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筋トレの新常識クイズ!最新エビデンスで知識をアップデートしよう(前編)


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 このグラフは、筋トレに関する研究報告の数が年々どのように増えてきたかを示しています。2010年ごろから少しずつ増え始め、そこから加速度的に増加。とくに2021年以降は急激に増え、その数は過去の10倍以上にもなっています。

 

 そして2025年現在も、新しい研究が次々と報告され、筋トレに関する最新のエビデンスが日々更新されています。私たちが知っている筋トレの常識は、今も変わり続けているのです。

 

 そこで注目されるのが、私たちが持っている筋トレの常識と、最新の研究によって明らかになった「新常識」とのギャップです。

 

 このギャップを解明するために、2025年、クラーゲンフルト大学のUngerらが筋トレの新常識に関する14のクイズを作成し、ジムに通うトレーニーを対象に調査を行いました(Unger A, 2025)。

 

 今回は、その筋トレの新常識クイズから7つの内容をご紹介し、最新のエビデンスを確認しながら、筋トレの知識をアップデートしていきましょう。

 

 

Table of contents




◆ まずはクイズをやってみよう!

 

 さっそく、筋トレの「新常識」に関するクイズに挑戦してみましょう。次の7つの質問に「はい」「いいえ」で答えてみてください。

 

① タンパク質の摂取は、筋肥大や筋力増強の効果を高める?

 

② タンパク質の摂取タイミングは、筋肥大の効果に影響を与える?

 

③ 動物性タンパク質は、植物性タンパク質よりも筋肥大や筋力増強に効果的?

 

クレアチンの摂取は、筋力増強の効果を高める?

 

⑤ 炭水化物の摂取は、即時的に筋トレのパフォーマンスを向上させる?

 

マグネシウムの摂取は、筋肉のこむら返りを防ぐ?

 

⑦ 定期的な筋トレは柔軟性を低下させる?

 

 それでは、最新のエビデンスをもとに、それぞれの答えを見ていきましょう!



◆ タンパク質の摂取は、筋肥大や筋力増強の効果を高める?

 

 この問いの答えは「はい」です。

 

 「そんなの当たり前では?」と思うかもしれませんが、タンパク質の摂取が筋トレの効果を確実に高めることを、明確なエビデンスとして示したのは2018年のマクマスター大学によるメタアナリシスです。

*メタアナリシスとは、これまでの研究結果を統計的手法により全体としてどのような傾向があるかを解析するエビデンスレベルがもっとも高い研究デザイン。

 

 マクマスター大学のMortonらは、49のランダム化比較試験を統合し、タンパク質の摂取が筋トレの効果に与える影響を分析しました。その結果、最大筋力が平均2.49kg向上し、筋肉量(除脂肪体重)は0.30kg増加することが確認されました。

 

 また、タンパク質摂取の効果には上限があり、1日に体重×1.62gを超えても、それ以上の筋肥大効果は得られにくいことも示唆されています。さらに、年齢が上がるとタンパク質摂取の効果は低下しやすく、トレーニング経験が長いほど効果が高くなる傾向も確認されました。

 

 適切な量のタンパク質摂取は、筋肥大や筋力増強に有効であり、とくに1日に体重×1.62g程度の摂取が最適であることが示唆されています(Morton RW, 2018)。

 

 その後、2022年にNunesら(同じくマクマスター大学)が、研究数を74に増やしたメタアナリシスを行いました。その結果、筋トレによる筋肉量の増加が確認され、特に1.6g/kg/日以上のタンパク質を摂取した場合に顕著な増加が見られたことが報告されました。また、下半身の筋力も向上し、特に65歳未満の若年層で1.6g/kg/日以上の摂取が有効であることが示されています(Nunes EA, 2022)。

 

 これらのメタアナリシスの結果から、タンパク質の摂取が筋肥大や筋力増強の効果を高めることは、科学的なエビデンスとして確立されているのです。

 

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◆ タンパク質の摂取タイミングは、筋肥大の効果に影響を与える?

 

 この問いの答えは「いいえ」です。

 

 タンパク質の摂取タイミングについては、これまで筋トレ前vs後や夜間の摂取などの議論が続いてきましたが、2020年以降の最新のメタアナリシスでは摂取タイミングによる効果に差はないことが報告されています。

 

 2020年、ユニバーシティ・カレッジ・ダブリンのWirthらは、65のランダム化比較試験を統合し、タンパク質の摂取タイミングが筋肉量や筋力の向上に与える影響を分析しました。

 

 その結果、タンパク質の摂取は筋肉量(除脂肪体重)の増加(成人+0.62kg、高齢者+0.46kg)には有効でしたが、摂取タイミングによる明確な差は確認されませんでした。また、筋力増強についても、摂取タイミングの違いによる有意な影響は認められませんでした。

 

 さらに、個別の研究でも、筋トレ前後のタンパク質摂取が筋肥大や筋力増強に特別な影響を与えるという証拠は乏しく、1日の総タンパク質摂取量のほうが重要であると結論づけられています(Wirth J, 2020)。

 

 2023年には、華中科技大学のZhouらが、116のランダム化比較試験を統合したネットワークメタアナリシスを行いました。その結果、タンパク質の摂取自体は筋肥大や筋力増強に有効であるものの、トレーニング前後や夜間といった特定の摂取タイミングによる影響は認められませんでした(Zhou HH, 2023)。

 

 これらのメタアナリシスの結果から、タンパク質の摂取タイミングが筋肥大に与える影響は限定的であり、筋トレの効果を最大化するためには、摂取タイミングよりも1日の総タンパク質摂取量を適切に確保(1日に体重×1.6g程度)することが重要であると考えられます。

 

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◆ 動物性タンパク質は、植物性タンパク質よりも筋肥大や筋力増強に効果的?

 

 この問いの答えは「いいえ」です。

 

 動物性タンパク質と植物性タンパク質の議論も長く続いてきましたが、近年の研究では、その差はほとんどないことが示されています。

 

 2018年、ポイント・ロマ・ナザレン大学のMessinaらは9つのランダム化比較試験を統合し、動物性タンパク質(ホエイ、牛肉、乳製品など)と植物性タンパク質(大豆)が筋肥大や筋力増強に与える影響を分析しました。その結果、両者の間に有意な差は認められず、植物性タンパク質でも筋肉量や筋力を向上させる効果があることが示されました(Messina M, 2018)。

 

 2021年、Limらは18のランダム化比較試験を統合し、動物性タンパクと植物性タンパクによる筋肥大・筋力増強の効果を分析しました。その結果、動物性タンパク質の方が筋肉量の増加にわずかに有利(+0.22kg)ではあるものの、その差は統計的にほぼ無視できるレベルであり、また、筋力増強の効果は、動物性・植物性タンパク質の間に明確な差は認められませんでした(Lim MT, 2021)。

 

 これらのメタアナリシスの結果から、動物性タンパク質も植物性タンパク質も、必須アミノ酸が十分に供給されれば、肥大を促進することができることが示唆されているのです。



クレアチンの摂取は、筋力増強の効果を高める?

 

 この問いの答えは「はい」です。

 

 クレアチンによる筋力増強の効果については、多くの研究報告があり、現在では、その効果のエビデンスが確立されています。

 

 2024年、北京体育大学のWangらは23のランダム化比較試験を統合し、クレアチンの摂取が筋トレによる筋力増強の効果に与える影響を分析しました。その結果、クレアチンを摂取したグループは、摂取しないグループと比較して、上半身の筋力が平均4.43kg、下半身の筋力が11.35kg増強することが示されました。

 

 また、このようなクレアチンの筋力増強効果は男性に顕著であることが示されました。男性では上半身の筋力が平均4.95kg、下半身の筋力が11.68kg増加しましたが、女性では有意な筋力増強は確認されませんでした。これは、女性の筋肉内のクレアチン濃度がもともと高いため、クレアチン摂取による影響が小さい可能性があると考えられています。

 

 クレアチン摂取による筋力増強のメカニズムとしては、以下の要因が挙げられています。

 

・筋肉内の総クレアチン量の増加により、ATPの再合成が促進され、高強度トレーニングの持続力が向上する。

・筋タンパク質の合成を促進し、筋肥大を助ける。

・筋細胞内の水分保持が増加し、それが筋成長のシグナルとなる可能性がある。

 

 さらに、クレアチンの摂取量として、1日2~10gまたは体重1kgあたり0.03~0.22gが推奨され、4~12週間の摂取で効果が得られるとされています​。

 

 これらのメタアナリシスの結果から、クレアチンの摂取は筋トレによる筋力増強の効果を高めることが科学的に証明されており、適切な量を摂取することで、より効果的な筋力向上が期待できると考えられます。

 

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◆ 炭水化物の摂取は、即時的に筋トレのパフォーマンスを向上させる?

 

 この問いの答えは「いいえ」です。

 

 筋トレの前に炭水化物を摂取するとトレーニングのパフォーマンスが向上すると良く言われていますが、最新のエビデンスでは、その効果はある条件下でのみ見られることが示されています。

 

 2022年、ISRFのHenselmansらは49のランダム化比較試験を統合し、炭水化物の摂取が筋トレのパフォーマンスに与える影響を分析しました。その結果、炭水化物の摂取がパフォーマンスを向上させた研究は6件のみで、大半の研究では有意な効果が認められませんでした。

 

 ただし、空腹時や1部位につき合計10セット以上のトレーニングでは、若干のパフォーマンス向上が見られる可能性があることが示唆されました​(Henselmans M, 2022)。

 

 2022年、オークランド工科大学のKingらは21のランダム化比較試験を統合し、炭水化物の摂取と筋トレパフォーマンスの関係を分析しました。その結果、炭水化物の摂取はトレーニングの総負荷量を増やす可能性があるものの、短時間のトレーニング(45分未満)ではほとんど影響がないことが示されました。また、十分なエネルギーを摂取している状態では、炭水化物の追加摂取による明確なメリットは確認されませんでした​。

 

 さらに、炭水化物の摂取量とパフォーマンス向上には明確な関係がなく、多く摂取すれば効果が高まるわけではないことも示されています。加えて、炭水化物摂取後のトレーニングでは血中乳酸値が上昇し、疲労回復に影響を与える可能性があることも報告されています​。

 

 これらの結果から、通常の食事を摂取している状態では、炭水化物の追加摂取が即時的に筋トレのパフォーマンスを向上させるとは言えません。ただし、空腹時や10セット以上のトレーニング、長時間(45分以上)のトレーニングの際には、炭水化物の摂取が一定の効果をもたらす可能性があるため、状況に応じて摂取を検討するのがよいでしょう。

 

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マグネシウムの摂取は、筋肉のこむら返りを防ぐ?

 

 この問いの答えは「いいえ」です。

 

 「マグネシウムサプリメントが筋肉のこむら返りを予防する」という謳い文句をよく見かけますが、これを明確に証明した科学的なエビデンスはありません。

 

 2020年、アルバータ大学のGarrisonらは11のランダム化比較試験を統合し、マグネシウムの摂取が筋肉のこむら返り(筋肉のけいれん)を予防または軽減する効果を分析しました。その結果、マグネシウムを摂取しても、こむら返りの頻度、持続時間、強度に有意な改善は見られませんでした​。

 

 とくに、高齢者(平均年齢61.6〜69.3歳)を対象とした5つの研究では、マグネシウムの摂取による効果がほとんど認められませんでした。週あたりのこむら返りの回数がわずかに減少したものの、実質的な効果は確認されませんでした。そのため、高齢者のこむら返りに対するマグネシウムの有効性は否定的な結果となりました​。

 

 また、運動による筋肉のこむら返りを防ぐ効果について調査したランダム化比較試験は見つかっておらず、運動時のこむら返り予防にマグネシウムが有効であるという科学的根拠はありません(Garrison SR, 2020)​。

 

 これらのメタ分析の結果から、マグネシウムの摂取が筋肉のこむら返りを防ぐ、または軽減する効果はほとんどなく、一般的な予防策として推奨できるエビデンスは乏しいと考えられています。



◆ 定期的な筋トレは柔軟性を低下させる?

 

 この問いの答えは「いいえ」です。

 

 「筋トレをすると体がかたくなる(柔軟性が低下する)」と考えられがちですが、最新のエビデンスでは、筋トレによってむしろ柔軟性が向上することが報告されています。

 

 2021年、ポルト大学のAfonsoらは11のランダム化比較試験を統合し、筋トレと静的ストレッチングが関節可動域(柔軟性)に与える影響を比較するメタアナリシスを行いました。その結果、筋トレは柔軟性を低下させるどころか、ストレッチングと同等の柔軟性の向上効果があることが示されました(Afonso J, 2021)。

 

 さらに2023年、ニューファンドランドメモリアル大学のAlizadehらのメタアナリシスでは、55のランダム化比較試験を統合し、筋トレが関節可動域(柔軟性)に与える影響を検証しました。その結果、筋トレは関節可動域を有意に向上させる効果があることが示されました​。

 

 また、筋トレとストレッチングの柔軟性向上効果に有意な差はなく、両者を組み合わせてもストレッチング単独と比較して明確な優位性は見られませんでした。特に、エキセントリックトレーニング(ネガティブ動作を伴うトレーニング)は、筋腱ユニットの適応を促し、柔軟性向上に寄与する可能性が高いと報告されています​。

 

 また、トレーニング未経験者は経験者よりも柔軟性向上の効果が大きいことが示されており、筋トレを取り入れることで初心者でも柔軟性を改善できる可能性が示唆されています​。

 

 一方で、自重トレーニングのみでは関節可動域の向上が見られなかったため、柔軟性を高めるためにはフリーウエイトやマシンを活用したトレーニングが有効であると考えられています(Alizadeh S, 2023)。

 

 これらの結果から、定期的な筋トレが柔軟性を低下させるというエビデンスはなく、むしろ適切な負荷を用いた筋トレは関節可動域を向上させる効果があることが示されているのです。




 以上で7つのクイズは終了です。どのくらい筋トレの新常識を知っていたでしょうか? 最新のエビデンスを知り、知識をアップデートすることで、より効果的なトレーニングにつなげていきましょう!

 

 次回は、残りの7つの筋トレ新常識クイズをご紹介していきます。

 

 

 

 

 

 

◆ 参考文献

 

Unger A, et al. Knowledge of gym goers on myths and truths in resistance training. Sci Rep. 2025 Jan 27;15(1):3401.

Morton RW, et al. A systematic review, meta-analysis and meta-regression of the effect of protein supplementation on resistance training-induced gains in muscle mass and strength in healthy adults. Br J Sports Med. 2018 Mar;52(6):376-384. 

Nunes EA, et al. Systematic review and meta-analysis of protein intake to support muscle mass and function in healthy adults. J Cachexia Sarcopenia Muscle. 2022 Apr;13(2):795-810. 

Wirth J, et al. The Role of Protein Intake and its Timing on Body Composition and Muscle Function in Healthy Adults: A Systematic Review and Meta-Analysis of Randomized Controlled Trials. J Nutr. 2020 Jun 1;150(6):1443-1460. 

Zhou HH, et al. Effects of Timing and Types of Protein Supplementation on Improving Muscle Mass, Strength, and Physical Performance in Adults Undergoing Resistance Training: A Network Meta-Analysis. Int J Sport Nutr Exerc Metab. 2023 Dec 1;34(1):54-64.

Messina M, et al. No Difference Between the Effects of Supplementing With Soy Protein Versus Animal Protein on Gains in Muscle Mass and Strength in Response to Resistance Exercise. Int J Sport Nutr Exerc Metab. 2018 Nov 1;28(6):674-685.

Lim MT, et al. Animal Protein versus Plant Protein in Supporting Lean Mass and Muscle Strength: A Systematic Review and Meta-Analysis of Randomized Controlled Trials. Nutrients. 2021 Feb 18;13(2):661. 

Wang Z, et al. Effects of Creatine Supplementation and Resistance Training on Muscle Strength Gains in Adults <50 Years of Age: A Systematic Review and Meta-Analysis. Nutrients. 2024 Oct 28;16(21):3665.

Henselmans M, et al. The Effect of Carbohydrate Intake on Strength and Resistance Training Performance: A Systematic Review. Nutrients. 2022 Feb 18;14(4):856.

King A, et al. The Ergogenic Effects of Acute Carbohydrate Feeding on Resistance Exercise Performance: A Systematic Review and Meta-analysis. Sports Med. 2022 Nov;52(11):2691-2712. 

Garrison SR, et al. Magnesium for skeletal muscle cramps. Cochrane Database Syst Rev. 2020 Sep 21;9(9):CD009402.

Afonso J, et al. Strength Training versus Stretching for Improving Range of Motion: A Systematic Review and Meta-Analysis. Healthcare (Basel). 2021 Apr 7;9(4):427. 

Alizadeh S, et al. Resistance Training Induces Improvements in Range of Motion: A Systematic Review and Meta-Analysis. Sports Med. 2023 Mar;53(3):707-722.