リハビリmemo

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腱板断裂術後の再断裂のリスクが15倍になる!? その指標とは?


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 今回は、雑誌Journal of Shoulder Elbow Surgeryの2016年9月号より、腱板断裂術後の再断裂を予測する指標についてご紹介します。簡易的な指標で、まだ日本ではあまり取り上げられていないので、研究や臨床で試してみるといいかもしれません。



◆ 腱板断裂の新しいリスク指標であるCSA

 

 2013年、チューリッヒ大学のMoorらは、新しい腱板断裂のリスク指標としてCritical Shoulder Angle(CSA)を発表しました。

 

 以前より、腱板断裂のリスクを示す代表的な指標としてGIとAIがありました。GIは関節窩の傾きの程度を示し、AIは肩峰の長さを表しています。腱板断裂のリスクは、それぞれ以下のように示すことができます。

 

GI:Glenoid inclination

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 肩甲骨の関節窩が上向きなほど腱板断裂のリスクが高くなります(Hughes RE, 2003)。

 

AI:Acromion index

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 肩峰が外側へ伸びているほど腱板断裂のリスクが高くなります(Nyffeler RW, 2006)。

 

 そして、この2つの指標を組み合わせたものがCritical Shoulder Angle(CSA)なのです。

 

 CSAは、関節窩の上辺と下辺を結んだ線と、肩峰外側縁のなす角度のことを言います。

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 CSAの角度が大きくなる要因は、関節窩の傾きが上向きになるか、肩峰の長さが長いか、あるいはその両方か、ということになります。そのため、GIやAI単独の指標よりも腱板断裂に高く寄与する指標であると期待されているのです(Moor BK, 2013)。

 

 近年の報告では、CSAが35度を超えると肩峰下と腱板との接触応力が強まることが明らかになっており(Gerber C, 2014)、35度以上のCSAは退行変性の腱板断裂の発症リスクと高い相関を認めることが示唆されています(Moor BK, 2014)。

 

 CSAは腱板断裂の発生機序である肩峰下の接触応力を反映しており、その計測の簡便さも合わせて、現在、整形外科の界隈でトピックスになっているのです。



◆ CSAで術後の再断裂のリスクを予測する

 

 このような背景のもと、2016年、ニューヨークにあるHospital for Special Surgery(通称HSS)のGarciaらは、CSAが肩峰下の接触応力を反映するのであれば、腱板断裂術後の再断裂のリスクの指標になるのではないか、と考え検証を行いました。

*HHSは整形外科領域で全米ランキング1位の病院

 

www.ncbi.nlm.nih.gov

 


 研究デザインは、後方視的研究(Retrospective study)です。

 

 対象は、鏡視下腱板修復術(ARCR)を受けた患者76名(平均年齢61.9歳)。全員が棘上筋の単独断裂です。

 

 まず術後6ヶ月後の再断裂の程度を超音波を用いて分類してみると、再断裂なし57名(74%)、部分的な再断裂11名(14.2%)、完全な再断裂8名(10.3%)でした。

 

 この分類にもとづいて、CSA、肩の機能回復を示すASES(American Shoulder and Elbow Surgeons score)を比較検討しました。

 

 CSAは再断裂なし34.3度、部分的な再断裂35.6度、完全な再断裂38.6度であり、完全な再断裂は再断裂なしに比べて有意にCSAが増加していることがわかりました。

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Fig.1:Garcia GH, 2016より引用改変

 

 またオッズ比では、CSAが36度より大きいと再断裂のリスクは3.3倍となり、38度を超えると再断裂のリスクは14.8倍にもなることが示されたのです。

 

 さらにCSAの角度の増加と、肩の機能回復を示すASESには負の相関関係が認められました。

 

 この結果から、Garciaらは、38度を超えるCSAは腱板断裂術後の再断裂の高いリスク指標になるととともに、CSAの増加は、肩の運動機能の回復を遅らせる予後指標としても有用であると示唆しています(Garcia GH, 2016)。

 

 Neerらは、肩峰またはその周囲の構造による肩峰下スペースで生じる接触応力が腱板障害の要因であると言います(Neer CS, 1972)。腱板断裂の保存療法や術後のリハビリテーションにおいても、肩峰下スペースを確保し、腱板への接触応力を軽減することが大きな目的になります(Seitz AL, 2011)。

 

 CSAが肩峰下の接触応力を反映し、退行変性による腱板断裂の予測指標になるだけでなく、術後の再断裂の予測指標にもなるというGarciaらの報告はとても興味深く、臨床的にも意味があるように思います。

 

 ちなみに、自分の病院でCSAが38度を超える症例を何例か見てみました。再断裂の有無は超音波所見がなかったためわかりませんが、確かに可動域の改善や腱板機能の回復が不十分なケースが多い印象でした。このような症例に対する介入方法についても検討していきたいですね。 



肩関節のしくみとリハビリテーション

肩リハビリ①:肩関節痛に対する適切な運動を導くためのアルゴリズム

肩リハビリ②:腱板断裂術後の再断裂のリスクが15倍になる指標とは?

肩リハビリ③:腱板断裂(損傷)の新しいリスク指標を知ろう

肩リハビリ④:腱板断裂(損傷)の発症アルゴリズムからリハビリを考えよう 

肩リハビリ⑤:肩甲骨の運動とその役割を正しく理解しよう

肩リハビリ⑥:肩甲骨のキネマティクスと小胸筋の関係を知っておこう

肩リハビリ⑦:新しい概念「Scapular dyskinesis」を知っておこう

肩リハビリ⑧:肩甲骨周囲筋の筋電図研究の不都合な真実 

肩リハビリ⑨:肩甲骨の運動異常(Scapular dyskinesis)を評価しよう 前編

肩リハビリ⑩:肩甲骨の運動異常(Scapular dyskinesis)を評価しよう 中編

肩リハビリ⑪:肩甲骨の運動異常(Scapular dyskinesis)を評価しよう 後編

肩リハビリ⑫:肩甲骨の運動パターンから肩甲骨周囲筋の筋活動を評価しよう

肩リハビリ⑬:肩甲骨のキネマティクスと姿勢との関係を知っておこう

肩リハビリ⑭:ヒトは投げるために肩を進化させてきた 前編

肩リハビリ⑮:ヒトは投げるために肩を進化させてきた 中編

肩リハビリ⑯:ヒトは投げるために肩を進化させてきた 後編

 

References

Hughes RE, et al. Glenoid inclination is associated with full-thickness rotator cuff tears. Clin Orthop Relat Res. 2003 Feb;(407):86-91.

Nyffeler RW, et al. Association of a large lateral extension of the acromion with rotator cuff tears. J Bone Joint Surg Am. 2006 Apr;88(4):800-5.

Moor BK, et al. Is there an association between the individual anatomy of the scapula and the development of rotator cuff tears or osteoarthritis of the glenohumeral joint?: A radiological study of the critical shoulder angle. Bone Joint J. 2013 Jul;95-B(7):935-41.

Moor BK, et al. Relationship of individual scapular anatomy and degenerative rotator cuff tears. J Shoulder Elbow Surg. 2014 Apr;23(4):536-41.

Gerber C, et al. Supraspinatus tendon load during abduction is dependent on the size of the critical shoulder angle: A biomechanical analysis. J Orthop Res. 2014 Jul;32(7):952-7.

Garcia GH, et al. Higher critical shoulder angle increases the risk of retear after rotator cuff repair. J Shoulder Elbow Surg. 2016 Sep 1. pii: S1058-2746(16)30236-1.

Neer CS. Anterior acromioplasty for the chronic impingement syndrome in the shoulder: a preliminary report. J Bone Joint Surg Am. 1972 Jan;54(1):41-50.

Seitz AL, et al. Mechanisms of rotator cuff tendinopathy: intrinsic, extrinsic, or both? Clin Biomech (Bristol, Avon). 2011 Jan;26(1):1-12.