リハビリmemo

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肩関節の外旋筋力の評価によって腱板断裂の所見が予測できる(論文紹介)


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 徒手筋力評価によって、腱板断裂の所見(断裂サイズや腱の脂肪浸潤)を予測することは出来るのでしょうか?

 

 今回は、カナダ・サニーブルックス健康科学センターのRazmjouらの肩の外旋筋力と腱板断裂の所見との関係性を調査した報告をご紹介します。

 

 腱板断裂における外旋筋力の評価は、1980年代に記述されたイギリスの整形外科医Jamesによる外旋0度での等尺性収縮で行う方法が基本となっています。この肢位は他の筋や靭帯、関節包の影響を受けないことから、棘上筋や棘下筋の腱炎や断裂の評価が行いやすいことが利点とされています(Cyriax J. 1982)。

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 1990年になるとNeerらは別の外旋筋力の評価方法を報告しました。Neerらが提唱する方法は外旋45度で等尺性収縮を行う検査です。被験者に45度の外旋位で等尺性収縮をさせ、徒手抵抗に抗することができない場合は棘上筋や棘下筋の機能不全が予測されました(Neer C. 1990)。

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 しかし、ふたつの肢位(外旋0度、外旋45度)での筋力評価が腱板断裂の所見を示す妥当性は調査されていませんでした。

 

 そこで、Razmjouらは外旋筋力の評価と腱板断裂の所見との関係性を調査したのです。



2017年7月の雑誌J Shoulder Elbow Surgより

www.ncbi.nlm.nih.gov

 

 対象は手術前の腱板断裂患者85名としました。

 

 対象者は手術前に外旋0度と45度のふたつの肢位で徒手筋力検査(MMT)を受けました。MMTはNormal(5/5)、Good(4/5)、Fair以下(1-3/5)に分類されました。また筋力を数値化するため、ハンドヘルドダイナモメーターによる計測も行われました。これらの筋力評価は等尺性収縮により行っています。

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Fig.1:Razmjou H, 2017より筆者作成

 

 腱板断裂の所見は、棘上筋と棘下筋それぞれの手術所見(断裂サイズ、断裂形態、腱の質、手術による修復タイプ)とMRI所見(腱の後退、脂肪浸潤)が計測されました。

 

 得られた結果から、外旋筋力と腱板断裂の所見の関係性について、ROC曲線の面積(AUROC)を用いて分析しました。AUROCは縦軸に陽性率(感度)、横軸に偽陽性率(1-特異度)をとってプロットされ、AUROCが1に近いほど診断能力が高いといえます。Razmjouらは、AUROC0.8以上を優れた精度としました。

 

 AUROCの分析の結果、外旋筋力の評価によって診断精度が高い腱板断裂の所見は以下のように示されました。

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Fig.2:Razmjou H, 2017より筆者作成

 

 外旋0度、外旋45度の筋力評価により、腱板断裂のサイズ、手術時の腱板修復タイプ、断裂した腱板の後退の程度、棘下筋の完全断裂、棘下筋の脂肪浸潤を予測することが可能であると示唆されました。

 

 また、外旋45度での筋力評価は高い診断精度をもっていることがわかりました。特に棘下筋の断裂状態、脂肪浸潤の状態の診断精度が高いことが示されました。

 

 そして、筋力評価のカットオフは「MMTのFair(3/5)」となりました。

 

 これは、被験者に外旋0度または外旋45度の肢位で徒手抵抗による等尺性収縮を行わせ、抵抗に抗することができない場合に腱板断裂の所見が予測されることを意味しています。

 

 外旋45度の筋力評価により、棘下筋の腱板断裂の所見の診断精度が高い理由について、Razmjouらは外旋45度の肢位では棘下筋が短縮するため、より収縮不全が明らかになりやすいと推察しています。そして今回の結果から、外旋45度の筋力評価がもっとも腱板断裂の所見を予測する精度の高い評価方法であると結論づけています。

 

 

 Razmjouらの報告は、外旋の筋力評価が単に筋力を測るものだけでなく、腱板断裂の状態を予測できるツールになるということを示した価値のある知見と思われます。個人的には術後の腱板の回復状況(特に棘下筋)との関連性も知りたいところです。



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References

Razmjou H, et al. Accuracy of infraspinatus isometric testing in predicting tear size and tendon reparability: comparison with imaging and arthroscopy. J Shoulder Elbow Surg. 2017 Aug;26(8):1390-1398.

Cyriax J. Textbook of orthopaedic medicine: diagnosis of soft tissue lesions. 8th ed. London: Bailliere-Tindall; 1982.

Neer C. Anatomy of shoulder reconstruction. In: Neer CS, editor. Shoulder reconstruction. Philadelphia: WB Saunders; 1990. p. 1-39.