの効果はありません


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 「ストレッチはダイエットに有効である!」というのは本当でしょうか?

 

 僕が調べた範囲では、静的ストレッチとダイエットの関係について研究した報告は見当たりませんでした。なので、いくつかの知見をもとに、ストレッチがダイエットに寄与する可能性について論じてみようと思います。

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 まずはダイエットの基本を簡単に確認しましょう。ダイエットというのは以下の不等式が成り立つときに達成されます。

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 食事量(摂取エネルギー量)を減らさずに痩せるためには、1日の消費エネルギー量を増やすしかありません。消費エネルギー量は以下の式で計算されます。

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 つまり、痩せるためには基礎代謝を上げるか、身体活動レベルを上げるしかないわけですね。

 

 ストレッチとダイエットでググってみると、ストレッチがダイエットに有効である根拠を「ストレッチが基礎代謝を上げるため」と書かれています。ストレッチすることで基礎代謝が上がり、1日の消費エネルギー量が増大することによって痩せるということです。基礎代謝とは、生命維持のためのエネルギーであり、安静にしていても使用されるエネルギー消費のことです。

 

 では、本当にストレッチによって基礎代謝があがるのでしょうか?ストレッチが基礎代謝を上げる根拠となっている仮説を挙げながら検証してみましょう。



◆ 仮説①:ストレッチにより筋肉の血行がよくなり酸素の取り込み量が増えることで基礎代謝が上がる

 

 確かに、ストレッチングを行うことによって血行は増加します。実は、ストレッチング中、筋肉内の血流量は減少するのです。これはストレッチによって血管が伸ばされること(Poole DC, 1997)、筋肉の内圧が上昇すること(Ameredes BT, 1997)から血管の内腔が減少し、血管抵抗が上昇するために生じます。この一時的な血流量の減少がその後の血流量の増加に寄与します。ホースを手でしばらく握って、いっきに手を離すと水がドバっとでる感じですね。

 

 しかし、この血流量の増加も一時的なものになります。

 

 Nagasawaらは、30秒間のストレッチング後、血流量ならびに筋酸素飽和度(酸素の取り込みの指標)は増加するが、その持続時間は1分以内であることを示しています(Nagasawa T, 2011)。つまり、ストレッチング後、筋肉の血行も酸素を取り込む量も増加するのですが、1分間程度でもとに戻るということです。ホースを握った手を離しても、ドバっと出るのは一瞬で、すぐにもとの水量に戻るのと同じですね。

 

 これらの報告から、この一時的な血流量の増加や筋酸素飽和度の増加のみでは、基礎代謝の増加に寄与する可能性は低いと推察されます。よって、ストレッチングにより筋肉の血行がよくなり酸素の取り込み量が増えることで基礎代謝がアップするという仮説は棄却されます。



◆ 仮説②:ストレッチは副交感神経を優位にし、内臓の働きを高めるため基礎代謝がアップする

 

 基礎代謝の構成は、概ね内臓40%、脳20%、筋肉20%、その他20%から成ります。効率的に基礎代謝を上げるためには、割合が最も高い内臓の活動を高めることが有効かもしれません。ストレッチングによって内臓の活動を司る自律神経である副交感神経を高める効果が示されれば、ストレッチングが基礎代謝を上げる根拠になります。

 

 これに対してCoiらは、下腿三頭筋のストレッチングを行った結果、筋交感神経活動および心拍数、血圧が一過性に増加したことから、ストレッチングは副交感神経ではなく交感神経を優位にすることを報告しています(Coi J, 2006)。この報告により、ストレッチングが副交感神経を介した内臓の活動に寄与する可能性は低いということが推測されます。よって、ストレッチは副交感神経を優位にし、内臓の働きを高めるために基礎代謝がアップするという仮説は棄却されます。

 

 話は異なりますが、ストレッチングが交感神経を優位にするのであれば、就寝前のストレッチングは眠りを妨げる可能性があります。自律神経の視点で言えは、ストレッチングは副交感神経から交感神経に切り替わる朝に行うことが効果的かもしれませんね。

 

 以上から、残念ですが、ストレッチングによって筋肉や内臓の基礎代謝を高めるという仮説は否定されてしまうでしょう。ストレッチングによって基礎代謝は上がらないという結論になります。 

 

 それでは、消費エネルギー量を規定するもう一つの要素である身体活動レベルはストレッチによって高めることができるのでしょうか?これも仮説を挙げながら検証してみましょう。



◆ 仮説③:ストレッチによって身体が柔らかくなると活動量が増える

 

 ストレッチングが日常生活の身体活動量に与える影響について検討した研究報告は見当たりませんでした。しかし、以前、紹介したようにストレッチングが歩行速度を高める効果は報告されています。

ストレッチは高齢者の歩行能力を高める

 

 紹介している報告は高齢者が対象になっていますが、股関節、足関節のストレッチングを行うと即時的に歩行速度が0.5km/h程度、増加することを示しています(Cristopoliski F, 2009)。

 

 仮に30歳の若年者(体重60kg)であるAさんを対象として、1時間のウォーキングを行う際のストレッチングの影響を検討してみましょう。ストレッチングによって歩行速度が4.0km/hから4.5km/hに増加したと仮定し、消費エネルギー量の変化を算出してみます。

 

 身体活動量はメッツ(Metabolic equivalents:METs)で表すことができます。メッツとは身体活動を行ったときに安静状態の何倍のエネルギー消費をしているかを表しています。歩行速度4.0km/hは3.0メッツであり、4.5km/hでは3.5メッツとなります(国立健康・栄養研究所資料)。これを以下の式に当てはめ、消費エネルギー量にてその差を算出すると31kcalとなります。

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 Aさんの1日の推定消費エネルギー量は身体活動レベルを「ふつう」とすると約2677kcalです。そのため31kcalの増加というのは推定消費エネルギー量の1.16%の増加となります。この増加をどのように判断するかにもよりますが、日頃から習慣的にウォーキングなどを行っている場合、ストレッチングにより身体活動量は他の日常生活の活動量を加味してもわずかな増加に留まると言えそうです。また、ストレッチング自体も1時間行うと80kcalほどの消費エネルギー量になります(Aさんの場合)。

 

 以上から、ストレッチングを行うことで身体活動量はわずかに増加することがわかりました。よって、ストレッチにより身体が柔らかくなると活動量が増えるという仮説は棄却されませんが、その影響度は小さいという結論になります。

 

  ストレッチがダイエットに有効であるという仮説について検討しました。まとめますと以下の結論に至ります。

 

・ストレッチは基礎代謝を上げない。

身体活動レベルが普通から高い(移動や立つことが多い仕事していたり、スポーツ習慣がある)場合は、身体活動によるエネルギー消費を高める効果が少なからずある。

・逆に言うと、身体活動レベルが低い(生活のほとんどを座って過ごす)場合には、ストレッチによるダイエット効果はほとんどない。

 

 ストレッチ自体にダイエットの効果はありません。やはり、ストレッチと運動を組み合わせることで効率的に消費エネルギー量を高めることがダイエットへの近道かもしれませんね。

 

 

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◆ ストレッチの科学シリーズ

ストレッチの科学①:ストレッチはパフォーマンスを低下させる(前編)

ストレッチの科学②:ストレッチでパフォーマンスを低下させない方法 

ストレッチの科学③:効率的で効果的なストレッチの時間と回数 

ストレッチの科学④:ストレッチは毎日やらなくてもいいんです

ストレッチの科学⑤:ストレッチはいつするのが効果的か? 

ストレッチの科学⑥:ストレッチは高齢者の歩行能力を高める

ストレッチの科学⑦:ストレッチの効果はどのくらい持続するのか?~即時効果編~ 

ストレッチの科学⑧:ストレッチの効果はどのくらい持続するのか?〜習慣的な効果〜

ストレッチの科学⑨:ストレッチのメカニズム その1

ストレッチの科学⑩:ストレッチのメカニズム その2

ストレッチの科学⑪:ストレッチにダイエットの効果はありません  

ストレッチの科学⑫:ストレッチのウソ?ホント? 〜まとめ〜

 

 

◆ 参考文献

Poole DC, et al. In vivo microvascular structural and functional consequences of muscle length changes. Am J Physiol. 1997; 272; 2107-14.

Ameredes BT, et al. Regional intramuscular pressure development and fatigue in the canine gastrocnemius muscle in situ. J Appl Physiol 1997 ; 83 : 1867-1876.

Nagasawa T, et al. Effects of static stretching for diŠerent durations on muscle oxygen saturation and muscle blood flow in the stretched muscles. Japan J. Phys. Educ. Hlth. Sport Sci. 56: 423433, December, 2011

Cui J, et al. Muscle sympathetic never activity responses to dynamic passive muscle stretch in humans. J Physiol. 2006 15: 625-34.  

Cristopoliski F, et al. (2009) Stretching exercise program improves gait in the elderly. Gerontology. 55 :614-20