リハビリmemo

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脳卒中後の歩行能力を予測する有効な評価方法とは?


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 脳卒中後の歩行能力に対して、どのような評価方法を用いるのがもっとも有効なのでしょうか?

 

 この疑問の答えとして、とても興味深い報告が雑誌Stokeの2017年1月号に掲載されていたので、ご紹介しながら考えてみたいと思います。

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 脳卒中後の歩行能力の低下は、生活範囲の狭小化を招き、QOL(Quality of life)を大きく損ねさせます(Perry J, 1995)。家に閉じこもり、買い物にも行けず、友人にも会えないというのは誰しも辛いことです。

 

 そのため、歩行能力を改善させることはリハビリテーションの主な目的であり、より有効な評価、治療の検討が日々、なされています。

 

 そして現在、もっとも使用されている歩行能力の評価方法が「歩行速度」です。

 

 1995年、Perryらは、歩行速度により屋内の日常生活や屋外での歩行能力を細かに分類した研究を報告しました。歩行速度が0.4m/s以下では外出は困難であること、0.4-0.8m/sでは屋外歩行は可能ですが、近所のお店などに制限されること、0.8m/s位以上であれば不自由なく外出することができることを示しました(Perry J, 1995)。

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Fig 1:Perry J, 1995より引用改変

 

 さらにSchmidらは、Perryらの分類をもとに、歩行速度を改善させることが脳卒中後のQOLを高めることを明らかにしました(Schmid A, 2007)。

脳卒中後の歩行速度とQOL

 

 このような背景から、現在では「歩行速度」が脳卒中後の歩行能力に関する研究の主要アウトカム(Primary outcome)であり、臨床の主要な評価指標として用いられるようになっているのです。

 

 しかし、これに疑義を唱えた研究者がいます。アメリカ・クラークソン大学のFulkらです。Fulkらは、雑誌Strokeの2017年1月号に論拠なる研究結果を掲載しました。

 

 Fulkらはこのように述べています。

 

 「脳卒中後の歩行能力は、歩行速度ではなく、歩行耐久性、バランス能力、そして運動機能を合わせて評価するべきである」



◆ 歩行能力=6分間歩行+BBS+Fugel Meyer?

 

 それでは、Fulkらの論拠を見ていきましょう。

www.ncbi.nlm.nih.gov

 

 Fulkらは、過去に行われた研究であるLEAPS(Duncan PW, 2011)とFASTEST(Kluding PM, 2013)のデータをもとに二次的な横断研究を行いました。

*LEAPS(Locomotor Experience Applied Post-Stroke)、FASTEST(Functional Ambulation: Standard Treatment vs Electrical Stimulation)

 

 対象は慢性期の脳卒中患者441名であり、Perryらが行った歩行速度による歩行能力の分類ではなく、Tudor-Lockeらが提唱する歩数による分類(Tudor-Locke C, 2004, 2008, 2009)を用いて、歩行能力を4つのグループに分けました。

 

 Fulkらは、Tudor-Lockeらの分類を採用した理由として、電子活動計を用いて、実際の歩数と活動範囲を測定しており、歩行速度と外出のアンケートをもとにしたPerryらの研究よりも「よりリアルな歩行活動」を示しているためと述べています。

 

 歩行能力の分類は以下のようになりました。

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Fig.2:Fulk GD, 2017より引用改変

 

 これらの4つの分類のもと、6つのアウトカムにより歩行能力を示す精度の高い評価方法をROC解析にて検証しました。

 

アウトカム

・快適歩行速度(CGS:Comfortable gait speed)

・最大歩行速度(MGS:Maximam gait speed)

・6分間歩行テスト(6MWT:6-minute walking test)

・バランススケール(BBS:Berg balance scale)

・運動機能:FM(Fugl Meyer)

・運動機能:SIS(Stroke impact scale)

 

 ROC解析の結果より、歩行能力の予測・診断能を示すAUC(Area under the curve)がもっとも高い値を示したのは、6分間歩行とBBSと運動機能(FM)を合わせた場合(AUC0.836)でした。この組み合わせの感度・特異度はそれぞれ70%、85%であり、他のアウトカムよりも高い値を示しました。

 

 次いでAUCの高い値は、6分間歩行、BBS、運動機能(FM)、快適歩行速度の順でした。

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Fig.3:Fulk GD, 2017より引用

 

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Fig.4:Fulk GD, 2017より引用

 

 この結果から、脳卒中後の歩行能力を表すもっとも有効な評価方法は、6分間歩行とBBSと運動機能(FM)を合わせて解釈することであることがわかったのです。

 

 また、単一の評価方法では、快適歩行速度よりも6分間歩行テストのほうが評価としての精度が高いことも明らかになりました。6分間歩行のカットオフ値としては、屋内歩行(<205m)、制限のある屋外歩行(205-228m)、制限のない屋外歩行(≧228m)としています。

 

 さらに、快適歩行速度において、Perryらの提唱する歩行速度が過大評価している可能性も示されました。今回の研究結果で得られた快適歩行速度による歩行能力を予測する値がPerryらの値より厳しいものだったのです。逆に言うと、Perryらの値は「あまい」ということになります。

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Fig.5:Fulk GD, 2017をもとに筆者作成

 

 これらの結果から、脳卒中後の歩行能力を予測、判断するもっとも有効な評価方法は、6分間歩行+BBS+Fugel Meyerの組み合わせであることが示唆されました。単独の評価では快適歩行速度よりも6分間歩行がもっとも有効であることもわかりました。

 

 歩行能力と歩行速度に関する研究は多くありますが、そのアウトカムに歩行耐久性を含めたものはありません。今回の研究では、初めて歩行速度よりも歩行耐久性が脳卒中後の歩行能力を示す評価方法として優れていることを明らかにしたのです。

 

 Fulkらは、臨床では、歩行速度よりも6分間歩行のような歩行耐久性を主に評価し、さらにはバランス評価、運動機能を合わせることで、より歩行能力の評価精度を高めることができると述べています。 

 

 そして最後に「脳卒中後の歩行能力は、歩行速度ではなく、歩行耐久性、バランス能力、そして運動機能を合わせて評価するべきである」と結論づけているのです。



◆ Fulkらの報告をどのように解釈すればいいのか?

 

 脳卒中後の歩行能力=6分間歩行+BBS+運動機能(FM)というFulkの研究結果は臨床上、とても参考になります。しかし、論文を読んでいて、その結果以上に考察がとても印象的でした。

 

 Fulkらは、とても興味深い結果を示したのですが、根本的には歩行能力を詳細に予測、判断するのは難しいと述べています。その理由としてShumway-Cookらの報告を引用し、脳卒中後の歩行能力は、個人の運動機能と環境、移動における文脈的な因子を含む複合的な行動であるためとしています(Shumway-Cook A, 2002)。

 

 また、近年の報告された、脳卒中後の外出には、バランスに関する自己効力感(Schmid AA, 2012)や転倒恐怖感などの心理的な因子も大きく影響する(Danks KA, 2016)ことも引用しています。

 

 これらのことから、歩行速度か?6分間歩行か?という二元論ではなく、対象となる患者さんの屋内環境、外出環境、心理面などの評価も合わせて、必要なる評価項目を包括的に実施することの必要性を論じているのです。

 

 

 個人的には、歩行能力の評価では、患者さんのニーズや価値観にもとづき、歩行能力に関する各評価方法の知見から必要となる評価項目を取捨選択し、環境に合わせた介入による仮説検証を行い、患者さんの満足度を高めることが、私たちセラピストに求められていることと感じています。

 

 そのためにもFulkらの報告のような歩行能力と評価方法に関する知見を多く知っておくことが必要なのでしょう。

 

 

References

Perry J, et al. Classification of walking handicap in the stroke population. Stroke. 1995 Jun;26(6):982-9.

Schmid A, et al. Improvements in speed-based gait classifications are meaningful. Stroke. 2007 Jul;38(7):2096-100.

Fulk GD, et al. Predicting Home and Community Walking Activity Post-Stroke. Stroke. 2017 Jan 5. pii: STROKEAHA.116.015309.

Duncan PW, et al. Body-weight-supported treadmill rehabilitation after stroke. N Engl J Med. 2011 May 26;364(21):2026-36.

Kluding PM, et al. Foot drop stimulation versus ankle foot orthosis after stroke: 30-week outcomes. Stroke. 2013 Jun;44(6):1660-9.

Tudor-Locke C, et al. How many steps/day are enough? Preliminary pedometer indices for public health. Sports Med. 2004;34(1):1-8.

Tudor-Locke C, et al. Accelerometer-determined steps per day in US adults. Med Sci Sports Exerc. 2009 Jul;41(7):1384-91.

Tudor-Locke C, et al. Revisiting "how many steps are enough?". Med Sci Sports Exerc. 2008 Jul;40(7 Suppl):S537-43.

Shumway-Cook A, et al. Environmental demands associated with community mobility in older adults with and without mobility disabilities. Phys Ther. 2002 Jul;82(7):670-81.

Schmid AA, et al. Balance and balance self-efficacy are associated with activity and participation after stroke: a cross-sectional study in people with chronic stroke. Arch Phys Med Rehabil. 2012 Jun;93(6):1101-7.

Danks KA, et al. Relationship Between Walking Capacity, Biopsychosocial Factors, Self-efficacy, and Walking Activity in Persons Poststroke. J Neurol Phys Ther. 2016 Oct;40(4):232-8.